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第八回:社会の中で生きる人のウェルビーイング

こんにちは、ウェル・ラボラトリーズの金子迪大です。
 
第四回で、国や企業などのウェルビーイングについて書いたことを覚えているでしょうか。最近ウェルビーイングは政治や産業の領域で話題になっているため、このように個人が属している先のウェルビーイングをどのように考えていけばよいかに興味を持っている人は多いでしょう。ひとつの回答は、そこに属している人たちのウェルビーイングの平均を計算することです。そして、もしこのような方法を採用するのであれば、だれか一人のウェルビーイングが高まれば良い訳では無く、みんなで一緒にウェルビーイングを高めていく必要があるのです。これから数回にわたって、社会の中で生きる人がウェルビーイングを高める際に気をつけることを説明していきます。


はじめに

あなたのウェルビーイングはどのような時に高まりますか?美味しいご飯を食べている時、友達とおしゃべりしている時、仕事でプロジェクトを達成した時、上司に褒められた時、出世した時、自分の成長を実感した時。これらはしばしばあなたにとっての善さとして語られるものです。このような善さをその時々に応じたウェルビーイング観に基づいて高め充足することが、あなたのウェルビーイングを高めることに繋がります。
 
もしあなた一人がいる世界であれば、ウェルビーイングを高めるためには最短かつ効率的な方法を用いるべきでしょう。しかし、あなた以外の人々がいる場面、つまり社会の中においてウェルビーイングを高める場合には、社会全体のウェルビーイングに配慮する必要があります。

利己的なウェルビーイングの高め方

ウェルビーイングはあなたにとっての善さです、ということを初回から何度か繰り返しお伝えしてきました。そして、現代社会においては自分のウェルビーイングは自分で決めることが出来ると説明してきました。それは一見、自分のウェルビーイング観を自分で好きなように決められるし、充足する方法も好きに選べると思われがちです。
 
美味しいものを食べたければ食べればよいし、友達とおしゃべりしたかったら喋れば良いのです。好奇心の赴くままに本を読みたければ読めば良いし、退屈を紛らわすために映画を見たければ見れば良く、寝たければ寝れば良いのです。様々な方法でウェルビーイングを上げられます。
 
では、次のようなケースはどうでしょうか。キラキラした宝石が欲しいからと宝飾店に行って、ガラスケースを壊し展示されている宝石を持って出てくる。嫌なことがあってむしゃくしゃしている時、イライラを解消するために身近にいた相手に暴力を振るってスッキリする。
 
これらはウェルビーイングでしょうか、それともウェルビーイングではないでしょうか。一部議論のあるところではありますが、あなたにとっての善さではあります。つまりあなたにとってはウェルビーイングなのです。どういうことでしょうか。
 
あなたが宝石を欲しいと思うとき、宝石に対する欲求が高まっています。これ自体は何も不思議なことではありません。重要なのは手段として用いる行動です。働いてお金を稼ぎ、お金を持って宝飾店に行き、店員さんにお金を渡して宝石をもらうということであれば何も問題はないでしょう。この場合、宝飾店の人は売りたい、あなたは買いたい、という欲求がそれぞれあり、両方の欲求を満たしています。宝飾店の人もあなたも、ともに高いウェルビーイングを享受できるのです。
 
一方、あなたが宝飾店のガラスケースを壊して宝石を持ち出した場合、あなたの欲求は満たされます。あなたの目的は達成され、喜びも感じるでしょう。つまりウェルビーイングが高いのです。しかし、宝飾店の人はどうでしょうか。きっと悲しく、憤るでしょう。宝飾店の人のウェルビーイングは低くなってしまうのです。
 
次に、イライラを解消するために相手に暴力を振るってスッキリする、というケースはどうでしょうか。暴力を振るって実際にスッキリするかどうかは別にして、スッキリするならばあなたにとってのウェルビーイングは上がっています。一方、暴力を振るわれた方にとってはたまったものではありません。あなたが勝手にイライラして、そのはけ口として痛い思いをさせられる、場合によっては怪我を負い後遺症まで残される、などとても許容できることでは無いでしょう。ウェルビーイングは大きく下がります。
 
これらの例で理解していただきたいのは、個人のウェルビーイングが重要だと言っても、それは他者のウェルビーイングを侵害しない範囲でのみ許されるということです。これは日本国憲法第13条の幸福追求権において、以下のように記載されていることとも整合的です。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」ここで、公共の福祉に反しない限り、ということを他者のウェルビーイングを侵害しない限り、と読み替えていただくと理解しやすいでしょう。つまり、社会においては許されないウェルビーイングというものがある、ということです。

あなたと他者のウェルビーイングの三分類

ここで以下のようにあなたにとってのウェルビーイングと、周りの他者にとってのウェルビーイングの関係を三つに分類してみましょう。
 
1.利己的なウェルビーイング:あなたのウェルビーイングは高まるけれども他者のウェルビーイングは下がる
2.利他的なウェルビーイング:あなたのウェルビーイングは下がるけれども他者のウェルビーイングは上がる
3.相互繁栄的なウェルビーイング:あなたのウェルビーイングも他者のウェルビーイングも上がる
 
ひとつ目が先ほど紹介した利己的なウェルビーイングです。これは社会的に許されないウェルビーイングともいえるでしょう。
 
ふたつ目が利他的なウェルビーイングで、周りの人には許されるどころか推奨されるかもしれないですが、あなたの心を急速に、時にはゆっくりと蝕んでいきます。自己犠牲的なウェルビーイングともいえるでしょう。
 
