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【書物】朽ちた機械要塞

ロマリアル中央大学教授 
オルガド・ラッシウム 著

この惑星セノーラの世界各地には、精密機構要塞と呼ばれるものが存在している。

かつて一大時代を築きながらも、ある日一夜にして国民全員が変死を遂げた巨大国家「アルヴァン帝国」の残した遺跡、俗に「アルヴァン要塞」と呼ばれるもののことである。

アルヴァン帝国は、強大な機械兵器を操ったヒューマン種主体の国家である。
ドラゴンや大型生命体との戦いに勝利した人族とエルフ族がその後に始めた、長きに渡る戦いに終止符を打った。

アルヴァン帝国は独自の優れた技術を持ち、開戦当初は近隣国家の属国に過ぎなかったにも関わらず、あっという間に勢力を拡大した。

その背景には、彼らの開発した機械兵器の存在がある。
彼らのみが精製、加工方法を知っている「アルヴァン石」「アルヴァニル鋼」などから彼らのみが知る製法で、強力な兵器を次々と生み出していった。

人間国家の主な武器である剣、槍、矢などでは効果的なダメージを与えることができなかった。
また、エルフたちの得意とする魔法は効果があったものの、驚異的な頑強さを誇る装甲と、圧倒的な物量の前に苦戦を強いられた。

アルヴァン帝国による世界の領土支配が決定的となったころには、自動で動く兵器も開発、実戦投入されていたという。

圧倒的な性能の兵器を用いて、世界を支配したアルヴァン帝国。
その優れた技術の前には対抗できる国家は存在せず、彼らによる世界統治が永久に続くかと思われたが、その支配は長くは続かなかった。

たったの一夜にして、アルヴァン帝国の国民全員が謎の死を遂げたからである。
それはアルヴァン帝国に住んでいた住民のみならず、他国で生活していた者も、一時的に国を出ていた者も全て含めてであった。

強大なアルヴァン帝国の支配が無くなったことを知った世界各国は、次の世界統治権を求めて再び争いを開始した。
ここから歴史は「第一クライシス期」に突入していく。

さて、あれだけの優れた性能を誇るアルヴァンの兵器を、自国の兵器として利用しようと考える国家は、当然多く存在していた。

アルヴァン帝国の残した精密機構要塞には、数多くの兵器や、その製造に必要となるであろう鉱石や金属が残されていた。

しかしその後の各国の戦いにおいて、アルヴァンの兵器が登場することはなかった。

兵器はどうやっても動かず、石や金属を加工しようと様々な方法を試すもうまくいかず……。
世界各地でそのようなことが繰り返されていた。

アルヴァンの技術は、彼らの頭の中だけに記録されていたのか。
まさに失われた技術である。

アルヴァンの要塞から持ち帰った金属や石は多少は良い値で取引されたが、兵器そのものに関しては解体も持ち運びも容易ではなく、もはやただの重たいガラクタとなってしまっている。

無価値だが破壊するにしても相当な労力と費用が掛かることから、アルヴァン要塞は、世界各地でそのまま放置されている。

数千年以上経った現在でも、要塞の金属は朽ちることなく形を保っている。
また非常に堅牢な建築物であることから、戦争の際に要塞の1つとして再利用されることもあった。

最近では、突然の悪天候や寒さしのぎに冒険者や商人が中に入ることもあるようだが、あまりおススメはできない。

山賊やゴブリンたちがねぐらにしている場合がある他、廃墟となった要塞内で亡霊のようなものの目撃が多数寄せられていることから、不用意に足を踏み入れるべきではないだろう。

また驚くべきことに、要塞によっては未だに侵入者を阻む、危険な仕掛けが機能している場合もあるのだという。

アルヴァン帝国の要塞は各地に残されているが、そのどれもが最早ただの遺跡であることは疑いようもない事実である。

それでもいつの日か、彼らの技術を唯一解明し、再現、および発展させたと語られているフィストレーネ王国の技術と共に、アルヴァンの失われた技術が再び甦る日が来るのではないか。
そう思えてならない。

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