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アズーリの10年を振り返る #04

バロテッリのEUROデビュー戦結果

後半も全体的にはスペインのポゼッションが中心で展開される。ボール保持の時間、少ないタッチ数で本数の多いパスワークは徹底され、特にシャビが散らしてイニエスタが溜めを作るポイントでは全くボールを失わない。
後半開始直後は前半のような動きを思い出すのに若干の時間を要した印象もあり、スペインがセスクやイニエスタのシュートシーンを作る。
しかしそうした状況でもイタリアの選手の足は止まらず、強度の高いプレッシングでボールを奪い、スペインのゴールを脅かすシーンも繰り返し見られた。

53分にはバロテッリが積極的な守備でセルヒオ・ラモスからボールを奪い、カシージャスと1対1となる決定機を作る。しかし21歳のアタッカンテはゴールネットを揺らす方法に悩みすぎ、もたつく間に戻ってきたセルヒオ・ラモスにボールを掻き出されてしまう。
バロテッリは試合後、「チャンスは逃したら戻ってこないぞ」(マルキージオ)、「ああいうときは悩まずにブッ叩け!」(カッサーノ)と先輩たちから喝を入れられたようだ。
イタリアの9番を背負う選手としてはゴールを決めなければならないシーンだっただろう。しかし初のメジャー大会出場、それも最強チームを相手とする初戦で、21歳の選手にそこまでの責任を課すのは度が過ぎるかもしれない。

結局プランデッリはこのプレーで集中力が切れたと判断したのか、バロテッリに代えてディ・ナターレを投入。注目の若手ストライカーのメジャー大会デビュー戦は、残念ながらチャンスを逃した不本意な結果となった。

前大会のリベンジに燃えるベテランアタッカー

投入された小柄なアタッカー、アントニオ・ディ・ナターレは34歳のベテランである。
人格者としても知られ、所属するウディネーゼではバンディエラと言っていい。
ディ・ナターレは前回2008年のEUROで、優勝したスペインとの準々決勝、そのPK戦で最後のキッカーとして登場。PKを失敗している。
さらに2010年のワールドカップでは、背番号10を背負って奮闘するもグループリーグで敗退。このワールドカップを制したのもスペインだ。

気負っている様子はなかったが、内心ではリベンジに燃えていたのだろう。ディ・ナターレはバロテッリにはない機動力を示し、前線に新しいパスコースをもたらし始める。

55分にはスペインのパスミスからマルキージオが前線にロングボールを供給。カッサーノが放ったシュートは浮いてしまったが、カッサーノはマークにきたピケを振り回している。前線の動きが活発になり、少ない手数でゴールをこじ開ける可能性を十分に感じさせた。

そして61分。中央でボールを持ったピルロはがドリブルを選択。ブスケッツをかわして駆け上がると、スペースにディ・ナターレが走り込む。ピルロが左足で縦パスを通すと、ボールはピケの目の前を通り抜け、機動力溢れるベテランストライカーの足元へ。
カシージャスの動きを見極めながらギリギリまで距離を詰めると、右足で逆サイドネットにボールを流し込み、イタリアが先制に成功した。

今大会で最初のゴールを挙げたのがディ・ナターレだったことは、前述のネガティブな経緯を払拭する意味で1得点以上の価値があったかもしれない。そしてこの時点で、この試合の結果がどのようなものになるとしても、プランデッリは監督として十分な手応えを感じていたはずだ。

王者の反撃

しかしスペインがそうやすやすと勝たせてくれるはずもない。イタリアのリードは3分間に過ぎなかった。
シャビ→イニエスタを経由してゴール前のシルバにボールが渡ると、スペインのゴールも背番号21のアシストから生まれる。
斜めに走り込んできたセスクにキエッリーニも対応できず、シルバが左足アウトサイドで巧みに送り込んだパスを簡単に決められてしまった。
ここまで十二分に守備力を発揮してきたデロッシは悔しがったが、セスクが決めたこのゴールについてはスペインのパスワークを称えるしかないだろう。見事な同点ゴールだった。

両チームが積極的に打ち合うゲームは、同点となった後もスリリングな展開となる。
スペインの同点ゴールの後、スペインはシルバに代えてヘスス・ナバス、イタリアはカッサーノに代えてジョビンコを投入。どちらも機動力に富んだプレイヤーだ。当然ボールスピードは落ちず、積極的なプレスとスピーディーなパスワークの応酬が続く。
しかしポゼッションに優れるのはやはり王者だ。ボール保持はスペインが中心で、シャビが散らしてイニエスタがアクセントをつける。少ないタッチ数で盛んにボールが動く攻撃に手を焼くイタリア守備陣は、66分にボヌッチがイニエスタへのタックルでイエローカードを受けてしまった。

奮闘するデロッシを中心に守り続けるイタリアに対し、デルボスケがカードを切ったのは74分。セスクに代えてフェルナンド・トーレスが投入された。ゼロトップで複雑な動きをしていた前線が、スピード溢れるセンターフォワードに変わると、早速トーレスに絶好の縦パスが供給される。ブッフォンとの1対1。決定的な場面を作ったが、ここは偉大なゴールキーパーが落ち着いて対処し、スコアを動かさない。

77分にはイタリアが逆襲。チアゴ・モッタを経由して前線にボールが渡ると、走り込んだディ・ナターレへジョビンコがボールを送る。スライディングしながらの巧みなボレーシュートは惜しくもゴール左に外れたが、機敏に動く小柄なアタッカー2人でスペインの守備陣を慌てさせた。

この辺りから、イタリアはボールを持っても長く保持することができなくなっていく。それでも厳しいハイプレス合戦で積極的なスタイルを貫き、動きが衰えることはなかった。
その後キエッリーニ、アルベロア、トーレスにイエローカードが出される激しい展開で終盤を迎えても、最後まで両チームの積極的なプレーが続く。89分にはマルキージオのシュートがカシージャスにブロックされ、93分にはシャビ・アロンソのミドルシュートが枠外へ。ここでカッシャイ主審が試合終了のホイッスルを吹いた。

初戦は大成功だったはずだ

全体的に主導権を握ったのはスペインだった。パスワークの巧みさ、ワンタッチの精度、ポゼッションの安定感のいずれも上回っていたのはスペインである。しかしそこに正面からのプレス合戦に挑み、攻守両面で互角に渡り合ったイタリアの戦いぶりは衝撃的だっただろう。同時に、イタリアの戦術バリエーションが増えていることを知らしめるゲームとなった。

もっともこの時点におけるスペインの力を考えれば、負けなかっただけで十分すぎる戦果ではある。そこで積極的な戦術で挑み、十分にチームを機能させたイタリアにとって、この初戦は大成功だ。

なお公式の表彰はないものの、マン・オブ・ザ・マッチには、センターバックの中心で素晴らしい守備力を見せつけたデロッシを迷わず推したい。スペインの巧みな攻撃にさらされながらも最後の局面で効果的なブロックを続け、カードをもらうことなく90分戦い抜いた姿は見事としか言いようがなかった。

第2戦の相手は、なぜか勝つことができない難敵クロアチアである。

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