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博士進学の理由・メリットとは?


博士進学は…考えたことがない学生が大半では?

博士という道は一見、とんでもないトレードオフを強いられるといった認識があるのかもしれません。周囲にもこういった認識は蔓延しており、博士進学率は低いと思います。下の引用文は博士に対する認識を代表していると思います。

『そうか。博士に行きたいのか。であれば覚悟があるか考えなさい。博士に進めば何らかの研究は続けられると思う。しかし、パーマネントの職が得られるかは実力より運次第で本当に分からない。有期雇用で不安定で、給料は安く、結婚も子どもも持てない人生になるかもしれない。それでも学問を続けていられれば幸せだと思えるか?そう思うなら博士に行きなさい』

Quora:博士課程に進むべきか迷っています。教授には誘って頂いているのですが、リスク (理学よりなので、博士卒業後の会社就職は厳しい) を考えると踏み出せずにいます。
何かアドバイスをいただけないでしょうか?




政策主導の研究立国の道は、開かれるのか?


「未来が不安・貧困等の」博士課程認識に変革が起きるかもしれません。新たな政策ができたからです。下記リンクの記事を一緒に見てみましょう。


岸田政権になり、日本国政府は再び「科学技術立国」を目指しある政策を打ち出しました。

10兆円規模の大学ファンド(基金)を設ける新しい法律「国際卓越研究大学法」が国会で成立し、いよいよ始動することになった。これは科学技術を「成長戦略の柱」とする岸田文雄政権の看板政策の一つで、世界でも珍しい、国が元手を貸す「官製ファンド」である。

日経ビジネス

資金が大幅に増えるということは様々な機会が増えることを意味すると思います。例えば、就職して生活をやりくりしなければいけなかった学生に、研究資金として給料を払えるようになったり、民間の研究所でしかできない研究が大学でできるようになったり等です。

また、現在でも億越えの科研費には民間企業とのコラボが不可欠でした。しかしファンドの資金力であれば、こういったコラボが一段と増すのも予想できます。研究資金の拡大の波は院生にビッグチャンスになると考えられます。




博士学位のメリットはまだ伝わっていない

しかし、この政策には様々な反対の声があるのも事実です。
その中でも一番注目した意見は次のものでした。

一方で1996年、文部科学省の「ポスドク1万人計画」で、大学院博士課程の定数を3倍の規模に拡大したものの、1万8000人もの“さまようポスドク就職浪人”が量産された。専門性を生かす場もなければ、稼ぐこともできない。大学も企業も博士を生かす場所にならなかった。その結果、進んだのが、日本の低学歴化だ。

日経ビジネス

96年の現象が今でも記事にされる理由は、日本社会そのものが博士学位を必要としない状況が続いているからだと思います。留学生の友人たちが驚いていたのは、研究所でない一般企業に博士専用の就職枠がないことでした。日本では当たり前になっていますが、彼らには結構な衝撃だったそうです。

要は、博士進学という道を選択し、潤沢な研究室で成果を出しても、学位取得後に行き場所がないのでは? 
つまり、博士学位って必要とされているの?といった疑問が学生たちには残ったままであるのも事実です。

現在東京大学では、修士1年から博士3年まで研究資金(生活費)を支給する卓越大学院プログラムがいくつもあります。様々なプログラムがあるので、一言ではお伝えできませんが、参加率はそんなに高くないのでは?と考えられます。





それでも進学率ゼロじゃない。メリットとは?

これまで触れてきた様々なリスク・不安要素があるにもかかわらず、博士課程に進学する学生は少なくありません。なぜなのでしょうか?ある学生の事例を取り上げ、私の考えも交えて解説したいと思います。



誰にも譲れない、負けたくない知識確立の場


最初に、私が心から「ガチで研究を頑張っている」と思う、国費留学生であるクロアチア人の話を紹介したいと思います。

彼の研究分野は遺伝子工学で、現在D2(博士課程2年)の院生です。研究室のコアタイムは10 To 10であり、土曜日にもよく研究室に行くと言っていました。私からすると、決して望ましい研究環境とはいえないと思います。しかし、彼は心配そうな私の問いに対してこう返してきました。

外部から見ると地獄に見えるかも知れないが、研究は頭じゃないんだよな。時間だよ時間!どれだけ追求できるのかが勝負だ。頭のよさは大差ないと思う。

この一言から真摯さと重みを感じ、それから彼の意見を尊重するようになりました。

しかし、ある彼の発言を聞いたとき、私は疑問を抱きました。

先生が国家プロジェクトに入れとお願いしてきたんだ。でも君も知っているように、お願いじゃなくてこれは一種の命令だよね?俺は先生の意見に反対したよ。俺の研究を進めるのが重要だと思うんだ。

今からでも先生に謝罪して、プロジェクトに参加したらどうなの?と提案したところ、彼女もそう言っていた、と苦笑いするのでした。

通常、先生のお願い(命令)となればよほどのことがない限り断ることは相当困難です。しかし、彼は彼の道を進むと宣言しました。これは、彼が自分の研究結果の責任をそのまま背負うという意味にもとれます。


時間が経ち、私は結局彼の判断が正しかったと考えるようになりました。それは彼が先生からTAに誘われたからでもなく、彼がラボで重要な役割を担うことになったことからでもありませんでした。彼の実験結果が蓄積されつつあったからです。


卒業後、彼に何をしたいのか尋ねると、彼は躊躇なく「起業」をすると言ってきました。これまで彼が研究に関する詳細をあまり話したがらなかったのは、多分このためだと察しました。

時々、眠れない時がある。世界のどこかで俺がしている研究をしているかもしれない恐怖からだ。だから1日でも早く論文を執筆したい。

全てを賭けて研究をしている彼だからこそできる発言だと思いました。







深く多角的に物事を考えられる時間


上記で紹介したクロアチア人の友人は、確立した人生の羅針盤があると思いました。指導教員の指示にも流されず黙々と我が道を進んでいる彼が輝いて見えます。

人生100年とよく言われるご時世だからこそ、博士の意味があるのではないかと思います。上記では散々博士課程の不安要素を指摘してきましたが、逆に質問をしてみたいと思います。

「じゃあ、どの道ならそんなに安泰な未来が保証されるのか?」
答えられる人はいるのでしょうか。

東大OBでもある成田さんの映像を見てみたいと思います。3分ちょっとですが、とても刺さる内容がたくさんありました。

要約すると二行でまとめられると思います。
1.なんの動機もなく、他人が羨む道を進むと危険が待っている。

2.自分なりの価値判断基準の確立が最も要求される時代ではないか。


成田さんが動画で伝えている内容中、人類史で変わらない事に集中するといった概念は、米・シカゴ大学の根本哲学でもあります。この話もまた記事にしたいと思います。


知識労働者として働いていく限り、各分野の歴史書である論文をもとに、消えていく概念、長く残り広まる概念が何なのかを知ることができると思います。


複雑さが毎年増していくこのご時世だからこそ、ある意味、博士課程はメリットがあるかもしれないと思います。

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