3.1 間取りを考える

 工務店のミズキさんが考えてくれた間取り図を見ていると、自分の中に色々と言いたいことが湧き上がってきた。

ネットでマクドナルド理論というものを読んだことがある。ランチ場所が決まらず「どこでもいい」と皆が言う雰囲気の中で、マクドナルドに行くことを誰かが提案すると、それならばもっとマシな場所があるだろうとドンドンと対案がでるというアレだ。

 ミズキさんの間取り図は、決して最低ラインの案だったわけではないのだが、具体的な叩き台としては非常に大きな役割を果たしてくれた。ミズキさん案に納得がいかないなら、結局、自分たちで自由に間取り図を作り上げなければならないのだ。

 そういえば30年弱前、一生結婚しないと思っていた私が突然結婚することになり、なぜか義父母の言われる通りに結婚式を挙げることになった時のことを思い出した。当時の私は、結婚式はおろか、結婚に対して何のイメージもなければ夢や希望などあるはずもなく。今まで考えたこともなかった課題を与えられて相当バタバタしてしまったなぁ....

 今回もこのまま行けばその二の舞になりかねない。結婚式は一時のイベントで終わるが、リノベはこれから住む家に継続して関わる問題である。そしてそれ相応のコストもかかるものだ。アーリーリタイアメントをしているカナメにとって、そして私にとっても貯金額を大幅に減らすような決断はしたくない。いやいや、その気持ちがなければ、ガツンと一発新築を建てるという選択肢もあって、実際そういう方も多いかもしれない。でも長年海外で生活してきた私たちにとっては、日本の行く末も予想がつく。海外から見た日本の相対的価値は、この20年で信じられない位に下がってきている。国内だけを見ていても、今後は年金支給年齢も引き上げられて、支給額も減ることが決定的な状況では、ポンポンと大金を使う気にもならない。無駄なお金は一円だって払いたくない。

つまり。

小さな実家のワンフロアであるが、その空間内であれば、自分たちの望むように間取りを決めていい、ということなのである。今までに考えたことがないからと逃げていては将来絶対に後悔する。だから、ここは本気で考えなければならないのだが、脳内に何のイメージもない私は、自分の想像力のなさを恨めしく思った。

 ちなみに、新築時代の5階には、玄関と3つの洋室(それぞれ6畳ほど)があったのだが、そのうちの2つは子供部屋で隣接していたので、カナメが大学で家を出た後に、義父母はその子供部屋を一つにまとめて和室にリノベしていた。玄関を入ったところの空間には巨大な押し入れがあり、そこに布団やらアルバムやらが押し込まれていた。そして和式トイレもあった。

子供たちを連れて帰省した時には、この和室に寝泊りさせてもらっていた。

 カナメと二人で最初に考えたのは、夫婦二人が住む家なので、壁は極力なくして、デッドスペースになりがちな廊下などを作らず、少しでも大きな空間を確保したいということだった。建てた時のままの形を残す洋間は、そのまま寝室として使って、それ以外はすべて一つの空間にしようということは、初期の段階でコンセンサスが取れていた。そしてトイレを和式から洋式(ウォシュレット付)にすることも当然のごとくすぐに決まった。また浴室にバスタブを置かず、シャワーユニットだけにすることも早々に合意した。古いけれども6階の居住空間にはユニットバスがある。かなり汚れていたのだが掃除してみると機能的には十分使える。毎日ウキウキと入りたい浴槽ではないが、とりあえずお湯に浸かることはできる。必要になれば浴槽が6階にあるのだから、5階の私たちのフロアにはシャワーだけで十分だろうということになった。

 私たちは韓国のソウルで長く住んでいたので、二重窓とオンドル暖房(温水式床暖房)もいいなと思っていたが、それは予算と相談する必要がある。カナメは、床暖房については別途考えなければいけないが、二重窓にすることは絶対条件だと言った。彼は音に敏感で、屋外の音が聞こえると寝られないらしい(注:そんなことは一切なくて、カナメは常に5秒以内でびっくりするほどすぐに眠りに落ちるタイプだ(汗))。またカナメが痛風発作を起こして歩けなくなった時には、車椅子でも動けるように全ての床に段差をつけずにフラットにすること、扉という扉はすべて引き戸にすること、などのアイデアもすぐに出てきた。

 私の個人的な希望として、間取りとは関係ないが、洗濯機に温水を引き込むこと、キッチンに食洗機を設置すること、床は掃除のしやすい(ルンバが活動しやすい)フローリングにすることが、最優先したいことであった。過去の海外暮らしでは、洗濯機そのものに高温洗浄モードがついていることが普通だったので、湿度の高い日本で、その機能がついている洗濯機が希少であることに納得ができなかった。そして水道水を引き込んで洗濯機内で温度を上げる洗濯機はあるようであったが、それは想像よりも高額に思えた。以前使っていた洗濯機をそのまま使うためには、温水を引き込むことが最も簡単に思えた。そして主婦湿疹に悩まされた経験がある身としては、食洗機は最優先中の最優先項目であった。

 間取りについて考えなければならないのだが、こういう細かい希望ばかりが脳裏に浮かぶ。実際、狭い居住空間内では、間取りの選択肢もそんなに多くない。私としては、そんなことより生活に直結する細かいことが実現すれば良しと思っていた。そう。リノベ計画において、私の希望はそれほど多くないから、すぐに、そして簡単に実現できると思っていた。

少なくとも、この頃は。

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