1.10 実家に住むという選択

 脳内で考えていたことは、すべて無駄だったのかな。

 東京に住もうと考えたことも、賃貸物件を借りようと思っていたことも、子供たちと住むということも、都会に住むということも、いやいやグローバルノマドライフを送ることも、そんな選択肢があると考えていた私が愚かすぎる!!!!

 選択肢が多様にあると人は自由になれると思っていたが、そんなことはなく。選ばなかった選択肢のその後を思い描いて、思い悩んじゃうことだってある。

でもね。選択肢が他にないとわかったら、もう次は前に進むしかないやん!悩んでいる時間がもったいないやん!もう決まってるんやから!!!

「わかった。もうここ(実家)に住むしかないし。ってか、お水もお湯も出るし、洗濯もできるようになったんだから、はやく引越して住もうよ!」

カナメにそうけしかけた。トラブル続きの実家には住めないと判断した私たちは、とりあえず別の場所に滞在して、必要があれば実家に行って作業するという生活を送っていた。実家まで移動するには電車などを使って片道一時間ほどかかる。往復二時間。交通費も二人だからバカにならない。

 そのストレスからか、はたまた日本グルメがそうさせたのか、日々美食を重ね、外食比率もどんどんと上がっていってしまった矢先でのカナメの通風騒動。

とにかく早く落ち着いて次のステップにコマを進めたい。住むなら一日も早くそこに生活基盤を移したい。外食を減らして、まともな家庭料理を食べたい。あああ落ち着きたい!!!ご飯を炊いて、納豆食べて、緑茶を飲んで、本業をスタートさせたぁあああい!!

もう腹括ったもんね。やる気満々だかんね!いますぐ引っ越すよ、というノリノリの私に対して、妙に歯切れの悪いカナメであった。

カナメ「正直に言っていい?」

バンリ「何よ」

カ「正直言って住めない、ここには。正確に言うと、この状態では。」

バ「はあああああああ?」

カ「とにかく考えていたよりも外の騒音がうるさすぎる。窓が薄すぎるんかなんか知らへんけど、あれじゃ、オレ寝られへん。だから二重窓にする。」

バ「は?」

カ「っていうか、住むのは6階じゃなくて、5階。」

バ「え?」

カ「だから、5階をリノベしてから住もうと思って。」

 なんじゃそりゃぁー?聞いてないし。全然そんなこと聞いてないし!!!!

 ちなみに実家は5階と6階が居住エリアとなっている。かつては6階に義両親が住み、5階にカナメが住んでいたらしい。要するに子供部屋として使っていた階をリノベして住む計画だと彼は言う。ちなみに6階は、すでに一度断捨離しているから空間はあるが、5階は、完全に物置と化して開かずの間状態であーる。カナメは続けた。

カ「オマエ、ちきりんさんの本読んでたやん。それってリノベしようと思ってたからやろ?」

 それ、完全に勘違い......。しかもそれ読んでたのは帰国する前。実家に住むなんて意識ゼロだった頃の話だ。実は、私の実家の母や兄と話をしていた時に、キッチンのリノベがいくらかかっただの、実兄が天井を自分でペンキで塗っただのの話を聞いていて、それならば今度はバリアフリーにリノベしたらいいんじゃないかと思い、その参考になると思って(当時、話題にもなっていたので)読んでみただけだったのだ。

 まさか自分がリノベをするなんてことはつゆも思わず、実家や伯母の家をどうやってリノベしたら快適になるのかな、それを考えるヒントになるかなと思って読んでいたのだが、あまりにも目から鱗だったので、カナメにも時々、その要旨について話したりもしていたのだ。でもそれだけよ.......

カナメ「え、てっきり実家のリノベ計画たててくれてるんかと思ってた。それなのにうだうだと東京行くだの何だの言ってたから、コイツ何考えてるんや、とか思ったがな。ちゃうんかったんかーいっ。」

 私とカナメは、どちらかと言うと、朝から晩まで延々と話をしてても話が尽きない関係なのだが、結構こういう「肝心なことの意思疎通が全くできていない」ということが、ままある。よくある。かなりある。会話の中身がないとも言う(汗)。

「もういいよ。揉めても仕方がない。はいはい。5階をリノベしてから引越しすればいいのね。わかりました。じゃぁ、がんばってやってね。計画がありそうだから、それでがんばってくださいね。いくらかかるか知らないけど。終わったら引越しね。あ、実家の5階片付けておけばいいのね。了解了解。明日からがんばって整理しますです。それでいいよね?」

 私の言葉を聞いて、カナメはえらい長文のセリフを延々と吐きまくっていたが、細かい話の内容はほとんど覚えていない。ただ「間取りがなんちゃら」とか言ってたように思う。

 引越の日はまだまだ来ないことが確定し、この中途半端な生活がこれからも続くと思うと少しげんなりもしたが、ちきりんさんの本が本当に面白かったので、それを具現化するチャンスが来たのかもしれないと思うと、少し楽しみでもあった。

 iPad ProのKindleアプリを立ち上げて、そのリノベ本を開けた。内容は、私たちが考えるものよりも大掛かりなものに思えたので、まずリノベのコストのページを読み直した。

 結論としては、私の想像よりもコストがかかりそうに読めた。うーん。あんまりお金かけたくないんだけどなぁ.....。

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