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【大分】vs鳥栖(H) ポジションの機微

相手のDFラインとGKがソーシャルディスタンスしてたからダービー!勝てました!(デデン!
いつもの大分らしい引き込んでから裏取るでぇ~って形からの2ゴール。痺れた。しかし、この日の大分の勝利をグッと引き寄せたのは2つの小さな変更点。まさにポジションの機微がモノを言った試合でした。

両チームのメンバーをば。

大分トリニータ

開幕から大きな変更はなく……と見せかけて特別指定の井上健太がスタメン。藤本一輝もベンチ入り。いっくら新戦術やっぞ!と言ってもこんな変える~!?予想絶対できひんやんか!
シャドウ(OH)にサイドっぽい選手な井上とより内側で生きそうな渡の組み合わせだったこともあり、4-4-2か?みたいな妄想が膨らみましたがいつも通りでした。ざんねーん。

サガン鳥栖

シーズン頭から金明輝体制は初とのこと。ハードワークを武器にする鳥栖は一番嫌。
メンバーを見てみるとGK、DFラインは全員新加入。松岡、本田はユース出身。元京都組にチアゴ。世にも珍しいCBがどっちも左利き。えー。大した情報はありません。
強いて言えば林大地は大阪体育大の時に見てたので「うわ~うちに来てほしかった!!」って思うくらい良い、肉食的な、ガツガツ行く、ケバブ丸かじりしてそうな選手やな、って印象ある事。あとは小屋松のハゲはチーム内で弄れるハゲってのをデジっちで確認できたこと、原川はFKが上手いのは知ってる。思ったよりは(要らん)情報はあった。

我々からしたらカモネギか!ってくらい戦績は良い(16勝4分4敗)けどここ数年はディビジョンのソーシャルディスタンスが捗ってた()せいで鳥栖キッズは九州の盟主は自分の所だと言って憚らない。そんな生意気だと目にもの見せてやりたくなるぞ~!

ハマらない

ゲームが始まってからの30分はひたすらに回されてえげつないミドルで肝を冷やして高木に救われる!みたいな展開。大分の1stDFが鳥栖のビルドアップにほぼ制限をかけられなかったばかりか、特指の井上くんがタスク過多になっていた。
問題点を炙り出すため、フォーメーション図で大分のやりたかった守備と、上手くいかなかった理由を追っていきます。

まずは大分がやりたかった守備。

鳥栖が自陣でビルドアップ(ボール回し)をするときは前3人が4バックの間を取ってコースを消す。相手アンカーの松岡には長谷川、IHの本田を小林が見る。ここまでは昨年の5-2-3の守備と同じ。が、注目は原川に岩田をぶつける、という所。
この図ではかなり極端にしたが、普段から大分をみてる人は5バックから岩田だけ異様に前に居るのは違和感としてあったはず。その理由は鳥栖が大分の1stDF(前3人の制限)を掻い潜った先の展開でわかる。

大分は1stDFが突破されたら原川が前線のレンゾ・ロペスと横並びか縦の関係になると踏んでいた。その理由は大分が自陣でボールを奪ったらまず制限をかけるのがレンゾ・ロペスと原川だったから。上の図は大分のポジトラ(守備→攻撃)または鳥栖のネガトラ(攻撃→守備)の際に鳥栖はこう動くよね?って図。ならリスク管理をするためにも原川は攻守において中央から動かない。ならば対人に強さがある岩田をぶつけて自由にさせない!ってのが大分の狙い。

しかし実際は、原川が松岡と並んでパスを受けて、原川の開けたスペースに小屋松が下がったり……

原川がタッチライン際まで開いて内田、小屋松と同じレーンに入ってから3人の内誰かが斜めへ飛び出したり……

「動く原川に誰がどこまでついていくか問題」が前半中盤までの大分の苦悩だった。
この2つの図でもわかるように、上の図なら岩田と松本が浮いて(誰を守るかがハッキリしない)しまい、小屋松を岩田が捕まえに行くと原川が岩田の開けたスペースに入ってくるし、松本が小屋松を捕まえに行くとDFラインから一気にロングボールを入れて背後を取れる。レンゾ・ロペスは走れるしボールが収まるため一気にカウンターのピンチになる……
また、監督は守備をできるだけ動かしたくないもの。守備でガチャついてよくわからんうちにスペースが出来てて失点!とか血管ピキピキするもの。だから必要以上に岩田と松本は敵陣まで動かせない。となると、皺寄せが来るのは1列前の井上。本当はエドゥアルドと内田のコース切って中盤からはサイドで内田見る!ってタスクだったはずが、中盤に降りてきた原川見るの?えっ?サイドに原川居るならエドゥアルド-内田と内田-原川のどっちのコース切るの?となかなかに翻弄された。タスク過多。プロの洗練かもしれないが不憫でした……

