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幻獣戦争 1章 滅亡に進む世界――②

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序章 1章 滅亡に進む世界――②

「――教官! 退官するって本当ですか!?」
 見知った声が聞こえ振り向いて気づく。ああ、これは夢なんだと。しかも、退官して九州要塞を去る時のものだ。

「ああ、本当だ。最後にお前を育てる事が出来て僥倖だった」
「どうしてですか!」
 あの時、俺は確かそう答え、溌剌としたやや幼さが残る女性はそう問い詰めてきた。少し前のことなのにひどく懐かしく感じる。

 ひょっとしてこれが走馬灯というやつか? こいつは教え子の中でも特に手のかかる奴で、仕方なく最後まで自分の手元においていたんだっけな。それが功を成し、別れた時には俺と変わらない技術と戦略眼を持ってくれた。だから、どうしようもなく虚しくなった俺が自衛軍を去ることが出来たんだよな……

「俺の時代が終わったからさ。これからはお前が英雄になる番だ」
「ふざけないでよ! 何が英雄よ! 馬鹿にしないで!」
 泣きながら荒れ狂うあいつに、俺は確かこう言ったな……本当に懐かしい。

「知っていると思うが、俺の所属していた部隊で生き残っているのは俺と一樹だけだ。俺を教導してくれた先任達も、同期の戦友も、幻獣と戦って死んでいった。そいつらは俺に何て残して逝ったと思う?」
「えっ?」
 彼女は涙を拭いながら聞き返す。

「後は頼んだ! 英雄ってさ。だから……俺も託すんだよ……お前に」
「どうして私なんですか?」
 再度彼女はそう聞き返す。本当に懐かしくて涙が零れそうになる。だけど、オチが酷いんだよなこれ。
「そうだな……お前は俺が教導した中で飛びきり飲み込みが悪く腕も悪かった」

「――っ!?」
 彼女は俺の言葉に涙を止め、怒りを滲ませるように顔を紅潮させ始める。
「しかし、今では思考は俺と同レベル、腕は俺を超えつつある。だから託すのさ。お前なら人類の希望になれる。多くの仲間を、悪夢に怯える人々を護っていける――後は頼んだぞ」
 そうカッコよく決めたつもりだったんだけどなあ……
「――嫌よ」

 「っ痛ぅ……変なところで目が覚めたな」
 俺は痛む肩をおさえ状況を確認する。横転した軍用トレーラーに突っ込んだのは間違いなく、運転席は軍用トレーラーの車底部で視界が埋まり、ドアを開けられる状態ではなかった。

 俺はシートベルトを外して助手席のドアから外に出て、改めて辺りを見渡す。近くには、軍用トレーラーに乗っていた隊員らしき男が車外に投げ出されていた。俺は軽く深呼吸して直前の状況を思い出す。確か、軍用トレーラーの前に爆発が起きて横転したんだよな……

「――あっ!?」
 慌てて後ろに目を移す。空は暗闇の雲に包まれ、遠くで中型の鬼のような角を生やした幻獣が建築物を破壊しているのが見える。これはまずい……が、俺にはどうしようもない。

「卑怯者、勝手に決めつけて逃げるな、だったな。あいつの言った通りかもな」
 じきにあの幻獣に見つかり成す術なく吹っ飛ばされるのだろう。逃げた俺には相応しい最後なのかもしれない。そう諦めため息をつく、その時だった。
 

次回に続く


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