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「令和3年度健康経営度調査票」着目すべき変更点と対策のポイント

8月30日から、経済産業省にて「令和3年度 健康経営度調査」の回答受付が開始されました。本記事では、「健康経営優良法人2022」の認定に必要な2022年度の健康経営の特徴と調査および対策のポイントをご紹介します。
(8月18日の速報版に追記し、確定版として掲載しています)

健康経営度調査は単なる調査ではない

健康経営度調査は、経済産業省が毎年実施しています。法人の健康経営に関する取組状況を把握し、経年変化を分析します。また、調査結果を基礎情報として健康経営銘柄を選定し、健康経営優良法人(大規模法人部門)を認定します。

このように、健康経営度調査および調査票は、認定のためのチェックリストの一面がありますが、ほんとうに着目すべきなのは毎年の調査の動向です。国が何を重視し、何を変えたのか、その意図を知ることで、これからの健康経営の方向性をつかみ、さらに先をいく健康経営を目指すヒントとしていくことができるのです。

令和3年度健康経営度調査の変更点

ここからは、簡単に調査票の変化点を解説いたします。
「令和3年度 健康経営度調査」の設問で新規または変更があった主なものは以下のとおりです。(調査票をもとにWellGoにて作表)

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特徴的なものをみていきましょう。

申請プロセスの改善
フローの効率化申請や認定に必要なフローが大きく効率化されました。
具体的には、申請・誓約書が押印なし/完全電子化となり、事務局へデータをアップロードする形で行えるようになっています。
法人と保険者でやりとりしていた煩雑な紙資料でのやりとりが省力化され負担が減りました。

調査票の簡略化
これまでの調査では、分析の精度を高めるために設問数が多くなる傾向にありましたが、回答者の負担を考慮し、設問が絞り込まれました。
2021年度に198問あった項目が、2022年度では176問と、大幅に削減されました。(設問数は、設問内のサブクエスチョンの数も含みます)
また、これまで配点のない設問とは別にアンケートもついていたのですが、今回からは配点のない設問にまとめられています。

保険者との連携
健康診断では、40歳以上の従業員のデータ提供が必須項目となりました。
データ提供に関し保険者に意思表示をしていない場合、不適合となります。
特定健診・特定保健指導の実施率については、今回の調査では項目から外れていますが、過去の調査で設問になっていたことからみると今後重要視される可能性があります。今のうちから対策を行っておくとよいでしょう。

喫煙対策
これまでの受動喫煙対策に対する取組みに加え、新たに従業員の喫煙率低下に向けた取組みが、認定要件の選択項目に追加されました。現時点で喫煙者がいない場合でも、その状態を維持するために取り組みを行っていることが適合条件となっています。

新型コロナ対応
新型コロナウイルス感染症対策については、非常事態下の事業継続体制、リモートワークや時差出勤などの接触回避、職場の環境整備ワクチン接種の4項目となっています。
なお、前回とられた健診や施策に関する臨時救済措置は撤廃されました。


注目すべき設問 ~健康経営度のトレンド

「令和3年度 健康経営度調査」で注目したいのは、健康経営に関する取り組みとして、次の項目を回答必須としたところです。

●健康経営を経営戦略に位置づけているか
● 健康経営の推進について、目的・体制を社外に公開しているか
サプライチェーンにおいて取引先の健康経営推進支援を行っているか
SDGs/ESGの文脈で、社会全体の「健康」に対し、企業活動や商品・サービスを通じて寄与できているか
ストレスチェックについて、57項目版をベースに、各項目の実施結果がどうであったか
従業員の生産性や組織の活性度などについて、どのような指標を想定しているか

ここから見えてくるのは、健康経営が単なる従業員の健康把握の域を超え、経営戦略の主要な軸とみなされているという現状でしょう。
以下に主な注目ポイントを解説します。


健康経営は「投資」として経営戦略に位置づけ

もはや健康経営は、人事・総務の施策にとどまらないことが明確になってきました。健康経営が経営戦略に位置づけられる流れはこれからも大きくなり、今後は認定要件に食い込んでくる可能性もあります。

健康経営において従業員の心身の健康を維持・増進することは、企業内での労働生産性や企業イメージを向上させるだけでなく、医療保険の適性な維持など広く社会的にも貢献します。健康経営は、将来への大きな投資として考える必要があるのです。

経済産業省では、こうした健康経営に関する活動を「健康投資」と表現し、健康経営を持続的また効率的・効果的に実施する内部機能と、企業につながる外部や社会との適切な対話を促す外部機能の強化を求めています。

健康投資による内外の機能強化にあたっては、客観的に測定し、伝達するしくみを確立する必要があり、経済産業省ではこれを「健康投資管理会計」と定義してガイドラインを設けています。
昨年度の調査ではアンケート設問に近い位置づけでしたが、今年度からは本格的に問われるようになってきました。

このガイドラインの狙いは、健康経営における投資対効果を定量的に把握することにより施策の効果検証を促す点にあります。ポイントとされるのは、各施策や目標を、戦略マップの策定で「見える化」することです。

●Step1:健康経営で解決したい経営上の課題を特定
●Step2:課題解決による期待効果・具体的な目標を設定
●Step3:戦略マップの策定

WellGoが公開する健康投資の戦略マップ(下図)を例にみてみましょう。

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健康経営で解決したい経営課題が最も右側にあり、これがStep2に相当します。この課題解決を行うため、具体的にどのような行動を促す必要があり、行動の指標として何の項目を測定・評価していくべきなのかを、逆算式に検討していきましょう。