たとえば、パートナーや友人の望むことを常に優先させ自分のやりたいことを後回しにしてしまうこともあるでしょう。あるいは職場で無給の残業を頻繁に行い企業や同僚のために追加の業務を引き受けることもあるでしょう。教師が生徒のために放課後や休日を指導に費やすこともあります。これらはあなたの周りにいる人のウェルビーイングを上げる行いです。また、利他的な行動はあなたのウェルビーイングを上げてくれることが知られていますから、一定程度であればあなたのウェルビーイングは上昇するでしょう。しかし、過度に行いすぎると時間とともに徐々に苦しくなり、自分のウェルビーイングを下げてしまいます。そのため、このようなウェルビーイングの在り方は持続可能ではなく、出来る限り避けることをお勧めします。

相互繁栄的なウェルビーイング

そうはいっても人生は持ちつ持たれつじゃないか、と思う人も多いでしょう。そんな人に覚えておいて欲しいのが相互繁栄的なウェルビーイングです。たとえば、職場で積極的に同僚を励まし感謝を表すことで、自分の職場での人間関係が良好になるとともに職場全体のモラルと協力の精神が高まります。趣味のクラブやグループを立ち上げることで、自分は趣味を共有する喜びを感じ、参加者は新たな友人を得て社会的なつながりが深まるというケースもあります。また、自分の感情を制御する技術を身に着けることで嫌な気持ちを減らしハッピーで笑顔な時間を過ごせますが、感情は周囲の人に伝染することが知られています。あなた自身の感情的な苦しみを取り除き喜びを増やすこと自体が周囲の人のウェルビーイングを上げるのに役立つのです。企業内においては楽しく仕事をすることで周りの生産性も上がり、離職率も下がり、チームの創造性も増すのですから、自分と周囲の人だけではなくお客様や投資家、銀行家のウェルビーイングも高まります。
 
時には相互繁栄的なウェルビーイングを築くのに時間がかかることもあるでしょう。また、自分の得られるウェルビーイングの種類と他者の得られるウェルビーイングの種類が同じとも限りません。たとえば、会社での仕事を毎日してお客さんのウェルビーイングを上げることで得られるのは、月末に振り込まれる金銭的な報酬としてのウェルビーイングであり、今度はそれを使って自分が顧客としてモノやサービスを購入して経験的なウェルビーイングを上昇させます。あるいは、家族間、パートナー間で役割分担をしている家庭も多いでしょう。ご飯担当、ごみ捨て担当、掃除担当のように、家庭を運営していくうえで異なるサービスを取り交わすこともあります。あるいは、会社で後輩を助けることは後輩にとって仕事ができるという自己効力感や成長実感を生じさせウェルビーイングを上げるでしょうが、その後輩が数年後に自分の抱えている大きなプロジェクトを助けてくれたら自分は達成実感を得られるでしょう。

クールな頭で相互繁栄的なウェルビーイングを考える

組織や社会のウェルビーイングを設計するうえでは、このように相互繁栄的なウェルビーイングを向上させていく必要があります。このことに疑問を差しはさむ人はいないでしょう。これはwin-winの関係を築くことであり、ひとりひとりを大切にしようという現代に広く受け入れられている人権思想とも一致するのではないでしょうか。
 
しかし一方、もしかすると人によってはお互いの利害を考えなくてはいけない点が冷たく映ったり打算に映ったりするかもしれません。それでも、複雑な現代社会ではクールな頭で相互繁栄的なウェルビーイングを達成できるシステムを作りこんでいく必要があるのです。
詳細は近いうちに執筆しようと思いますが、現代社会で生じる物事は人類にとっては処理するのが難しいのです。人類の設計図ともいえる遺伝子は数万年、数十万年、あるいはそれ以前の影響を強く受けています。もともと人類は小さな集団で狩猟採集をしていました。今のようにSNSで世界中と繋がることも無ければ、数万人の企業組織の中でオフィスでコンピュータに整然と向かってデスクワークをすることもありませんでした。モノが欲しくてもスーパーマーケットも無ければネット通販もありません。
 
現代社会はウェルビーイングを高めるものは多様に存在しますが、同時にウェルビーイングを低めるものも多様です。現代経済システムの興味深い発見は、市場取引において各人が自分の欲求に基づいて行動することでみんなのウェルビーイングが上昇することですが、実際のところウェルビーイングに関連する要因の多くが市場取引されていません。私としては現在ウェルビーイングを中心とする価値観が世界的に根付いていく途中であると考えていますし、ウェルビーイングの取引も徐々に行われていくと考えていますが、まだウェルビーイングの値付けは十分にされていませんし、法律も未整備です。そのため、容易に他者の搾取が行えますし、自分も搾取される側になり得ます。個人としては自分のウェルビーイングも他者のウェルビーイングも配慮する必要がありますし、人々を組織・管理する立場であれば構成員全体のウェルビーイングを冷静に調整していく必要があるのです。

まとめ

これまではひとりの人のウェルビーイングについて考えてきましたが、社会で生活する人間にとって他者のウェルビーイングに配慮しながら生きていくことは重要な課題です。自分さえよければよいという利己的なウェルビーイングでは他者のウェルビーイングを低下させてしまいますし、他者のことばかり思いやる利他的なウェルビーイングでは自分のウェルビーイングが低下してしまいます。自利利他の精神と言われるように、自分のウェルビーイングを向上させると同時に他者のウェルビーイングも向上させることが出来るような相互繁栄的なウェルビーイングを追求していく必要があります。次回はこの続きの話をしたいと思います。

 
あなたがウェルビーイングな人生を送れることを心から願っています。
 
 
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ウェル・ラボラトリーズHP:https://well-laboratories.com/
 
 
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