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ホテルブランディグを支える、ツール&アメニティのデザインとは。

なかなか旅行にもいけない2020年ですが、だからこそ「泊まること」に渇望している八木です。

さて皆様、ホテルや旅館に置かれているアメニティにはどんな印象をもっていらっしゃいますか?

私の経験では、最近はエコの観点から「歯ブラシなどの消耗品は、極力お持ちください」というホテルも増えてきたように思います。ある程度のグレードのホテルであっても、です。

オリジナルのアメニティではなく、オーガニックブランドのシャンプー等を採用して、それで差別化しているホテルもありますね。

かと思えば、こだわりのオリジナルパッケージで、旅の思い出として持ち帰りたくなるようにできているホテルもあります。

今回はそんな「ホテルアメニティ」、およびホテルで使うツールのデザインの話です!

話をしてくれたのはプロジェクトマネージャーの錢亀正佳さんと、アートディレクターの吉本雅俊さん

2020年2月22日にオープンしたホテル、THE HOTEL SEIRYU KYOTO  KIYOMIZU(ザ・ホテル青龍 京都清水)」では、なんと70点以上のアイテムを手掛けたそうです。


◆THE HOTEL SEIRYU KYOTO KIYOMIZU 

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ホテルの内装やデザインに合う、重厚感のあるアメニティに

「ザ・ホテル青龍 京都清水」は、京都市東山区にあり、世界遺産・清水寺から徒歩圏内に建っています。歴史ある旧清水小学校の校舎をコンバージョンして誕生したホテルです。

GRAPHではこのホテルのロゴマークを手掛け、アメニティや、ホテルで使う伝票などのアイテムのグラフィックデザインも担当しました。

その数は70点以上にのぼるそうで、お客様が直接目にするものもあれば、スタッフが使うツールもあります。

まずは、客室に置かれるアメニティについて。

ホテル内装は、歴史ある小学校の面影を残した、重厚感を感じさせるものになっています。この場所に置かれるものとしてふさわしいアメニティのあり方を考えたのだそう。

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▲客室の中には、小学校の教室だった場所をコンバージョンした部屋も。※写真は「ジュニアスイート」


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▲廊下には、ダークブラウンの腰壁が。どことなく、小学校の面影を残しています。


錢亀:「ホテルや客室の内装は、落ち着いたシックな色味でまとめられています。シルバーよりゴールド、蛍光灯より白熱灯がマッチするようなイメージなので、アメニティもそれに沿うようなデザインを、と考えました」

それが、こちら。

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▲ヘアブラシや歯ブラシ、カミソリ、コーム、エメリーボード(爪やすり)など充実のアメニティ。ダークブラウンのパッケージで統一されています。


吉本:「各アイテムは、サイズを統一できるものはなるべく揃えるようにしました。その方が、アメニティを並べたときによりすっきりと洗練されて見えるからです」


デザインは”光”がキーワード

アメニティやそのほかのツールのデザインを考える際、キーワードになったのは”光”でした。なぜならば、GRAPHが考案したマークのコンセプトが、光に関係しているからです。

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▲ホテルのマーク。さて、このマークがどう”光”とつながるのでしょうか?


このマークは、ホテル名の『青龍』からインスピレーションを得て考案されたもの。青龍は、”四神相応”の考え方における東の方角の守り神である青龍のことで、ホテルが東山地区にあることから、ホテルの冠に採用されています。

GRAPHではこの『青龍』をさらに深堀りして、

東=太陽ののぼる方角であること。光のイメージ。

太陽の化身である八咫烏(ヤタガラス)の3本脚や、「清水」の語源となった、”音羽の滝”の流れ

などを重ねて、マークをデザインしました。龍の頭部(目玉と、ひげ)にも見えます。

吉本:「このマークには、特定の色を設定していません。あえていうなら”光”の色であり、白でもなく黒でもなく、『青龍』だからブルーだということでもなく、何色であってもいいんです。

この考え方をベースにして、いろいろなツールをつくりました。

たとえばアメニティのパッケージはデボス加工をしているので、光が当たったときの”影”で、絵柄や文字が浮き出て見えるようになっています」

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▲アメニティのパッケージは、シンプルなデボス加工。光が当たることで凹んだ部分が影になってマークや文字が見える。


光によってうつろう色、ノイエグレー


光をキーワードに考えられたアイテムの中で、「ノイエグレー」という紙が使われているアイテムがあります。

ノイエグレーとは・・・白のようでいてうっすらと青みがかったグレー地で、目に優しく、印刷適性および筆記特性に優れている紙です。

吉本:「ノイエグレーは、”光によって移ろう紙”なんです。暗いところに置くと、暗い色との対比で白く見えるし、明るいところに置くと、白よりも一歩奥まった感じが出ます。」

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▲インルームダイニングのオーダーカード。「ノイエグレー」でもっとも厚い紙を使用。


