五里霧中〈大分トリニータ 2023年総括〉
たった数年で、熱は無くなる。あれほど美しく、力強かった3年前の天皇杯の準決勝と決勝。その頂には届かなかったが、昇格できればまた、より一層たくましくなったトリニータを見ることができる。一度掴みかけた「アジア」や「世界」を夢物語でなく、現実的な目標にするためには何としてでも昇格をしなければ、再び夢へともどって、現実味のない「いけたらいいな」という夢に視座を戻しては、またイチ地方クラブの平平凡凡な「地方の温かさ」というふんわりしたものを売りにした育成型クラブへと成り下がってしまう。それではずっとジリ貧。カネがないをずっと言い訳にして現状維持という名の緩やかな衰退は何とも受け入れがたかった。
個人として勝手に持っていた危機感は、シーズンが進むとともにより、大きくなっていった。大分トリニータは、逆境にこそ輝く。そう信じていたが、2023年のチームはあまりにも力なく失速。プレーオフ圏すら取りこぼしてしまうという体たらくであった。
最終的にはPO圏すら逃した大失速。単純な総括ならば「怪我人多かったから戦術が整わなかった」なんてのを目にしたが、そんな大雑把でこの1年をまとめたくねぇな、ということで以下の流れで2023年を振り返っていきます。
・序盤戦の好調
・ターニングポイントになった2試合
・秩序すらなく
それでは。
序盤戦の好調
終盤戦があまりにも「また見た」パターンで失点を重ねていたため本当に同じ年か?なんて思ったが、同じ年。シーズンの折り返しでは勝点40の2位。首位町田との勝点差は6で、3位東京Vとは3差、4、5位につける長崎、甲府とは5差と接戦ながらも昇格の芽は十分にあった折り返しだった。
序盤戦の好調を支えたのは、スペースをうまく活用したボールの前進だった。詳細についてはこちらで。
リンク元から抜粋するとこんな感じ。
ベースは3-4-2-1
①両WBを高く
②ボール回しは4枚で
③空いたスペースを人が埋めて前進
相手の守備(主にプレッシングかリトリートか?)を見ながら前進し、相手のスイッチが入ったらウラを丁寧に突いていくことで前進ができる、相手を見た後出しジャンケンが上手くハマった前半戦であった。
前年からの不安要素であった守備に対してはあまり信用ができなかったが、ボールを握り倒すことで守備の時間を減らし、ボールを奪われると即時奪還を目指したプレスの意識がチームとして統一できていたため、そこまで大きな問題にならなかった。
疑念が生じた上位対決
守備面での問題はあった。あったが、ボールを握って前進をし、粘り強く取り組めていたからこそ、長いリーグ戦を2位で折り返すことができた。
シーズン中は後半戦が泥沼過ぎてどこから不調になったのか?を振り返る気にもなれなかったが、7月初旬のホームでの2試合での躓きが大きかったと思う。結果論でしかないが。
7/5町田戦(0-3●)ではビルドアップのミスからエリキに独走を許し、下田のFKを西川がファンブルしたところを詰められての敗戦。7/9清水戦(1-2●)では、攻撃の形は多少修正できたが、またもビルドアップのミスから失点を許し、最後は後に年間最優秀ゴールに選ばれる乾にゴラッソを沈められ連敗。
この2試合で大きかったのはビルドアップを引っ掛けられての失点が続いたことだろう。自分は良い立ち位置を取っているが、ボールが来ない。おそらく前線のボールの受け手が受け身になっていった2試合だった。もし、乾のゴラッソがなく、清水と引き分けられていたら…タラレバはご法度だが、どうしてもそう考えてしまう。それだけ、インパクトの大きな2試合であった。
ここからの後半戦、大分は知っての通り守備の脆さを露呈してズルズルと順位を下げていく。
秩序すらなく
後半戦の大分トリニータは、過去類を見ないほどの失望感に見舞われる。
長年トリニータを見続けていた方々の心が折れるような淡白で既視感にあふれた失点を繰り返して、勝点を零していく。項垂れる選手たちを見てハッパをかけたいが、いかんせんチームとして機能していなかった。そして機能させるべき旗振り役はベンチでは傀儡でしかなく、ピッチ上でなけなしのアイデアを持ち寄るしかない状況に見えた。
後半戦に崩れた原因はプレッシングの連動のなさとライン設定の曖昧さ。この2つだろう。
とりわけ迷走が顕著にみられた8月下旬以降を例に話をしていく。
スイッチは入るが…
守備のスイッチの担い手は主に伊佐。果敢にボールにプレッシャーをかけ、パスの受け手を消しながらボールにアタックするカバーシャドウを行っていた。しかし、これだけ。連動は皆無であった。
