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鈴の音


今うちにいる2匹の猫達の前に、先代の老いた猫がいた。おばあちゃん猫で、初代「ジジ」だ。ジジは私の誕生日に夫がペットショップから連れて来た猫で、耳が垂れていないスコティッシュだったので売れ残り、ガラスのケースの中で丸くなって寝ていた。少し大きくなってしまっていたので、ひどい事にプライスダウンと書かれていて、引き取って来たそうだ。

ジジは抱っこされるのが嫌いだったが、人間の側にいたがる子で私のカバンによく入り込んでいたので、そのままカバンに入れてコンビニに行ったり、車を運転した事もある。「おいで」と言っても、プイッと向こうへ行ってしまい、寝ていると私の枕の空いている部分で静かに寝ている。何とも気まぐれな猫だった。

自分で毛繕いをすることがなく、撫でたりブラシでとこうとすると「シャーッッ!!」と怒ってひっかいた。だから背中の毛はいつも玉のように固まってしまい、きれいな毛並みでは決してなかった。

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子どもが小さい時は追いかけ回すのでよく逃げていたが、子どもが、勉強机で勉強し出すと、机の横の棚に登り,子どもをジッと見つめながら香箱を抱いて寝ていた。子どもがソファで寝だすと上からじっと眺めていた。まるで「風邪をひかないようにみつめているか」のように。

2階へ上がる階段の一番上から下をじーっと見つめ、ジジいないなぁ、と思うと階段の一番上か、子どもの部屋の棚にいた。もう1匹、ヒマラヤンがうちにはいたが大変仲が悪く、お互い心を開かず、ジジはジジでいつも一人だった。

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うちの隣の家が潰される事になった時、工事の音で大変怖がり、少し開いていたベランダの隙間から外へ逃げ出てしまった。毎日毎日探しに出て、ビラをまいたり大好きなカリカリをガレージに置いたりしたがジジは帰って来なかった。

1か月位経ったある日、近所を自転車でご用聞きしていた酒屋のおじさんから裏の家で保護した猫がいるらしいと教えてくれて、急いで見に行くと、ジジが激変した姿で箱に入っていた。隣の家の工事の時、裏の家の溝に入ってしまって、抜け出せなかったようで、工事の後溝に入り込んで抜け出せなかった所を保護してもらった。

ガリガリに痩せ、目が開けられないほど目が汚れて、「ジジ‥‥!」と呼ぶと力弱く「ニャ‥」と鳴いた。

すぐ、獣医さんに診てもらい、暫く点滴や身体の検診をしてもらって、5日後退院できると言われ、迎えに行った。ジジはジッとしていたが、家に帰ってくると一番に子どもの棚へゆっくり登り,暫く降りて来なかった。

やがてジジもカリカリフードを前のように食べ、元気になって又走り回るようになった。相変わらず階段の一番上から下をジッと見つめていた。

鈴がついた水色の首輪をしていて、ジジが動いたらチリンチリンと鳴った。

15年、ジジは生きて、ある秋の夜に、ジジは空へ登った。普通のサイズの猫なのに焼かれて骨で帰ってきたらとても小さくなっていた。ジジの水色の首輪はジジの骨と一緒にお墓へ入れた。

ジジが空に行ってから、何年も経つが今でも階段を下から見上げると上からジッと見つめている気がする。今では大きくなった子どもの棚にも、食卓の椅子にも時々ジッと座っている気がする。

チリンチリン   チリンチリン

ジジの鈴の音がする。今の猫達の音でなく、あの音だ。

人も死んでしまったらそうなんだろうと思う。何も形は残さないとしても記憶がある。その時の匂いや音も記憶に残る。大切に想っている、大事にしている、この想いはお金で残すより自分が大切だった物を大切な者へ残す、これだけで伝わる。死んでしまったら伝わらない。

猫は人間に形見を何も残さないけど私はジジが階段の上からこちらを見ている残像とチリンチリンという鈴の音が耳に残っている。ジジは私に鈴の音や自分の面影を残してくれた。

多分、ジジは私達を大切な家族だと思ってくれていたと思う。

私が自分の家族に残せるものはないなと見回したが、私の想いが残っているものを大切な思い出として残したいと思う。

今でも誰もいない部屋に「ジジ」と呟くと ニャ‥と小さな声でチリンチリンと寄ってくる気がしている。

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#猫のいるしあわせ

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