みんなむぎ表2

みんなむぎプロジェクト

神奈川県の藤野町というところに暮らしている。2002年の相模原市との合併で今は神奈川県相模原市緑区というのが正確な名称だけど地元の人はあいかわらず藤野と呼んでいる。
藤野の住人には変わった人が多い。かつて「芸術」というテーマで町おこしをし、アーティストやクリエイターを積極的に誘致した歴史があったり、シュタイナー教育を実践する学校もあったりと住人の多様性には事欠かない。なんとも楽しいところだと思う。

そんなところで生活をしている中でいくらか友人がいる。ある時、友人のパン屋が地主さんに畑を使ってくれないかと頼まれた。農業の衰退が原因で地主さんが管理できなくなった畑は藤野でも急増中だ。ともかくその畑は30アール程の広さでパン屋一人で耕作するには広い畑だったので、みんなで共同作業をして小麦を栽培しようということになった。地元のパン屋が自家栽培した小麦でパンを焼いて、地元の人に食べてもらうというのは逆に最先端だね!なんて言って、みんなで楽しくやろうと決めた。

みんなむぎプロジェクト。
このプロジェクトに参加したのは、同業の農業者、パン屋、アーティスト、クリエイターの面々で、トップの画像はプロのカメラマンの友人が撮影してくれた。デザインは映像クリエイターの友人の仕業だ。

気の合う仲間と野良仕事するのは遊んでいるのと一緒でまったく楽しい。一人では苦行の如しだった農作業もみんなと力を合わせてやれば何倍も早くできて充実感は100倍だ。地主さんは10数年ぶりに荒野が畑に戻ったのを見てとても喜んでいる。ただ楽しく遊んでいるように仕事していれば周りの人が喜んでくれて、しかも収益になるというまさにパラダイス。
その収益はこのプロジェクトに関わるみんなで均等にわけるというルールとした。そして先述した友人の畑や私の畑も含み、50アールの畑で小麦を栽培した。50アールというのは5000㎡、1512坪、3229畳、という相模原市の畑としてはなかなかの広さだ。

そして夏には数百キロの小麦を収穫し、秋頃から自家栽培小麦のパンが販売され売上好調。販売用に栽培した薄力粉も現在売切御免状態。
まだ在庫が少し残っている状態だけど、収穫量は確定しているので、すでに売上額の見込みは確定いている。秋に種を撒き、冬に麦踏みをし、春に草を取り、夏に収穫、そして天日乾燥からの製粉、複数人の男性で一年丹精込めた結果、パラダイスの収益は経費を引いて10万円程度。
みんなでわけたら2万円ちょっとの年収。収益と言うのもはばかられるほどの金額だ。
栽培技術の問題もあるとは思うけれど3229畳の畑における穀物生産の収支の規模感はこれくらいのものだ。ちなみに販売価格はスーパーで売っている小麦粉の倍以上で普通の感覚からするとだいぶ高い。だとしてもこの規模の場合、実際に生産者に渡っている金額はこの程度なのだ。

まったく農業の収益性ときたら!この仕事を選んだ自分のマゾ精神に頭が下がるが、この活動を通してパンを食べてくれた人、地主さん、そしてなによりもプロジェクトのメンバーは心の底から爽快な思いができたと思う。家族を養うような収益は得られなかったが、とてもたくさんの人を色々な意味で少しずつ養ったと自負できる。
私はいつも、「農業者は金はたいして持ってないが金以外のすべてのものを溢れる程に持ってるんだ!」と豪語している。この活動を通して私たちはまたお金以外のすべてのものを手に入れた。
私はどんなに生活が苦しいとしても、いつも「お金以外のすべてのもの」の為に仕事したい。そして今までそう思ってる限り生活が苦しくなることは一度もなかった。物質主義とか経済至上主義とか言うけれど、実際は思ったより世界は優しい。見誤らないことが大事なのだと思う。

みんなむぎプロジェクトは続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?