①4-4-2で2トップで組む長沢、②4-2-3-1で伊佐の1トップ、トップ下に野村、③3-4-2-1で2シャドウに町田と梅崎、④4-1-2-3でインテリオールの弓場、渡邉のどのセットでも伊佐のプレッシングに連動した相手のパスの受け手を消す動きがつながらなかった。そもそも、人を捕まえるのかエリアで構えるのかすら設定がなく、近い選手が即興で何とかするという守備崩壊も甚だしい具合。怪我人が多かったにしろ、どのフォーメーション、どの人選であってもそもそもの最低限の決まり事すら曖昧な状況では、伊佐のスイッチを入れる欄ランニングは効果的になることはなかった。
下がるDFライン
前線からの守備はあってないようなもの。これでは守るに守れない。
自分たちが後ろから繋ぐことは大の得意であった下平監督であったが、後ろから繋がれると脆さを露呈した。
前線からの制限をかけられなくなり、連動ができない。こうなるとシワ寄せはDFラインに襲ってくる。好調だった前半戦では前線が献身的に走ることにより守備も「前から」という意思を持って高いラインを設定できていたが、失点が嵩むとどうしても腰が引けてしまう。下平監督は怪我人やコンディション不良などでメンバーを固定できなかったことは不運だったと感じるが、最終ラインに対してのテコ入れが「守る時はペナ幅で」のみだったのはがっかりする他なかった。もちろん選手に関しても、最終ラインの設定をいつもより5m高くしていても15分も経てばいつも通りのへっぴり腰になる戦術的な強度の低さは自信のなさの表れに見えた。そこから何度も見た失点シーン。あまりにも淡白すぎる失点には正直心が折れた。
攻守の分断がもたらす必然の失点
プレスは裸一貫!守備は低い設定。中盤は?前から捕まえに行くと背後を取られ、セットしても逆サイドに展開されるだけで「守れていない」のと同様だった。
大分の守備の特徴(悪癖)が顕著だったのは9/16徳島戦(3-3△)だろう。
1失点目
ロングボールをサイドに弾いたところで野嶽がスリップ。ここで⑳児玉にボールを奪われてしまう。ここでは野村が素早い帰陣に加え、野嶽のカバーリングを弓場が行う。ここまでは守れている。
⑳児玉→㉜外山→㉔西谷と繋ぎ、少し下がった位置の⑳児玉に再びパスが回ると大外にインスイングのクロス。これを右SB③石尾が頭で合わせて得点。
大分は「ペナ幅で守る」を約束事としているため高畑のポジショニングは間違いではない。㊲浜下が高畑とデルランの間、⑨森がペレイラと弓場の間に走りこんでいるためそこのマークを外して③石尾にアタックはできないしスライドも難しい。
この場面では「ペナ幅で守る」は遂行できているが、フリーを作られて失点をしている。これは攻守が分断されているからだと考える。
きっかけは野嶽のスリップ。野村の素早い帰陣は状況を見ての個の判断だろう。これでできた密集で奪いきれたのが序盤戦のトリニータ。だが、羽田は⑳児玉のアシストの前に藤本が戻っていないことを見ていたのか一度最終ラインに入るかの確認をしておりステイ。守備位置は悪くないが、結果としては失点をしている。このような「個々の対応は悪くはないが、結果としては非常に悪い」がとても多かった後半戦であった。個々の対応を繋げてチームにする役割。ピッチ内での意思疎通のみでは限界が見えた後半戦では監督やコーチ陣が機能していたかは甚だ疑問である。
2失点目
横パスを引っ掛けられてのカウンター。守備に回った大分は、ペナ幅の約束はそのままに、まずは自陣を埋める。守備意識は高かったが、内側を閉める意識のみでサイドはガラ空き。中ではじき返す算段なら守れている場面。
しかしここでもエラーを抱えている。左サイドの藤本も高畑も内側を閉めてはいるが、クロッサーになる㊲浜下はドフリーでボールを受けている。
また、羽田と弓場のダブルボランチもボックス内に吸収されており、バイタルエリアはスカスカ。
㊲浜下のダイレクトのクロスは弓場が掻き出したが、スカスカのバイタルエリアにボールが転がると、またしてもフリーな54永木がミドルレンジからドライブシュートで得点。最終的にはボールに対してデルラン、羽田、弓場がブロックに入り、CFの長沢まで帰陣しているが守り切れなかった。
この被カウンターの場面でもライン設定がないため守備は自陣深くまで全力ダッシュ!のみ。何でもないパスミスで守備に転じるとここまで統制が取れない。このボランチがボックス内まで吸収されてしまう、であったりペナ幅の守備は守れているが、サイドに張った相手選手を誰が、どこで、捕まえるかはシーズンを通して場当たり的で、有効打は皆無と言っていいほど。
上記の場面では永木のミドルシュートで失点、だったが、押し込まれてサイドもバイタルもガバガバな守備はお粗末としか言えなかった。
