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キャッチフレーズ(1)

「ほんと男って、その場のノリで安請け合いするよね」
「お前、そんなこと言ったら、世界中の男から責められるぞ」
「確かに。後先考えずに安請け合いするの、アンタぐらいだね。訂正訂正」
安請け合い。
そう言われるとぐうの音も出ない。そして、俺はいま非常に追い込まれている。啓太から文化祭のお笑いライブで使うキャッチフレーズを作って欲しいと言われたのが2週間前。そこから何もせず、来週には文化祭が迫っている。ただの1つのキャッチフレーズもできず、時間だけが過ぎてしまった。文化祭まで残り1週間で20組のお笑いグループのキャッチフレーズを考えなくてはならない。単純計算で1日3つ。
「ほら、テレビでさ、よくやってるじゃん。出囃子に合わせてカッコいいこと言うやつ。あれがやりたいんだよね。潤さ、作文うまいじゃん。ばしーっと決まるやつ考えてよ。それ聞きながら出てきたらさ、俺たちもうテンションが上がってあがって、バカ受け必至だから」
バカ受けはお前たちの実力で取ればいいし、テンションが上がったからって必ずしも受けるとは限らない。今なら冷静にそう言えるだろう。だけど、作文がうまいと言われ、お前のおかげで盛り上がると言われ、つい引き受けてしまった。

「だいたいさ、アンタが表彰されたのって、環境保全促進週間の作文でしょ?お笑いと全然関係ないし、テーマが決まってるやつじゃん。キャッチフレーズなんて、テーマを見つけるのが大変なんだと思うんだけど。そういうところ、ちゃんと考えてから受けるべきなんじゃないの?」
「でも読書感想文で金賞貰ったこともあるじゃん。作者の意図を読み取るのは得意だぜ」
「それ、小4のときでしょ?そのときの細胞なんて、もう完全にアンタの中に無いから」
杏奈の言うことは、全く正しい。分かる。でも今じゃない。できれば2週間前の俺に言ってほしい。逃げ出したくなっている俺に、いや、ほとんど逃げ出しかかっている俺に、杏奈は容赦なく畳み掛ける。
「ほんとにどうすんの?20組だよ。各グループ特徴なんて大してなくてさ、ほとんど変わらないと思うんだけど・・」

高校最後の文化祭。この話がなければ、食べたいものを食べ、お笑いライブだって、バンドのライブだって気楽に楽しむつもりだったのだ。それが今や、1週間後を想像すると胃がキリキリしてくる。
雨降らないかなー。あ、。体育祭じゃないから雨が降っても開催されるか・・。
文化祭まであと1週間。

(つづく)

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