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キャッチフレーズ(15)

各教室から出された段ボールや、木の端切れが校庭の真ん中に集められ、やぐらのように組まれていく。毎年、後夜祭と称して、これらを燃やしてキャンプファイヤーをするのがこの学校の伝統となっている。少しずつ空が、青色から藍色、さらに濃い藍色へと変化していく。西の空は、ママレードみたいなオレンジ色だ。白く輝く金星も見える。
「この時間の空って、スマホで撮る写真みたいに縦長の印象なんだよなー」
声がするほうを見ると杏奈がいた。俺が声を出す前に、杏奈が続ける。
「みたいなこと思ってんでしょ?」するどいことを言う。
「ていうかアンタ、今日どこにいたのよ?クレープごちそうしてくれる話はどうなったのよ」
それはこっちのセリフだ。連絡寄こさなかったは杏奈のほうだろう。杏奈はかまわず続ける。
「もしかしてケータイ忘れてない?」嫌な予感がする。素早くポケットを探る。
「あ!ほんとだ」「今まで気づかないなんてウソだね」「いや、ほんとほんと」
結局杏奈は、俺からの返信がないので、自分で買って食べたらしい。
「ぜんぜん使えない。協力して損した」

やがてやぐらに火が入った。
「後夜祭は、放送部は出番ないの?」
「あるけど、ここからは後輩に主役を譲って、うちらはもう裏方」
徐々に大きな炎になっていき、その頃にはあたりもすっかり暗くなっていた。生徒達は思いおもいに散らばり、炎を眺めている。
「おーい、潤。杏奈。これ飲もうぜ」
啓太が瓶に入ったコーラを持ってきた。乾杯、と瓶をぶつけ合って、飲む。瓶のぶつかる音が涼しげに耳に入ってきた。頬をなでる風が心地良い。
「こういうときはやっぱり瓶だよなー。ペットボトルだと良い音がしない」「だな」「だなだな」
俺たちはしばらく黙って炎を眺めていた。相変わらず笑いながら走り回っている奴らもいる。俺たちみたいに静かに炎を眺めているやつらもいる。そもそも後夜祭に参加せずに帰宅する奴らもいる。
「なんかさ、この時間って、うちらの今の状況をぎゅっと凝縮した感じがするんだよね。ああやって子どもみたいに走り回ってる子たちもいるし、興味ないのか、忙しいのか、さっさと帰る子たちもいて。大人と子どもの間っていうか。今まで学校っていう集団の中でみんなで同じように過ごしてたのが、だんだん一人ひとりになっていくっていうかさ。去年も同じこと考えてたんだけど、去年と今年でも感じることが違うし」
杏奈の言いたいことはなんとなく分かる気がする。明日からはまた元の生活に戻る。その前にほんの束の間、立ち止まるための時間。そこで答えを見つける奴も、ただ立ち止まるだけの奴も、そのどちらでもなく立ち止まってすらいない奴もいるかもしれない。またしばらく、俺たちは黙って炎を眺め、お互いの思いや時間を共有した。

ドーン!
突然どこかで大きな音がした。
「え?何?」
うまく状況を掴めないまま、杏奈が驚いたような、怯えたような声を出した。

(第一部 完)


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