見出し画像

ミナ ペルホネンのインビテーションが形になるまで。

みなさまこんにちは!

編集・ライターという職業柄、さまざな企業やブランドから、たくさんのDMやインビテーションをいただく機会があります。

思えば新人編集者時代はそれが嬉しくて、大事に箱の中に溜め込んで眺めていたっけ・・・

インビテーションやDMは、ブランドのコンセプトや世界観を表現したり、新商品への期待感を高めたりするもの。

いかにワクワクさせるか、うっとりさせるか、欲しい!見てみたい!と思わせるか。

そのあたりのことがたくさん考えられていると思うのです。

GRAPHが手掛ける印刷やプリンティングディレクションのお仕事の中にも、そんな素敵なDMやインビテーションがたくさんありました。

今回はその中から、長年のお付き合いとなっている「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」ものをご紹介します!

minä perhonen


シーズンごとのテーマに合わせたインビテーション

ある日GRAPHオフィスに、とても素敵なインビテーションが置かれているのを目にしました。

それがこちら。

オモテ裏

minä perhonenの、2020-2011 AWコレクションの展示会への招待状です。

長年、minä perhonenの印刷物を担当しているプロジェクトマネージャーの錢亀正佳さんによると・・・


錢亀:「minä perhonenの展示会では、シーズンごとにテーマがあり、象徴的なテキスタイルの柄があります。そこからヒントを得て、インビテーションではこんなことをしてみよう、とミナのデザイナーさんがテーマやコンセプトを考えられています。

加工や仕様についても、ある程度見えている場合もあり、GRAPHはその原案をお預かりして、一緒に最終形を目指すお手伝いをしています。

希望をできるだけ汲み取りつつ、予算や納期に合わせて仕様を調整していくというのが、GRAPHがやっていることです」


たとえば、構造的に難しかったり、印刷工程上不可能だと思われたり、予算をオーバーしてしまいそうな場合には、そこを解決する提案をします。

表現したいものを汲み取り、「ならばこんな加工を使ってみませんか」と、仕様を”盛る”方向で提案することもあるそう。

適宜、仕様の”足し算”や”引き算”をして、詰めていくのです。

最初の写真でご紹介した2020-2021 AWコレクションのインビテーションは、「Life Puzzle」というテキスタイルが象徴的に使われています。

中面は絵柄がうっすら浮かび上がる仕様

このインビテーションは二つ折りになっていて、半円状に付けられたミシン目を切り離して中を広げるとこうなります。

ピリピリ後

銀色のメタル紙が使われていて、中面にもLife Puzzleの絵柄が浮かび上がるような加工がされているのです。

錢亀:「中面はピカピカ光る紙を使いたいという希望がありました。さらに、絵柄を線画で、うっすらと見せたいということでした。

最初は絵柄を『薄い白インキで刷る』という話も出たのですが、GRAPHから提案したことは、『銀色の紙に、マットニスを刷る』という方法でした。

絵柄の線にニスを刷らないようにしておけば、絵柄は紙地の銀色が光って見えるようになります

オモテマットニス

▲もともとはピカピカのメタル紙。絵柄の部分以外にマットニスを刷ることで、絵柄が浮かび上がって見えます。


中面とオモテ面、異なる仕様をひとつに実現するために

さて、中面はそのような仕様になるとして、オモテ面は、また異なる表現になりました。

銭亀:「Life Puzzleの原画の雰囲気を残せるように、白い紙に、紺色のインクを塗ったように見えるといいね、という話が出ました。

そこでご提案したのは、光沢のある紙に印刷をすること。インクがのった部分がマットな質感になるので、まるでマジックで塗ったようなイメージになるんです」

ピカピカ

▲オモテ面を拡大してみました。つるりとした光沢のある白い紙に、マットなインキ。手書きのテクスチャーが残る、原画の雰囲気も感じることができます。

こうして中面、オモテ面それぞれのデザインと印刷加工の仕様が決まりましたが、錢亀さんいわく「1枚でどちらも叶えられるような、そんな都合のいい紙はない」ので、中面とオモテ面、それぞれ別の紙を使えるように合紙することに。

二つ折りの加工、さらに半円状にミシン目を入れて切り取れるようにする加工も行うため、いろいろと細かな調整が必要だったそうです。

◆半円状にミシン目を入れる・・・メタル紙は表面にフィルムが貼ってあるため、ちぎりにくい特性がある。あまり厚くすると、切り離せない。

◆合紙したときの厚さを1mm程度に押さえたかったので、中面とオモテ面の2枚の紙の厚さをそれぞれどうするかを検証する必要がある。


そのあたりを調整して合紙したあと、印刷・加工の工程を行い、完成となるのです。

画像9

▲まとめてみました。このような過程を経て、生まれていたのでした・・・!!

