天元の昔のこと、そして、現在「高専、東京にも戻るな」宿儺の言葉 ハガレン×呪術廻戦

 人の命を使わなくても賢者の石を作ることができる、それが分かったとき、幸せになれると思った。
 だが、犠牲なくしては有り得ないと何故、気づかないのか。
 イシュヴァールで医師としての人生を捧げようと思っていた一人の男は軍からの呼び出しに困惑した。
 最初は、この申し出を断るつもりだった、だが。
 軍の敷地内、地下倉庫に訳の分からない生き物が住み着いたというのだ、元々、そこは賢者の石を作る為に使用していた場所だ、何か関係があるのかもしれない。
 「ドクター、我々では気づかない事があるのかもしれない」
 炎の錬金術師、大佐からの申し出に断るという選択はなかった。
 

私は気に入っているんだよ、おまえのことを、だから。
 最後の言葉を言わなかったのは強がりだ、なのにあっさりと逝ってしまった、だが、無理もない、人はいずれ死ぬのだから。
 あの時、謝らないでくれと思わず言いそうになってしまった。
 そんな私を見て、おまえは笑う、らしくないと。
 それはどういう意味なのか、聞こうとしてやめた、答えなどよかっているではないかと自分も、そして君も。

 「約束する、必ずだ」
 それしかできない、逝かないでくれといってもどしようもない、仕方ない、せめて、何か言ってくれ。

 「天元」

 四つの目がじっと見る、忘れないように姿を刻みつける、声もだ、脳裏の奥深くに。
 一年はあっという間、十年、百年は瞬く間に過ぎていく。

 呪術高専の用務員になったか、あそこなら大丈夫だと思った、何があっても対処できると思った。
 そして何事もなく時間は過ぎる、このまま時間が過ぎればいいと思った人の命は長いとはいえない。
 百年も生きれば良い方だと思っていた。
 ところが、予想もしないことが起きた。 
 呪詛師だ、この世ではない、別の場所で人生を謳歌しようとしていた、生きる為に、人を殺して。
 自由に、生きるために。
 その為に、巻き込むのか、他者を、いいや、あの子は、彼女を巻き込むのは。
 許さない、そう思った。

それはアクシデント、いや、予想外の出来事だ。
 錬成陣を作り賢者の石を作る、といっても以人の命を使う訳ではない。
 ところがだ、部屋の中にいきなり扉が現れた。
 だが、真理の扉では、ない、黒い、ぽっかりとした穴が部屋の中に現れたのだ、そして中から一人の少年が現れた。

 「ねえっ、ドクター、賢者の石を作ってよ」
 少年は笑いながら近づいてきた、一歩、また一歩と。
 どういうことだ、死んだ筈だとマルコーは目の前の存在を頭の中で否定しようとした。
 自分は幻を見ているのだと思った。
 握った手のひらに汗がじんわりと、いや、吹き出すような感覚だ。
 これは幻、いや悪夢ではない、現実だと思った。
 賢者の石を作る為に軍の地下倉庫で実験をしている現在、それは今まで失敗なく順調に進んでいた。
 シン国の錬丹術とアメストリアの錬金術を融合させて問題なく石を生成することができたのだ。
 ところが、少し前から錬成陣から不思議な光の発光と現象が起きた。 何かトラブルが起こったのかもしれないと石の生成を中断しようとした、ところが。
 
 
黒い大きな扉、いや、穴ができた、そこから出てきた、いや姿を表したのは。
 「エンヴィー、死んだはずでは」
 「死ぬ、ホムンクルスの、俺様が」
 そんなこと有り得ないだろうと少年は笑いながら、ドクターと呼びかけてくる、そのときドアが開いた。
 
 
 入ってきたのはロイ・マスタングだ、異常を感じたのかもしれない。
 「なっ、貴様、生きていたのか」
 「やあ、久しぶり、大佐」
 少年は笑いながら答える。
 「ねえっ、ドクター」
 少年はマルコーに近づきながら手を伸ばそうとした。
 だが、不意に、その手が止まった。

 音がした、何かが来る、そう思ったとき、部屋の中はしんとなった
 それは、ただの静寂ではない、部屋の空気がひんやりとしたものに変わり、その場に居る全員が異変を感じたといってもよかった。

 「やれやれ、やっと着いたか」
 穴の中から一人の男が姿を現した、顔には入れ墨がある、服装はイシュヴァールの民族衣装に似ていた。
 「なんだよ、おまえ」
 突然、現れた男を見て不満と不快を抱いたのは少年だ。
 飛びかかり、男の顔を拳で殴りつけようとした、だが、突然、その体は弾き飛ばされ、壁にめり込んだ。
 それは一瞬だ、あまりのことにマルコー、マスタング、部屋の中にいた人間は皆が唖然とした。
 「礼儀を知らんのか、小僧」
 少年は体ごと押さえつけられたように床に這いつくばるような姿勢になった。
 
 「ふむ、ここが終着地点というわけか」
 考え込むように目を閉じた男は低い呟きを漏らした。。
 「さて、用事をすませんとな、それにしても」
 「おい、おまえ何者だ」
 這いつくばった体勢から体を起こした少年は男を睨みつけた、だが、気にする様子もなく。
 「なんだ、殺されたいか」
 男の言葉に少年はすぐには返事ができなかった。
 
 「人を探している」
 男の言葉にマスタングとマルコーは不思議そうな顔をした。
 「医者を探している、人間の医者だ」
 二人は顔を見合わせた、人間のという言葉に違和感を抱いたのかもしれない。
 「病人だ、怪我をしている、治るまで面倒を看てくれる腕の良い医者が必要でな、勿論、報酬は払うぞ」
 そういって男は軽く手を振った、すると、その手から赤い石が出てきた、それも一つではない。
 「これでは足りんか」
 「いや、君は一体どうして」
 口を開いたのはマルコーだ、だが、男は軽く首を振った、話すつもりがないのか、それができないのかわからない。
 「頼みをきいてくれる、だろう」
 マスタングとマルコーの視線が自分の足下の赤い石に向けられることに気づいているのか、男は笑った。
 「商談は成立だな、ところで」
 男は少年に目を向けた。
 「おまえは人ではない、だが呪霊でもない、面倒を引き起こしそうだ、片付けたほうがいいか」
 「殺す、というのか」
 驚いたように口を開いたのはマスタングだ、男は少年を見るとわずかに唇の端を歪ませた。
 さも、おかしそうな笑いに少年は開きかけた口を閉じようとしたが、そうはしなかった。
 「おまえ人間ではない、そうか、やめておくか、なあ」
 男は振り返った、いや視線を自分の後ろへと向けた。
 暗い穴の向こうから出てきたのは人ではないモノたちだ、異形のものたちは木の樽を抱えていた。
 「話はついた、置いていけ」
 樽の中には白い布でぐるぐると巻かれた人が入っていた。
 
 
 布に巻かれたまま身動き一つしない、声を発することもない相手に男は声をかけた。
 「ここで養生しろ、傷がいえ、元気になれば元通りだ、だが、東京には戻るなよ」
 掠れた声が漏れた男か、女か、わからない。
 「高専にもな、わかるか」
 ゆっくりと伸びてくる手を男は握った。
 「あいつも、そう思っている、忌々しいことだが、天元の奴、そして俺もな」
 
 

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