鳥栖からすると原川が松岡と並べば簡単に相手の1stDFを掻い潜る事ができるし、サイドに流れるとフリーになりやすい。ロングパスもそこそこ以上に蹴れる原川がサイドからロングボール→レンゾ・ロペス落としてチアゴ・アウベスか本田がミドル!みたいなのもあった。滅茶苦茶厄介でした。

大分は飛車を相手に香車と銀でしか守れないからしゃーなし角で誤魔化す!みたいな感じであたふた。将棋はわからんけど。(なら例えるな)

ハマらないなら変えちゃう

上手く行ってないのに変えないのはただの頑固。だけど「上手く行ってない」のは今現在の話で、その頑固さに相手が折れるかもしれない。原川がこんなに動くんだからいつかは体力的にも限界が来る。それを悠長に待つのも手だが、ケツは90分って決まっててもう1/3も過ぎてる。結局は90分を終えた時にどうだった?って結果論でしかない。
今回は「たまたま」上手くいった。けど、1つ変えただけで上手く転んでくれたのは確かだった。

変更点は1つ。長谷川と小林の位置を変える。
これは飲水タイム後で、ベンチからの指示なのか、選手間での調整だったのかはわからない事、そして副産物的な感じっぽさもあったが、とにもかくにも改善された。
それまでの大分はビルドアップで小林を左CBに落として4バック可変をやっていたが、DFラインに落とすのを長谷川に変更。

こんな感じ。
おそらく狙いとしてはなかなか長谷川が効果的なロングボールが供給できずに局面をガラッと変えることが難しかったから、1列下げてプレッシャーがない状態でプレーさせるってのが狙いだったはず。
しかし、それ以上にハマったのは守備面。「原川どーすんの問題」をサラッと小林先生が解決してくれた。
基本的には守り方は同じ。長谷川と小林の見る選手が変わっただけ。

が、小林先生の「原川いつ誰が捕まえに行くか問題」の講義は凄かった。
相手DFラインでボールが回っているなら井上が原川のコースを消す、ボールが中盤を越えてきたら岩田がアプローチに。サイドに原川が逃げた場合であれば、DFラインにボールがあれば井上が内田-原川の間に立ってコースを消して、中盤からは小林がプレッシャーに行く。小林が原川と離れている場合は岩田がプレッシャーに行って小林が岩田の空けたポジションをカバーリング。
ボールの前後と原川の内or外の4パターンでサラッと抑え込んでしまったが、小林先生が対面する松岡を見つつ原川も見る!みたいな1.5人分の動きをカバーしてた。飄々とやりつつ岩田や井上にコーチング。これは先生です。

守備のスイッチの入れ所が明確になり、1stDFが抜かれても次の策を講じる事ができた大分が流れを掴んで前半終了。

2つ目の策

後半頭から鳥栖はレンゾ・ロペスからケバブ丸かじりしてそうな林大地を投入。髪の毛がチリチリになっててランボーみが増してた。
鳥栖はこの交代で鈴木義宜と高さで勝負よりも、より機動力に長ける林が動いて岩田の空けたスペースを使いたかったんだろう。右サイドからのアーリークロスで鈴木の頭上を越えて行けばチャンスあるで、みたいな。

ここで心配だったのは、大分が修正はしたけど前からの制限はあまり掛けられずにいた事。1stDFを掻い潜ってWBが寄せきれないうちに斜めからロングボール入れてヘディングしてごちゃごちゃしてスコーンとやられる。どこかの田中マルクス闘莉王的なやられ方がよぎりました。
勝手にトラウマスイッチオン!してハラハラしてましたが、なんでもない高木のロングボールに知念が抜け出して香川がクロス。直前に井上にかわって入った田中マ……いやいや田中達也がまさかの頭で叩きつけてリードを奪う。2020年公式戦初ゴール!あけおめ!!!