エンボス加工や活版印刷で、エレガント&温もりを感じるインビテーション

さて、続いてご紹介するDMはこちら。

画像6

2017-2018 AWコレクションのインビテーションです。花柄の型押しが美しい封筒の中には、二つ折りのカードが入っています。

画像6

画像14

▲カードは活版印刷で、少々かすれたり圧が均一でない部分があったりと、手触り感があります。ところどころに雪をイメージしたドット模様があり、切り込みが入っています。同じように切り込みの入ったロウソクの部分とともに浮かせると、立体感が出て、より温かみを感じます。


錢亀:「封筒は、型押しのように全面にエンボス加工をしています。

絵柄をくっきりと出したかったので、最初は、ギリギリまで圧をかけて強めに押してもらうように職人さんにお願いしました。

ただ圧が強すぎると、型を押した部分からちぎれやすくなってしまうので、少しずつ圧のかけ方を弱めて、見え方との調整を行いました

印刷をせず、白い紙を加工しているだけのシンプルさがきわだつ、エレガントな封筒になっています。

錢亀:「中のカードは、人の手を感じるような、アナログな感じを出したいというリクエストにこたえて、活版印刷で行いました。

活版印刷の魅力のひとつは、均一すぎない、手触り感のある仕上がりにあると思うのですが、機械でそのまま刷ると、イメージよりも綺麗すぎる仕上がりになることも多いのです。

そこで、アナログ感を出すために機械を調整しました。

『仕立てを変える』という言い方をするのですが、印刷機の紙を載せる下敷きの方を、少しデコボコさせるんです。

わかりやすく言うと、硬くて平滑なテーブルの上ではなく、デコボコのある台の上でハンコを押すようなイメージです」

画像8

▲カードをよく見てみると、文字の太さが均一すぎず、綺麗にインクがつきすぎないよう細かく調整されているのだそうです。錢亀さんいわく、ちょうどいい塩梅を出すのに「めちゃくちゃ苦労しました」とのこと。


求める表現のため、「インキに混ぜものをする」という方法

もうひとついきましょう!

画像10

こちらもパリでのコレクションの案内です。このコレクションのテーマは「砂と土の記憶」

やわらかな印象のピンク地に白いインキで印刷されている絵柄は、「senko-hanabi」というテキスタイルの柄です。

封筒の中にはカードが入っています。

画像11

画像12

カードは、2枚の紙を重ねて左端を留めた仕様。


画像13

展示会情報を載せた厚紙の上に重ねているのは、グラシン紙。グラシン紙に印刷されている絵柄も、コレクションで発表されたテキスタイル「hope」です。


錢亀:「ほとんどの印刷会社では、グラシン紙のような極端に薄い紙は機械を通すことができません

GRAPHでも社内で印刷することができず、薄紙印刷を得意としている別会社さんの協力を得て実現しました。

同じように、極端に厚い紙もまた、一般的なオフセット印刷機を通らないんです。どんなに分厚くても1mmくらいが限界、という会社さんが多いと思います。

展示会情報を載せた厚紙は1mmよりも分厚い紙なので、印刷ではなく、箔押しをしています」

一方、封筒の白インキにも注目ポイントが。

拡大してみましょう。

画像14

絵柄の表面がザラザラとしているのがおわかりでしょうか? こちらはオフセット印刷ではなく、シルク印刷で表現されています。

錢亀:「コレクションのテーマが『砂と土の記憶』だったこともあり、砂っぽさを表現できないか、というリクエストがありました。

そこで、インクに透明のビーズを入れて、ざらっとした質感を出すご提案をしました。

実はシルク印刷の場合、インキにいろいろ”混ぜ物”をすることができて、遊べるんです。ラメを入れてキラキラさせたり。

ビーズの粒の大きさにも何種類かバリエーションがあります。

この封筒の場合は、選んだ大きさのビーズを入れて現場で試してもらったところ、思ったほどザラザラ感が出なかったので、できるだけ粒の大きいものを、限界まで混ぜ込むことにしました。

やりすぎると、インキがぼろぼろとして剥がれやすくなるので、塩梅を見極めるのが難しいのですが」

こうして、コレクションテーマと響き合う素敵なインビテーションができあがったのでした。


錢亀:「minä perhonenさんのお仕事では、実験的なことに挑戦する機会も多く、調整が難しい案件も多いです。

でも挑戦していく中でいろんな発見があったり、ノウハウが溜まってきたり、個人的にもいろいろご提案できたりするので、楽しくやらせていただいています」


素敵なインビテーション、他にもたくさん見せていただいたのですが、今回は厳選して3点をご紹介しました。

今後「これは!」と思う印刷物があったら、ぜひじっくり観察して、作った人たちの奮闘に思いを馳せてしまいそうです。

次回もまた、印刷物のお話です。お楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?