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ワーク・ライフ・バランスを見直そう(令和3年度全国労働衛生週間を終えて)

全国労働衛生週間はご存じですか? 働く人の健康を確保・増進するために、快適に働ける職場づくりへの意識を高める週間です。1950年に第1回が実施され、今年で72回目と歴史ある取り組みでもあります。

今年度のスローガンは「向き合おう! こころとからだの 健康管理」です。

全国労働衛生週間は、準備期間が9月1日から30日、本週間が10月1日から7日となっており、今はちょうど終わったところです。でも、健康管理は常に実施しつづけるもの。重点的に取り組む期間が過ぎたからといって来年までお休みしていいわけではありません。

むしろ、重点的に取り組んだ直後の今こそ、行動が消えてしまわないように癖付けるのが最も効果的なしくみづくりともいえます。
「労働衛生週間」を「労働衛生の習慣」にする取り組みを始めましょう。

令和3年度全国労働衛生週間で重点がおかれた事項

今年度は、副スローガンが「うつらぬうつさぬルールとともに みんなで守る健康職場」と感染拡大防止の観点が大きく加味されつつ、現在の社会状況をふまえ、以下の11の健康管理を重点事項とするよう定めています。

ア)過重労働による健康障害防止
イ)メンタルヘルス対策
ウ)新型コロナウイルス感染症の拡大防止
エ)高年齢労働者に対する健康づくり
オ)化学物質による健康障害防止
カ)石綿による健康障害防止
キ)受動喫煙防止
ク)治療と仕事の両立支援
ケ)腰痛の防止
コ)熱中症予防
サ)テレワーク労働者の作業環境、健康確保

    (令和3年度全国労働衛生週間実施要綱より抜粋)

この中で、特に年末・年度末を迎えるこれからの職場において習慣化していきたいもののひとつ、過重労働(労働時間)の対策をみていきましょう。

過重労働による健康障害防止の注目点は
「ワーク・ライフ・バランス」

過重労働による健康障害防止のための総合対策に関する事項は、重点事項の筆頭に挙げられた注目事項で、具体的には次の5点が掲げられています。

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進
 ・時間外・休日労働の削減
 ・年次有給休暇の取得促進
 ・労働時間等の設定の改善
対策推進の意思表明
労働時間の状況把握、長時間労働者に対する医師の面接指導等の実施
健康診断の実施と医師との連携(情報提供、意見聴取、事後措置)
産業保健総合支援センターの地域窓口の活用(小規模事業場)

    (令和3年度全国労働衛生週間実施要綱より抜粋)

ここで改めて、「ワーク・ライフ・バランス」についておさらいしておきましょう。

ワーク・ライフ・バランスは、文字通り仕事と生活のバランスをとることを示していますが、このとき「あれかこれか」の取捨選択をイメージしてしまうと誤解を生じます。

本来ワーク・ライフ・バランスが意味しているのは相乗効果です。つまり、「あれもこれも」の考え方で、仕事と生活の両方を良くするわけです。
仕事に集中できる環境でうまくいけば生活も充実するし、生活が充実すればさらに仕事にも力が発揮できるようになるという好循環を狙う調和のあり方です。

内閣府では、ワーク・ライフ・バランス憲章を掲げ、なぜ調和が必要なのか社会的背景をていねいに紐解き、仕事と生活の調和が実現すると次のような社会になると定義しています。

1. 就労による経済的自立が可能な社会
2.健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
3.多様な働き方・生き方が選択できる社会

憲章では、ワーク・ライフ・バランスは、企業にとって「コスト」ではなく「明日への投資」と考えて積極的に取り組むよう促しています。
そして、上記の社会を実現するため、企業や労働者、国民、国・自治体それぞれがなすべきことを定めた 仕事と生活の調和推進のための行動指針 を掲げています。

今年度の全国労働衛生週間で重点的な取り組みとしてとり挙げられている「時間外・休日労働の削減」「年次有給休暇の取得促進」「労働時間等の設定の改善」は、上記行動指針の中、「2.健康で豊かな生活のための時間の確保」について企業に求められる具体的な取り組みの一部です。

働く時間と場所は物理的な拘束を生みます。このため、長時間であればあるほど、また、特定の場所にいることを強制するほど、仕事と生活において「あれかこれか」の選択を迫ってしまいます。
いつでもどこでも自分の力を発揮することにより、仕事のやりがいも生きがいも充実する可能性が高くなります。「あれもこれも」につなげるためには、時間と場所の拘束を極力少なくする必要があるのです。

労働時間の見直しは、短くすることが目的なのではなく、このような充実感とのバランスの上での適切な時間配分になることが重要で、結果的に拘束時間が短くなるものなのだと覚えておきましょう。