なんか上手く行ってないけど悪くもない中で先制。ここでイケイケにならずに策を講じていくのが片野坂監督。抜け目ない。
動いたのは71分の渡→三平の交代後から。
1stDFが上手くいかない、網がかけ方を変えてきた。前からの守備なんとか5-2-3にしたかったけどできずに5-4-1になっていたため、ここで前からの守備を4-4-2に変更。

松本を下げて"右上がり"の4-4-2。香川を前に持ってきた。おそらく香川の精度の高いキックをより前目で使いたいってのと、フレッシュな田中達也を時差をつけて裏抜けさせたいって意図があったはず。
もっと正確に、ピッチ上に近い形でポジショニングを起こしたらこんな感じ。

前3枚が右にズレて松本がDFラインとボランチの間くらい、逆サイドの香川がボランチと前3枚の間くらいに位置してるから"右上がり"の4-4-2、または"左上がり"の3-4-2-1みたいな立ち位置。
ミソは「三平はサイドの大外まで開かない」事。

理由はマッチアップを見てから。

三平が前からフタをして宮-松岡のコースを消して森下の方へ誘導。これは4-4-2の守り方あるあるだからまぁ良いとして、注目は逆の右サイド。田中達也を内田の前に置いて前進させない。そして田中は機動力があるので内田から梁、原川にボールが出ても2度追いができる。鳥栖からしたら4バックのどこに動かしても中盤に繋ぎにくくなってしまった。

停滞感が出てきた鳥栖は77分に内田と小屋松を下げて原、豊田を投入。3バックにして前線のポイントを増やしてきた。

おそらく狙いとしたら中央の3バック+3センターでボールを前進して、サイドの森下、金森は相手を抜ききらずともクロスを上げて林、豊田に当てる→スクランブルから得点、という形だろう。残り10分ちょっとで1点ビハインド。パワープレーに近い形を採用してきた。

しかし、これが裏目に出てしまい、より大分のチャンスが増える。
またマッチアップを見てみると分かりやすい。

エドゥアルドの前に知念、大外に開かない三平の真ん前くらいに原、中央寄りに宮がややプレッシャーを受けない位置にいたがそんなに楔のパスをズバズバ入れられる選手ではない。宮が上がらないから田中は原川に専念できるし長谷川、小林が真ん中で前を向かせない。パワープレーの起点になるはずのサイドにはボールが行かず、最終ラインからロングボールで林や豊田に繋げど中盤と2トップが間延びしているためスクランブルは起こせない……

これを見て大分は知念からより身体を張れて球離れの良い伊佐、1.5人分見るタスクから解放された小林からスペースを埋める事に長ける島川を投入。田中を左に持ってきて、スペースに敏感な三平が間延びした宮-金森の間に入る。

鳥栖もボールを持てば時間を作れる梁、原川を前目にして3-3-4っぽくする。

より前がかりになった鳥栖だったが、前がかりな相手は大分のベースとなる引き込んで裏!の十八番の形。89分にスローインから高木まで下げて、中盤をすっ飛ばして伊佐ポストプレー→三平がダイレクトで裏にボールを置いて狂犬田中達也が左サイドからぶっちぎってゴール!正直去年の湘南戦@市陸の「それ外すかぁ~!ん~!」って場面を思い出してて決まってから喜ぶまでちょっとラグがありました。すまん。

最後は出血した岩田と島川がポジションを変えてクローズ。2-0でダービーを制した。

試合の中で上手くいかない所の炙り出しから立ち位置を、並びをちょっと変えるだけ。それだけでも局面は大きく変わるし、時間が経つにつれて大分のゲームにすることができた。それはなにより、「ボールを繋ぐ」「立ち位置」「ボールを受ける角度」など細かいディテールに拘り、自分たちの立ち返る場があったから。芯があり、そこをベースに変化を加える。基準はここ!って所は変えない。焦れない。そんなサッカーを魅せてくれた。1本の筋の通った気持ちの良いサッカー。これが片野坂さんの創る大分トリニータだな、と再確認できました。
どれだけ社会情勢が変わろうとも、生活様式に変化があろうとも、フットボールの魅力は変わらない。これもまた再確認。水曜日も楽しみだ~!

