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#01 「夫専属の看護師」として夫を看取とりそして仏教の道へ

《スピリチュアルケア》について
僧侶であり、看護師であり、ケアマネージャーでもある玉置さんにお聞きしました。

2020年3月発刊COCORO第38号に掲載された内容をもとに6回に分けて掲載します。

私は現在、3つの仕事に携わっています。

1つはクリニックに勤務する看護師
2つ目は真言宗の僧侶

もう1つは、人生の終わりを迎えつつある人とその家族が、残された時間を穏やかに静かに過ごすために必要な、心の奥深いところのケア(スピリチュアルケア)の実践者を育成する非営利一般社団法人大慈学苑の代表という仕事です。

これら3つの仕事は私の中で深く関係しあっていますが、最初から計画していたわけではありません。

私は大学卒業後、法律事務所に就職し、事務員として働いていました。

しばらくして結婚し長男が生まれましたが、この長男が重度のアレルギーで、その苦しんでいる姿を見て、私は「息子専属の看護師になろう」と決意し、看護師資格を取得しました。

その後、長男の症状が落ち着いてからは、看護師として病院で働くようになりました。

そうこうするうちに、フリーカメラマンだった夫に大腸ガンが見つかりました。

最初にがんが見つかった時は入院して治療を受けたのですが、3年後に再発、転移が判明すると、夫は積極的な治療は受けず、家で過ごす道を選んだのです。

私は家族としても医療従事者としても、
なかなか夫の選択を受け入れることができず、ずいぶん言い争うこともありました。


しかし夫の決意は固く、自分の人生のデザインをしっかり描いている夫の意志を尊重し、
今度は「夫専属の看護師」として夫の生活を家で支えることにしました。

それから約1年後、夫は静かに去りました。
医療の介入を極力抑えたその体はほどよく枯れていて、
いわゆるエンゼルケアなど必要とせず、むしろ潔い美しさすら感じました。


夫が亡くなってから3ヵ月間は、
看護学校に通う長男とまだ小学生の次男と3人で、
テーマパークへ出かけたり、毎日のように花屋に通ってたくさんの花を買ったり、
心のままに過ごしていました。

その生活は外面的には穏やかに見えていたでしょうが、
ほんとうは辛くて悲しくて、そんな気持ちを持て余し、困り果て、
これから二人の息子とどう生きていけばよいのか迷っていました。
テーマパークやたくさんの花は、ひと言でいえば、現実逃避だったのです。

しかし、いつまでも悩んでいるわけにはいきません。


私は看護師として社会復帰をしました。
その時、私の心の中に「仏教に帰依したい」という思いがふっと湧き起こってきたのです。


いまでも明確な理由は見つかっていません。

ただ、夫を看取った体験が、何らかの形で影響しているとは思います。

夫が逝った後の3ヵ月間、
現実逃避をして過ごした日々が、後押しをしてくれたような気もしています。

あの時、自分自身の困り果て、迷う気持ちにフタをして、闇雲に毎日の生活に向かい続けていたら、
私の中に「仏教を勉強したい」という気持ちは湧いてこなかったかもしれません。

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著者プロフィール

玉置 妙憂(たまおき みょうゆう)

看護師・僧侶・スピリチュアルケア師・ケアマネ-ジャー・看護教員

東京都中野区生まれ。専修大学法学部卒業。国際医療福祉大学大学院修士課程保健医療学看護管理専攻看護管理学修士。
夫の“自然死”という死にざまがあまりに美しかったことから開眼し出家。

高野山での修行を経て高野山真言宗阿闍梨となる。現在は非営利一般社団法人「大慈学苑」を設立し、終末期からひきこもり、不登校、子育て、希死念慮、自死ご遺族まで幅広く対象としたスピリチュアルケア活動を実施している。
また、子世代が親の介護と看取りについて学ぶ「養老指南塾」や、看護師、ケアマネジャー、介護士、僧侶をはじめスピリチュアルケアに興味のある人が学ぶ「訪問スピリチュアルケア専門講座」「訪問スピリチュアルケア専門オンライン講座」等を開催。

さらに、講演会やシンポジウムなどで幅広くスピリチュアルケア啓発活動に努めている。

著書『まずは、あなたのコップを満たしましょう』(飛鳥新社)『困ったら、やめる。迷ったら、離れる。』(大和出版)『死にゆく人の心に寄りそう 医療と宗教の間のケア 』(光文社新書)、他多数。
ラジオニッポン放送「テレフォン人生相談」パーソナリティ。