3失点目
ハイライトで見る限り、高いラインの大分。ボランチはどちらも左サイドに出張しており、内側にパスが入ると最終ラインのペレイラがインターセプトを試みる。ここでは奪いきれずにアドバンテージを見られると、⑯渡から左サイド㉔西谷に大きく展開。野嶽と1対1に。野嶽は西谷を遅らせる選択をする。弓場は左サイドに出張、ペレイラはインターセプトをしに前に出ていたところから自陣に戻るため、野嶽がむやみに飛び込んでかわされようものならば、もっと余裕をもってシュートまで持って行かれた場面。
㉔西谷の仕掛けからシュートまでは上手いが、人数が足りているにもかかわらず失点をする大分。ペレイラがインターセプトのため前に出たタイミングでラインが高かったにも関わらす、野嶽やデルランはラインを一緒に上げようとしない。ここら辺からも守備のルーズさや、無秩序さは見て取れる。
効果的と全く言えない前線のプレッシングに、低くチャレンジできないDFラインに加え「ペナ幅で守る」ことくらいしか対策を打てなかった下半期。結果としては前線と最終ラインの分断に終始した。攻守において中盤をうまく使えなかったため、左右にスライドができるわけでもなくただひたすらに人は居るが意味を成していない90分に終始した。そのツケは前半2位ターンだったにも関わらずPO圏すら取り逃す失態を演じる。
下平政権、2年間の功罪を振り返る
下平政権での2年間、ずっと付きまとっていた「守備、どないなってんねん?」という疑念は、最終的に守備崩壊と無秩序さによって脆くも崩れてしまった。
前年のシーズン振り返りのまとめにて感じていた不安が最悪な形で現れた1年だった。
つまるところ、自陣からボールを繋げて殴り倒すサッカーができなくなった時、修正ができないことが露呈した事が大きな不満点だ。前任者が「守備から」チームを作っていたこともあり、より守備に対する無頓着さにフラストレーションが溜まった。
一方で、ボールを保持した時の背後を取る仕組みづくりはとても魅力的であった。4-1-2-3をベースにした偽SBをやってみたり、3-4-2-1からボランチを下げずに空いたサイドのスペースにシャドウを配置したりと、流動的でありながら緻密で意図を持ったボールの前進がハマるとそれはとても魅力的であった。昨年のトリニータは4-1-2-3の屋台骨の1つである両WGに予算を割けなかったことは下平監督にとって不運だったことだろう。藤本の不調、茂の長期離脱も重なり、インサイドで輝く渡邉や野村などでやりくりをしなければならなくなった。
また、育成に関しても一定の評価はできる。昨年はルヴァンカップで根気強く弓場や西川、屋敷などを使い、当時高校生だった保田、丈晟もトップレベルの試合を体感できた。特にユース生の起用、ベンチ入りについては下平監督、というよりもクラブ全体の方向性だと感じるが、それでも弓場、西川はこの2年で主力にまで成長し、保田もルーキーイヤーながら29試合も出場。大卒の松尾は決して多くない出場時間で4ゴールなど、これからのトリニータを支えていくであろう選手たちが多く台頭してきた。
これは上記の「ボールを保持した時の背後を取る仕組みづくり」が間違っていなかったという証左だと考える。コンセプトはよく、落とし込みも上手くいっていた。ただ、それだけに、本当に守備の無頓着さが本当に残念であった。
五里霧中
この2年間は無駄だったか?と言われるとまったく無駄ではないが、多くの時間を費やした割に、結果は掴めなかった。鉄を熱いうちに打てなかった。これは本当に大きな損失。だって3年前の冬、国立の舞台にいたチームが3年もJ2で燻っていたら掴めるものも掴めなくなってしまう。それが本当に惜しい。
下平監督と別れを告げ、新たに迎えたのは前任者の片野坂監督だった。また、片野坂監督をトリニータで観ることができるのは本当に幸せなことだと感じるが、一方で不安も感じる。戦術面では前回のように疑似カウンターに執着せずにトランジッションを重視した新たなサッカーに取り組んでいるようなので、二の轍は踏まないだろう。しかし、せっかく大分で成功し、一時は代表監督にまで推された名将を、ガンバでの一度の失敗のみで大分に帰還することで、この地にずっと縛り付けてしまうのではないか?と。一度綺麗なお別れができたが故に、要らぬ心配事が胸をつかえてしまうのだ。
今年はクラブ30周年。胸にはエンブレムと共に、2005年まで使用していた旧エンブレムも並ぶ年。新たな一歩は、どこへ向かうための一歩なのだろう。
先が見えない不安は尽きぬが、試合はまた、訪れる。その一瞬一瞬にクラブが、観ている我々が、すべてを、情熱を注げるとき、より良い未来が開くことを信じるのみだ。