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幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償③

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序章 1章 1-2 不在の代償③

「では、現在の戦況を報告します陸将」
 スクリーンを切り替え日本地図が映し出された。そのうちの隠岐の島、対馬、奥尻島、沖縄が赤く塗られている。戦況は俺が居た時と変わらないようだが?

「ああ。頼む」
「こちらの地図には反映されていませんが、現在、隠岐の島、佐渡島、対馬、奥尻島、沖縄に加えて四国が制圧され、欧州戦線では新型の幻獣が確認されています」
 促す俺に綾香陸曹は淡々と答える。俺は愕然とした。たった4年でこうも変わるのか……しかも、多くの仲間を失ってまで取り返した佐渡島までまた奪われている。

「……俺達の努力は無駄だったんだな」
「それは違います。陸将、貴方が佐渡島を取り戻してくれたから、私達に希望を見せてくれたから、今戦場では多くの仲間が奮起してくれているのです。なにより新しい隊員が志願してきてくれている。貴方が創った道は未来に続いているのよ!」
 ため息交じりに消沈する俺を陸曹は鼓舞するように演説する。しかし、俺は冷めた視線を送るしかできなかった。

「……なあ、それは仲間や上司を失ってまでやることだったのか?」
「――貴方だけが特別仲間を失っているわけじゃない! 私だって、今も前線で戦っている人間だってみんな同じように失っているわ!」
 俺の態度がよほど気に食わないのか陸曹はそう当たり散らす。
「そう、皆同じだ。だったら俺がやる必要性はないだろ。君が英雄をやればいい。他の奴らだってそうだ。何故俺なんだ? 何故俺に賭けようとするんだ!」
「……」
 俺の言葉に陸曹は返す言葉が見つからず沈黙する。

「俺はただ、逝ってしまった戦友達の笑顔が守りたかっただけだ! なのに俺だけおいてけぼりにしやがって……俺は、俺はこんな未来を望んでいたわけじゃない! 俺が守りたかったのは人類の未来なんかじゃない。仲間達の未来こそ俺が守りたかったものだ。俺一人残っても仕方がないんだよ」
「陸将……私には貴方にかけてあげる言葉を持ち合わせておりません。申し訳ありません」
 気づくと眼がしらに涙が滲み、陸曹は俺の心中をおもんぱかって沈痛な面持ちで言葉を漏らす。程度がどうであれ彼女もまた同じなのだ。同じ傷を抱えているが故に舐めあうわけにはいかない。
「つまらない話をしたな――話を戻そう。新型の幻獣とは何だ? ドラゴンでも出たのか?」
「――っ!? はい。まさにご明察の通りです。飛行型の幻獣が観測されました。しかも、戦車より硬いそうです」
 俺の切り替えに驚きながら陸曹は答える。このくらいの切り替えをしなければ指揮官はやっていられない。

「そうか。元から制空権はあってないようなものだから、戦術レベルで対策を考えないといかんな。時期にこちらでも観測されるだろう」
「恐らく陸将の予想は当たると思います。それから、空自でも人型の採用が始まりました」
 こともなげに呟く俺に陸曹も同意する。
「そいつは良いな。戦術の幅が広がる。ところで佐渡島が再び奪われた原因は?」
「佐渡島海上に大型幻獣が出現。制海権を奪われたためやむなく放棄したそうです」
 俺の質問に陸曹は淡々と答えた。
「そうか――戦艦タイプか?」
 陸曹の答えに俺は納得して頷き訊き返す。奴らの強さは身に染みて理解している。
「形状は違いますが、上層部はそうだろうと結論を出しています」
「なるほどな。となると瀬戸内にも同様の奴が胡坐をかいていてもおかしくないな」
 陸曹の言葉に俺は現状を勘案しながら呟く。

「国内の現況は以上です。現在自衛軍は散発的に出現する幻獣への対応が主任務になっています。それから世界、国外の状況についてですが……」
「――芳しくないみたいだな」
 俺の問いに陸曹は静かに頷きスクリーンの地図を世界地図に切り替えた。同時に表示された世界地図の大陸北西部が赤くマーキングされる。まず欧州から説明するようだ。

次回に続く


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