コロナウィルスと中国の報復汚染問題

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※この文章は2月26日に発行されたNew York TimesのClimate Fwd:に掲載された文章を私訳したものです。元記事へのリンクは下にあります※

ここ数カ月で、地球温暖化を進行させる元凶である二酸化炭素の排出量が激減しましたが、その理由は決して喜べるものではありません。

少なくとも8万人が感染した中国でのコロナウィルスの蔓延によって、工場などは操業停止、中国国内の飛行機も運航中止、人々に家にとどまるよう政府が指示したことによりここ3週間の中国の二酸化炭素排出量は去年の同時期と比べて25%も低くなりました。(Center for Research on Energy and Clean Airという機関のLauri Myllyvirta氏の計算によるもの)

中国の産業汚染の影響は甚大であるため、今回のように一時的な変化だけでも大変な影響を与えます。同氏によると3週間で減った排出量は、ニューヨーク州が1年間で排出する二酸化炭素の量に匹敵するそうです(約1億5000万トン)

この数値から分かることは、現在の経済活動がどれだけ化石燃料に頼っているかということです。不況や感染の拡大などにより産業活動が停滞すると、大気汚染も大幅に減少する傾向があります。

中国の石油消費量の減少を示した表が上部にあります。毎年、旧正月前後の長期休暇の間(今年は1月25日から)は消費量が減少しますが、休みを終えて人々が仕事に復帰し工場が稼働し始めると、また上昇する傾向があります。

しかし今年は石油消費量がリバウンドしていません。1月後半に中国政府はウィルスの拡大を防ぐために春節休暇を延長し、旅行や公共の場での集会を制限しました。

中国経済のあらゆるセクターにこの影響が及んでいます。

建設業が停滞したことで鉄などの素材の需要が減りました。運送用トラックが休業し、1日当たりのフライトが1万3千便も減ったことにより石油精製所が生産する燃料の量も減りました。昨年と比較して、このような主要な産業セクターの活動は15~40%も減少したのです。

しかし、病気や不況によるこのような規模の経済の停滞は人的損失を伴うものであり、気候変動への対策としては好ましくありません。時には、悪影響になることもあります。

たとえば中国の場合、感染が落ち着けば排出量が急速にリバウンドするでしょう。グリーンピース・アジアの政策アドバイザーであるLi Shou氏が以前言及したことによれば中国の工場は遅れを取り戻し、一時的な封鎖の埋め合わせをするために生産量を増幅させる傾向があり、これは「報復汚染」と呼ばれています。

中国がこれまですすめてきた環境に配慮した経済活動と、環境問題への取り組みへの努力が無駄になってしまうかもしれないとLi氏は警鐘を鳴らしています。中国政府は経済成長を推し進めるための意欲的な目標を今年は定めていて、失った時間を取り戻すためにこれから走りださなければいけません。鉄やセメントなど大気汚染に影響する産業を活気づけるための新しい政策を打ち出したり、石油燃料からシフトするための努力を緩めるかもしれないということです。

「感染拡大を制御することと経済成長を維持することが、中国の最優先事項になるでしょう。過去にもあったことですが、経済成長が優先されると環境問題は後回しにされてしまうことが多いのです」(Li氏)

New York Times Climate Fwd:(Feb 26, 2020)

"The Coronavirus and carbon emissions" by Brad Plumer & Nadja Popovich


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