しかしアイテムによっては、使いたい厚みのノイエグレーが存在しないものも。

吉本:「ノイエグレーは用意できる厚みに限りがあります。たとえばルームキーを挟んでおくホルダーは、使用する厚さのノイエグレーがないので、他の白い厚紙を使って、グレーの色味は印刷によって表現しています」

折り目が割れにくい紙を使用し、下地にわざわざグレーを刷って、他のツールと同じノイエグレーの色味に見えるように調整したのだそう。


吉本:「紙が違うので、光の条件が異なるところでは、他のツールと厳密に同じ色にはならないのですが、一般的な自然光のもとでは、同じ印象になるようにしています」

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▲右上のアイテムだけが白い紙。そのほかは「ノイエグレー」を使用、またはノイエグレー色を印刷しています。並べると、色味の違いがよくわかります。下の真ん中のものが、印刷によってグレーの色味を調整した、ルームキーのホルダーです。


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▲紙袋も、白い紙にグレーを印刷して、”ノイエグレー”色に仕立てたアイテムのひとつ。


テクスチャーのある箔押しで、光の印象を強める

さまざまなアイテムの中でも、特別なときにお客様にお渡しするというメッセージカードや封筒には、金の箔押しでマークが刻印されています

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しかも、この箔押し、よくよく見ると・・・

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ベタの箔押しではなく、光の当たり方で、絵柄が浮き上がるのがおわかりでしょうか?

GRAPHでは”調子箔”と呼んでいる、絵柄やグラデーションなど、テクスチャーのある箔の加工です。GRAPHが得意とする表現でもあります。

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▲調子箔のデザインは、こんな絵柄です。

輪になっている松と、水(波や滝)をモチーフにして、組み合わせています。

松は常緑の植物であることから、子孫繁栄や長寿の縁起物でもあります。その松が輪になっているので、輪廻転生を思わせ、「記憶を刻み未来へつなぐ」という、ホテルのコンセプトにも合致します。

それに「緑」は、古来「あお」と呼ばれていました。現代でも青信号や青菜と呼んだり、新緑をさして”青々とした”と表現したりしますよね。「青龍」も、実は緑がかった色だったのかもしれません。

単なる守り神ではなく、繁栄への願いや、みずみずしい生命力の象徴として受け入れられていたのではないか、という、ホテルが建つ場所の歴史とのつながりが隠されているのでした。


吉本:「名刺などのツールに印刷しているマークも、絵柄が入ったものです。

最初は黒ベタで印刷して試作したのですが、できあがったものを見ると、少々マークが強すぎる印象がありました。

そこで、箔押しで使っていた絵柄を、印刷の方にも使ってみたところ、黒ベタよりも印象が控えめになり、いいバランスがとれました」

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▲名刺印刷されたマークも、絵柄入り。テクスチャーがあることで、マークだけが重くなってしまうことがなく、全体のバランスがとれたのだそう

吉本:「調子箔は、最初は絵柄が細かすぎて、うまく表現できませんでした。そこで少し粗くするように、柄の検証も行っています。柄の出方は、使う大きさにより3種類あります」


コストコントロールと、デザインのあいだ

わざわざ紙製のボックスに入ったアメニティパッケージや、テクスチャーのある箔押し加工。

ホテルブランドを支えるツールだけに、けっこう細かいこだわりがあるんだな・・・と思いながら聞いていたのですが、やはりコスト面も気になります。

私の感覚では、アメニティって、一般的には「そんなにコストをかけられないものなのではないか」と思うのです。

どこまでこだわるのか、どの程度のクオリティを求めるのか、限りある予算との中でのせめぎあいで、難しさはなかったのでしょうか?


錢亀:「おっしゃる通り、コスト管理はシビアな面もあります。金額ありきの中で、収めなければならないものなので、難しさはありました。

でも、吉本が『色をもたず、光をテーマにする』というロゴマークと同様の世界観でデザイン提案をしてくれたので、加工方法自体はとてもシンプルなものが多くなりました

4色フルカラーで印刷するというよりは、1色刷りだったり、デボス加工のみだったりします。

結果として、コストコントロールも可能になりました」


デザインコンセプトは、コストにも関わってくるんですね・・・!

そのほか、細かく用途別に分かれた伝票類などもデザインしています。

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▲ランドリーの受付伝票や、遺失物伝票、手荷物の預かり証など。

ホテルではお客様とのやりとり記録が大切。中には使用頻度としては低いものもあるものの、ホテルで起こりうるさまざまな事態、やりとりを想定して、準備されているのですね。


GRAPHとして、これまでにホテルのツールのデザインを手掛けたことはあったものの、これだけのボリュームを手掛けるのは初めてのことだったとか。


各ホテルの特徴に合わせた、アメニティやツールのあり方に目を向けると、面白い発見がありそうです。今後旅行の機会があれば、ぜひ注目してみたいと思います。











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