せっかくnoteにしたから短評も書いていきます。

チーム総評:よかった。ちゃんとまとまってるぞ!気になったのはセルフジャッジの多さくらい。笛がなるまでプレーをやめない。笛がなったら審判に3密くらいの気持ちで。

片野坂知宏監督:試合のツボを抑えた采配にサプライズな選手起用だけでなく、新戦術もチラリと見せてくれた。ごちそうさまでした。

1. 高木駿:守って良し攻めて良し。無失点に2つの起点。文句なしのMOM

3.三竿雄斗:目立たないが堅実。チアゴ、小屋松、森下と対面も仕事をさせず。

5.鈴木義宜:レンゾ・ロペスに競り勝ち、守備でのハイスペックさを披露。田中のゴール後は思わず抱きつくお茶目さ、好きよ。

29.岩田智輝:いつもと違い最終ラインから飛び出しての守備で背中が気になったかも。それでもタスクをこなして身体を張る。

7.松本怜:右サイドでしっかりタスクをこなす。この日は下がり目で攻撃での見せ場は少なかったが、"ご愛嬌"のクロスがバーにあたったプレーは「あ~!レイチェルだ~!」と謎の安心感があった。

6.小林裕紀(82分→):五臓六腑に染み渡るこばゆ先生。それはまるでドリンクバーの梅昆布茶のよう。名脇役。もっともっと評価してほしい。

40.長谷川雄志:キレのある高精度のサイドチェンジにボールを落ち着かせる一時預り所的な役割はそのままに、守備面でも成長。相手に敢えて寄せずにパスが出てきたら一気に刈り取るのを意識してたっぽかった。元々「見える」選手だからできるスペースの管理に守備の見せ方とかボールの狩り方が備わったらどうなるんだろう。ときめく……(短評か?

2.香川勇気:高精度クロッサーらしくピンポイントクロスからアシストを記録。足裏トラップからGKの飛び出せない最高のクロス。これだけでご飯食べられる。根本や慎吾、那須川の系譜として頑張ってほしい。

16.渡大生(82分→):いつも溌剌としてサラサラヘアーをブンブン振ってるわっちゃん。動き過ぎて消えるのは課題だが、フィットしたら楽しみ。相手を動かすためにどうするか、がポイントか。

47.井上健太(56分→):特別指定でスタメン。やるやん……。初速の速さをもっと生かす展開になればよかったが守備に追われる。
主務けんたと兄弟か?ってくらい似てる。多分カツアゲされて逃げ切れるのが井上健太でジャンプしてチャリーンなるんが主務けんた。

9.知念慶:「何もしてないのに相手が転ぶんですぅ……」みたいな優しき巨人みたいなプレーがなんかツボ。僕は何も壊したくないのに!みたいな。
それ収めんの!?そこから打つ!?みたいなビックリ箱。馴染んだらレヴァンドフスキなんで早く点取ってほしい。

11.田中達也(56分~):シーズン初ゴールに2点目も決めて得点ランク3位に。このペースだと年間66点ですのでバカスカ決めてほしい(ガバガバ理論)
点決めてガッツポーズがダサいと伊佐と三平に滅茶苦茶弄られる。そしてレイチェルの「(揺りかごしなかったから)後で絞めときます」とニッコリ笑顔。明日はどうなる!?

27.三平和司(71分~):センスしかない2点目のダイレクトパス。上手いんよ~!今年はリーグ戦が詰まった影響で秋以降もたくさんゲームがある。尻上がりに調子を上げるはずだから今年はやってくれるはず。

4.島川俊郎(82分~):ボランチとして投入も智輝の負傷により1列下がってプレーもしっかりと豊田に仕事をさせず。

18.伊佐耕平(82分~):8ヶ月ぶりの出場(ムキッ
怪我に泣いた昨年の悔しさは3倍くらいデカくなった太腿からも伝わってきた(ムキッ
2点目に繋がるポストプレーでは彼らしい泥臭さを見せてくれ、改めて欠かせない選手と再確認できた(ムキムキッ

水曜日も試合!もうちょい余韻に浸らせてくれ~!

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