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食をまもるカギは多様性――絶滅の危機に瀕する食料をめぐる世界紀行

おもしろい本を見つけた。
イギリス人のブロードキャスターでフードジャーナリストのDan Saladinoが書いた『Eating to Extinction』。
昔から食されてきた世界各地の食べ物や飲み物がこの世から次々と消えている。彼は、それをレッドリストの絶滅危惧種に指定された動植物になぞらえて「食の絶滅危惧」と表現する。
この本では穀物から野菜、肉、魚介類、果物、チーズ、お酒、飲み物、お菓子まで31の絶滅に瀕する食が取り上げられている。
それらはイタリア発祥のスローフード運動「Ark of Taste(味の箱舟)」に登録されている食の世界遺産だ。

南極大陸を除く、すべての大陸からSaladinoが取材した食べ物が紹介されていて、スローフードの世界紀行といったところでワクワクする。
日本の食も2つ紹介されていて、恥ずかしながら知らなかった。

ということで内容はというと……。

アフリカ東部で狩猟採集でくらすハッザ族の貴重な栄養源になるハチミツ。
もちろん、狩猟採集民なので養蜂ではない野生のハチミツだ。巨大なバオバブの茂った枝葉に隠れたハチの巣は、地上からは見つけにくい。彼らには太古からバディがいた。そう、空からハチの巣を見つける鳥のバディ、その名も「ミツオシエ(honeyguide bird)」だ。ハッザの狩人が口笛で歌をかなでると、鳥がやってきてハチの巣に案内する。鳥がバオバブの上でホバーリングしたら、ハチの巣がある合図だ。

狩人がするするっと、バオバブの木に登り、ハチの巣に手を突っ込んで、ハチミツが入った塊を引き出すと、すぐさま木の下にまつ仲間に投げる。まさにサバンナのご馳走だ。蜜蝋を取り出して温かいとろっとした液体を口に入れる。甘くてすっぱい。幼虫を吐き出す。宴のあいだ、ミツオシエは木の枝で静かに宴が終わるのを待つ。おこぼれをもらうためだ。

昔話になりそうな話だが、この地では現在も人と鳥の協力は続いている。もし、狩猟採集で暮らす人がいなくなったら、このテクニックを次世代に教える人も、それに応える鳥もいなくなるだろう。

野生の植物や昆虫、魚介類、海草、肉を食べる習慣は廃れつつある。
私も学校の帰り道、お腹がすいて雑草や木の実を食べることがあった。食べられるものを知っていた。山にある栗もアケビも食べた。父はヘビをつかまえて軒につって乾燥させ、粉砕してから私の茶碗にもったご飯の上に「カルシウムを摂れ」といってふりかけた。かなりショックだったけど、仕方なく食べた。「鳥獣保護法」で違反するが、偶然、農作物の網にかかったスズメやヒヨドリも食べた。父は仲間と夜に川で「毛ガニ」(正式には「モズクガニ」らしい)を摂ってきた。
海岸でヒジキやガンガラの貝も摂った。潮の香りがしておいしかったし、楽しかった。
もちろん、これは栄養を摂るため食ではないけど、食の多様性という意味で、生きていく意味で、大切な習慣じゃないか、とこの本を読んで、ふと思った。


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