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design thinkingとstrategic designについての私的覚書

2024年3月20日に発行された立命館大学デザイン科学研究所(旧:デザイン科学研究センター)紀要『デザイン科学研究』vol.3に、査読論文「ストラテジックデザイン実践におけるビジョン創造の探索的研究─認定NPO 法人の新規事業プロジェクトのエスノグラフィ─」を掲載いただきました。(DOIでのリポジトリはこちら
noteの記事中で紹介しないまま半年が過ぎてしまいましたが、お読みいただいたりご意見などお寄せいただければ、うれしく思います。

単なる論文掲載の紹介だけだと芸がないので、以下に、論文のテーマに関連した、掲載後の発見事項についての覚書を添えておきます。


上記論文での先行研究パートでは、Calabretta, Gemser & Karpen. eds.(2016)が示すストラテジックデザイン strategic design は、Brown(2009)のデザイン思考 design thinking を汲んでいることを紹介した。その接点は、望ましさ desirability、実行可能性 viability、実現可能性 feasibilityという3つの観点の考慮にある。(記事上部の画像は、design thinkingを紹介するIDEOウェブサイトから借用した)

この3つの観点(と少なくとも同様の趣旨)を提唱したのは、IDEOのTim Brownではなく、1980年にDoblinを創業したLarry Keeleyである。見つけられた限りもっとも古い出所はCooper(1999)の5章で、Desirability、Viability、CapabilityについてKeeleyがつくった概念モデルとして紹介されている。

Keeleyの原典については記載がないが、少なくとも1999年以前に書いていた(もしくは登壇などで発言していた)と推察される。その情報だけを頼りに検索などしていた過程で、異なる文脈で興味深いKeeleyの論文に出くわした。

Keeley, L. (1989). The Road Not Taken...Choices for the 90's, Innovation: The Journal of the Industrial Designers Society of America, 8(3), 2-5.
(以下リンクは、Hagley Museum and Libraryのデジタルアーカイブ)

この論文の中で、「私たちはこれを戦略的デザイン計画 strategic design planningと呼んでおり、約9年前から開発に取り組んでいる」(p.3)と記載されている。また、p.5の図では、端的にstrategic designとだけ記載されている。

このことから、時系列を辿ると、
Calabretta, Gemser & Karpen. eds.(2016) strategic design
Brown(2009)  design thinking
Keeley(1989) strategic design (planning)
となり、design thinkingの前に、strategic design(という考え方)があったことになる。

Keeley(1989)は学術研究のなかで数件程度しか引用されておらず、現在のstrategic designをめぐるデザイン研究の言説の形成に寄与しているとは言い難いが、ビジネス上の実践としてはその系譜が1980年代からあったと言えるだろう。


なお、3つの観点の考慮についてのKeeleyの原典は未だ見つけられていません。情報をお持ちの方がいらっしゃれば、お知らせいただけるとうれしいです。

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