#34 地の底で
「はやく、カードを開示せよ。」
白髪のディーラーが低い声で告げる。
今俺がこのトランプ一枚を捲り数字を開示すると自分の命が掛かっていた。
我が国は比較的安全な国家だという認識があるかもしれないが実は違う。
貴族皇族の中でもお金を持ち腐れてしまった層の一部が闇カジノで毎週末奴隷たちの命と、自分たちの端金を賭けて遊んでいる。
奴隷達は大抵幼少期に孤児院から引き取られ、休みなく働かされる。そして最後は賭博のコマとして金持ちの見せ物。
たかがトランプの数字で、目の前の奴隷か俺の首が飛ぶ。
数字の小さい方は頭上のギロチンが脳天から突き刺さる。
数字が大きかろうと奴隷の生活に戻り、いつかは競走馬としてまたこの舞台に戻るだろう。
手に汗が滲むどころではない。
心臓の鼓動が足の先まで届き、これから迎えるかもしれない死に対して体が危険信号を出してるかのように響いている。
手先の感覚はとうになく、機械のようにぎこちない。
表情筋は氷のように歪に固まり、思い通りに動かせそうもない。
今までの人生、生きている心地はしなかった。
思えば今が一番"生"実感をしている。
覚悟を決める。
緊張した指先に力を入れてトランプを捲る。
自分の目が白を向く感覚を捉えた。
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