七日間の友だち

 学校ではいつも独りだった。友人の一人でもいれば、それはきっと特別な日々になったのだろう。唯一の友人である彼ないし彼女は、わたしの唯一の友人であるという点において、まったくかけがえのない存在になったろう。仮に、彼ないし彼女の唯一の友人がわたしであったなら、世間に隠れてふたりだけの世界を共有する罪悪感が、甘美な思い出になっただろう。
 しかし現実ではいつも、小中学校でも、高校、大学でも、会社でも、誇張抜きに、わたしは独りだった。いつでも他人の夢の中で生きているような心地がした。
「久しぶり、元気にしてた?」
 深夜1時、切れかけた蛍光灯が明滅する薄暗い廊下で、彼女は何のためらいもなく、わたしに話しかけてきた。わたしはコンビニの袋を提げ、504号室のドアノブに手をかけたまま、冷ややかなこころもちで彼女を見下ろした。金髪のベリーショート、ジーンズ、白いTシャツ、左耳にホワイトゴールドのピアスが三つ。少なくともわたしより、ひとまわりは若い。エホバの証人か、統一教会か、アムウェイか、三基商事か。悪くすれば美人局か。
「五十嵐ゼミ以来じゃん」
 年齢差を考慮すると、大学で同じだった可能性はない。それに、痩せすぎの五十嵐講師のミクロ経済学ゼミは男ばかりだった。
「やけどの痕、治ったの?」
 彼女は、ドアノブにかかったままのわたしの手を指して言った。わたしは八歳のころ薬缶をひっくり返して大きなやけどを負った。十五くらいまであざは残っていた。
「お葬式にはいけないの。ごめんなさいね」
 彼女は長いまつげを伏せて小声でそう呟くと、滑り込むように505号室に消えてしまった。
 わたしの部屋の隣は暗い非常階段で、反対側は504だ。505号室は存在しない。しかし今は錆びかけたステンレスのプレートがドアに貼り付いている。505。非常階段はない。
 唐突に廊下の蛍光灯が切れて真っ暗になった。
 ポケットの携帯が鳴り出した。
 わたしは携帯を取り出して、父からの電話に出た。

(続く)

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