しかし、言わずもがなですが、いくら充実していたとしても体や心の健康を脅かすほどの長時間労働になってしまってはなりません。拘束時間が長くなればなるほど、そのリスクは高くなりますから注意しましょう。

労働時間については関係する法令をよく理解して遵守する必要があります。
時間外の労働時間に関する定めで特に理解しておきたいものに「36協定」があります。
36協定は普段からよく聞く耳に入ってくる言葉です。このため、かえって詳細な理解はなく、漠然と「残業に関する法律」程度の認識の人も多いかもしれません。これを機会に正しく理解しておきましょう。

36協定はすべての企業・常時使用の労働者に適用される労働時間延長に関する協定

36(サブロク)協定は、労働基準法第36条に規定されることからつけられた名称で、労働時間の延長に関する定めを示したものです。

労働基準法では、法定労働時間が1日8時間以内、1週間40時間以内とし、毎週最低1回の法定休日とするよう定められています。そして、第36条に、法定労働時間や法定休日を超えて労働する必要がある場合、労使間で協定を締結し、国(所轄の労働基準監督署長)へ届ける義務を課しています。

36協定には、時間外労働を行う義務の種類や、1日・1か月・1年あたりの時間外労働の上限などを定める必要があります。

36協定は、原則としてすべての企業が対象で、協定を締結する対象は常時使用する労働者です。正規社員だけでなく非正規社員も含みます。18歳未満の者、妊産婦、育児や介護をしている労働者には別途制限があります。

36協定なしで時間外労働をさせたり、協定を結んでいても限度時間を超えたりすると罰せられます。
2018年6月の労働基準法改正により、さらに厳しく規定されるようになりました。(2019年4月施行 / 中小企業への適用は2020年4月)
・時間外労働の上限(限度時間)は、月45時間・年360時間
・臨時的な特別の事情があり労使が合意しても以下の時間は超えない
  年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)
・月45時間を超えることができるのは年間6か月まで

2018年の法改正(36協定の厳格化)から読み取るべきポイント

36協定に記載された具体的な数値を前にすると、つい労使ともに「その範囲であれば上限まで働いても / 働かせても大丈夫」と考えがちですが、36協定の主眼はそこにはありません。
つまり、労働者に対する安全配慮義務の本質的な部分を理解し、より充実した生活を送るためのよい仕事の時間をいかに確保するかが重要なのであり、その目安として働き手を拘束する限界が設けられていることを意識しておく必要があります。

厚生労働省が示す「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」では、36協定の締結にあたって留意すべき事項として次の8つのポイントが明記されています。

(1)時間外労働・休日労働は必要最小限にする(指針第2条)
(2)使用者は36協定の範囲内でも安全配慮義務を負う(同第3条)
(3)時間外労働・休日労働の業務の区分、範囲を明確にする(同第4条)
(4)できる限り労働は具体的に定め、限定する(同第5条)
(5)1カ月未満の期間の場合目安時間を超えないようにする(同第6条)
(6)休日労働の日数・時間数をできる限り少なくする(同第7条)
(7)労働者の健康・福祉を確保する(同第8条)
(8)限度時間が適用除外されるものでも限度時間を勘案する(同第9条他)

特に、限度時間を超えた労働を課す場合、健康・福祉の確保として、次のような措置を協定に組み入れることが望まれます。

・医師による面接指導
・深夜業(22時~5時)の回数制限
・終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
・ 代償休日・特別な休暇の付与
・健康診断
・連続休暇の取得
・心とからだの相談窓口の設置
・配置転換

データ管理は労働者を守りワーク・ライフ・バランスを実現させるためのツール

勤務時間の把握は、かつては手書きやタイムカードなどのアナログが主流でした。事実と異なる申告ができますから、残業時間をごまかしやすい側面がありました。労働者側からも、毎日チェックして記載する手間の大きさや、常に管理されている煩わしさを感じると敬遠されていたふしもあります。

しかし、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金になります。
以下の点に配慮し、デジタルデータでストレスのない行動記録をとり、客観的に確認できるよう、適正な管理のしくみにすることをおすすめします。

・タイムカードやICカード、PCの使用記録などの客観的な記録を基礎とする
・労働日ごとの始業・就業時刻の確認と記録を定型化する
・記録の負担を軽減し、持続したくなる手法を導入する
・やむを得ず時刻申告制にする際には十分な客観的要素による基準を設ける
・時間を管理することでのメリットが労使ともに見えるようにする

適切に記録されたデータは、客観的な視点で労働状態を評価するために不可欠なものです。雇用する企業側が責任を果たすために不可欠な事実を客観的なデータで示し、労働者と企業が同じ土俵に立ってワーク・ライフ・バランスを一緒に考えあうために、労働状態をデータで持続的に把握するしくみをつくりましょう。


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