データの測定については後述します。

サプライチェーンにおける取り組み支援

今回の調査票でもうひとつ大きく取り上げられたものがあります。取引先となるサプライチェーンを巻き込んだ健康経営の取組みの重要性です。

これまでの設問では、取引先が実施する健康経営の取組みについて、状況の把握や考慮を問うものでしたが、今後は、支援にまで踏み込んだ関わりをもち、さらにその旨を対外的に「パートナーシップ構築宣言」として公表しているかが重視されています。

「パートナーシップ構築宣言」は、大企業が取引先とのパートナーシップ構築を宣言することにより、中小企業とうまく噛み合って共存共栄していくことを目指しています。以下の点について重点的に取り組むことを代表権のある者の名前で宣言し、ポータルサイトに掲載・公表します。

サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携
 (企業間連携、IT実装支援、専門人材マッチングなど)
●新興基準の遵守、特に取引適正化
 (価格決定方法、型管理の適正化、現金払いの原則の徹底、
  知財・ノウハウの保護、働き方改革に伴うしわ寄せ防止

社会全体の健康を考慮 ~SDGs/ESG投資

健康経営銘柄や健康優良法人と認められるトップランナーは、自社内の従業員に対する取組みにとどまらず、広く社会全体への付加価値も考慮し、社外へ公開する姿勢が問われています。

誰も取りこぼさない持続可能な社会を目指すSDGsでは、3番目の目標に「すべての人に健康と福祉を」が掲げられています。
また、ESG投資では健康は「S」に位置づけられ、投資家などの評価の対象とする動きもすでに高まっています。

今年度は、こうしたSDGsやESG投資に関連する取組みについて、自由記述式とされ評価項目にはなっていませんが、企業活動や商品・サービスを通じた社会全体の価値向上心身の健康と社会的つながりの健やかさ)に寄与する動きは大きなトレンドとして、今後ますます重要視されてくるでしょう。

労働生産性や組織の活性度の測定

健康経営は経営戦略に組み込み、もはや投資として考える必要があるという話は先述しましたが、今回の調査で労働生産性や組織の活性度などを測定するのにどんな指標を想定しているかという設問が回答必須となっています。

健康経営は、概念的な取組みではなく具体的に計測できる指標を用いて取り組むことが明示されているのです。

これまでその指標は労働生産性の向上につながるものがほとんどでした。
勤怠管理や健康診断の受診など、従業員を生産効率のみで評価し「いかに効率的に働くか」で測っている面が否めませんでした。

しかし、これからの健康経営は、真の健康を実現することをゴールとしていく姿勢が求められます。WHOの憲章にある「心身の健康と社会的つながり」を体現するWell-being 経営です。

社内の従業員だけでなく、企業とつながるすべてのステークホルダーが健やかに生活し、持続的に幸福な社会が実現するように、人的資本への投資を行い企業価値を高めるのが、これからの健康経営なのです。

今後、健康経営の指標は、勤怠や健診の測定結果、ストレスチェックは無論のこと、従業員のアブセンティーズム(傷病による欠勤)、プレゼンティーイズム (出勤しているものの業務パフォーマンスが低下した状態)のほか、従業員が自律的に企業や社会とつながり行動するワーク・エンゲイジメントといった指標も確立し、定量化して測定していく必要があります。

※ワーク・エンゲイジメントについては以下の記事も参考にしてください。

調査・測定の負担を軽減するには

こうした測定で悩ましいのが、調査にかかる負担です。新たに項目を増設しての調査は現実的ではないでしょう。これまでのデータを効果的に組み合わせ、自動算出させていくのが理想的です。

例えば、アブセンティーズムでは、勤怠データなど既存の統計データから指標を作成し、さらに企業の平均給与から喪失金額を自動算出することができます。

プレゼンティーイズムでは、WellGoでは従業員が回答しやすいSPQ(東大1項目版)をもとに簡単に回答できるアプリを使い、自動算出できるようにしています。

ワーク・エンゲイジメントでは、WellGoではユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)をもとにしたアンケートで回答者の負担を減らし、簡単に集計・評価ができるようにしています。

もちろん、企業内ですでに採用している既存の項目があればそれをもとにして指標を作成し、システムを構築するのがよいでしょう。

データは、単に並べれば統計情報にすぎませんが、各データを連携し、多角的に分析することにより、活きた経営指標に変わります。

とくに、人事の発令情報、勤怠、健診・問診は部門ごとに縦割りで管理されがちですし、歩数や食事、睡眠といった従業員の生活記録(ライフログ)は個人的な情報としてそのままにされてしまいます。

これからの健康経営では、これらの情報を単体ではなく総合的に用いることが求められています。従業員一人ひとりを多角的に評価分析し、包括的な人的資本として活かしていくための指標が必要となっているといえます。

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データの統合管理は、人事・総務部門の業務効率化にとどまりません。
医療職に向けては、産業保健業務の効率化にもつながります。また、従業員に向けても、健康管理意識の促進に大きく役立つことでしょう。

これから健康経営で飛躍するには、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が密接に関わっているといえそうです。


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WellGoでは、「令和3年度 健康経営度調査」のポイントについて、大規模法人向けの調査票をベースに、令和2年度調査からの変更点や来年度以降に向けた重要なトレンドの変化などについての解説動画を作成しています。


健康経営度調査についての詳細なお問い合わせもお気軽にどうぞ。
メール:info@wellgo.jp
電話:03-6661-1191

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