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「さしすせそ」の「そ」

☆みそのはなし☆

日本の代表的な調味料の中でも、味噌ほどその産地によって強い特徴があり、多種多様な食品はありません。現在、全国の味贈の生産量の80%が米味噌ですが、同じ米味噌でも北関東から東北、北海道では赤褐色の辛ロ米味噌が好まれています。

一方、どちらかといえば淡色の辛口米味噌を好むのが信州や北陸、中国地方の日本海側。愛知近県では豆味噌が、九州や四国では甘口の麦味噌や米味噌が食べられています。しかし、このように明瞭に割り切れるものでなく、実際は2種類以上の味噌が混在しています。

 では、味噌はどのように作られるのでしょうか。米味噌を例にとってお話しします。ごく簡単にいうと、米は蒸して種麹をつけ、米麹にします。大豆も蒸し煮して、酵素の影響を受けやすくします。大豆をすりつぶして、食塩と水、米麹を混ぜて仕込み、発酵・熟成させます。このときの材料の配合によって、その味噌の個性が生まれます。

一般に、大豆量に対して米が多いものは甘口味噌、少ないものは辛口味噌となります。この段階で品質をきちんと管理し、微生物が働きやすい環境にできるかどうかが、最も味噌の出来を左右します。安価な味噌の多くは、人工的に温度を上げて、熟成・発酵にかかわる菌だけが速く増殖するように調整して作ります。

これに対して伝統的な「天然醸造」では、この工程を自然のなりゆきにまかせます。じっくりと時間をかけて、原料は麹菌や酵母に分解され、変化して、豊かな旨みや甘味、香りを醸し出していきます。このように、味噌造りの工程は、同じ麹を使った発酵食品である醤油と非常によく似ています。ただ大きな違いは、味噌造りには醤油の火入れのような加熱殺菌の工程がないため、酵母や乳酸菌が活きたまま存在していることです。そしてこの生菌の作用こそが、味噌が私達の健康によい効果をもたらす源なのです。

では、味噌が私達の体に及ぼす作用について考えてみましょう。最近は、味噌も研究が進み、さまざまな効果が科学的に実証されています。よく知られているのが、成人病の原因となるコレステロールの抑制効果です。大豆に含まれるレシチンが、血管に付着したコレステロールを除去する、といわれています。

また、ビタミンやサポニンなど、抗酸化作用を持つ物質も含まれています。こうした成分が総合的に威力を発揮して老化を予防してくれるのです。とはいっても、味噌は塩分が多いのでは、と心配する方もいるかもしれません。

しかし、味噌の最も代表約な食べ方である味噌汁を例にとっても、1杯に含まれる食塩はたったの1.2g。カッブラーメン1食分の食塩が5gであることと比べれば、ごくわずかな量です。

江戸時代の諺に「医者に金を払うなら、味噌屋に払え」というものがあります。当時の庶民の食事は一汁ー菜の簡素なものでした。味噌は貴重なたんぱく源であり、ミネラルを摂取する栄養源だったばかりでなく、健康を保つ働きを持つ食品であることを、先人たちは経験的に理解していたと考えられます。

普段、何気なく食べている味噌ですが、味噌は、大豆をはじめ原料をまるごと自然界の微生物の力で発酵させるさまざまな成分によって、いわば、伝統的な生体調節作用のある栄養機能食品とも言えるのです。

そしてまた、味噌が果たしてきた役割は栄養面ばかりではありません。味噌汁を常食してきた私達は、その旬の具の移り変わりによって、ごく当り前に四季の到来を感じ、自然に対する五感を研ぎ澄ましてきたのではないでしょうか。

私達が味噌のように長い伝統に培われてきた食品を見直すことは、かつての先人たちのように、自然のサイクルにあわせて生きていた人間本来のリズムとエネルギーを取り戻すことにつながっていくことと考えます。

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