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その事業者は一体誰? 〝ソーラーバブル〟に沸く日本|【特集】脱炭素って安易に語るな[PART-4]

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。

11月号ヘッダー画像(500×1280)

文・平野秀樹(Hideki Hirano)
姫路大学特任教授
ひらの・ひでき 九州大学卒業。農林水産省、環境省、東京財団を経て現職。博士(農学)。大阪大学医学部講師、青森大学薬学部教授も務めた。著書に『日本はすでに侵略されている』(新潮新書)、『領土消失 規制なき外国人の土地買収』(共著、角川新書)など。

全国各地でメガソーラーなどの設置が進み、〝ソーラーバブル〟の様相を呈している。だが、それらには顔の見えない事業者たちも含まれている。現行制度の盲点とは──。

 山口県周防大島から本土側を望むと、濃い緑の中に中国系メガソーラーのパネルが黒々と並ぶ。その続きの山岳に剝き出しの開発地が2カ所、際立つ。規模はさらに大きく、10㌔メートル離れた場所からも見通せる。

大規模な開発が進行中のメガソーラー建設地

大規模な開発が進行中のメガソーラー建設地(写真・筆者提供)
(HIDEKI HIRANO)

 すでに海沿いの70㌶以上の森を伐り倒し、大量の土砂を下方に押し広げている。現場では巨大なブルドーザーが20台以上。野球場なら何十面もとれそうな広大な平地を造成中だ。しかしパネルを並べるだけなのに、なぜこれほどまでに大掛かりな開発が必要なのか。

 今夏の大雨では、当地の法面のりめんに大きな亀裂が入り、海沿いの家々を不安にさせたという。崩落した土砂は雨水とともに水田を濁し、美しい自然海浜に流れ込み、海は赤茶けている。

顔が見えない
事業者たち

 現場の勢いと熱気がすごい。

〝ソーラーバブル〟は久々に土木業界を活気づけている。かつて列島改造時代には、国中の農林地が宅地やゴルフ場用地として買われ、平成バブルの頃はリゾート開発に沸いた。

 しかし、今回は主役が違う。開発者はグローバルになり、匿名性は高まるばかり。100億円を投じても、早期に設備認定を受けた事業なら、10年以内に元はとれる。合同会社が事業を担うケースが少なくないが、多くは資金調達が終わると、ほどなく消滅し、次なる合同会社や一般社団法人などに継承されていく。

 開発許可は政府が後押しするから、事業ハードルは低い。パネル設置は建築基準法の対象外だから地元協議の対象にならない。いったん、経済産業大臣から設備認定を受けると、発電事業はいつ始めてもよい。その時点から20年間にわたり、政府は同じ価格で買い取ってくれる。40円/㌔ワット時(2012年度)は、国際平均価格の倍以上で、こうした〝旨み〟を察知した早耳企業が太陽光発電になだれ込んだ。土地の取得も見込みレベルで認可が下りるから、地上げは後からでよい。

 これではまずいと、17年に制度見直しが行われ、買取価格も下がった。20年からは、大規模ソーラーに環境影響評価(アセスメント)が必要になった。

 ただ、経済産業省の設備認定がすでに終わり、工事計画の届け出が済んでいればアセスは不要だし、認定時に約束された買取価格は高止まりのままだ。12年度や13年度に発行された設備認定書は「プラチナカード」で「高利回りの金融商品」になっていて、今でも投資目的のファンドが買い直しするほど人気である。

 政府は本年6月、「グリーン成長戦略」で全発電量の5~6割を再生可能エネルギーでまかなうとし、太陽光はその主力であるとした。称賛され、増え続けるソーラーに死角はないのか。

福島県富岡町にあるゴルフ場跡地

福島県富岡町にあるゴルフ場跡地。こうした大規模な太陽光パネルの設置が日本各地で進んでいる (THE MAINICHI NEWSPAPERS/AFLO)

〝植民地型〟の
発電事業システム

 地元にしてみれば、事業主体が見えないと困る。

「反対の声を役所は拾ってくれない。再生エネの促進は政府の音頭だからって……」

 風光明媚なその場所が好きで移り住んできた人たちは、苦情の持って行き場がない。相手が外国だと簡単には連絡がつかない。

 そもそも地元にとっての益は少ない。

 中国製のソーラーパネルが並ぶだけで雇用効果はなく、売電利益も本社の所在地にしか落ちない。自治体に入るのは固定資産税だけだが、これも所有者不明になると不透明だ。①転売による所有者不明と、②パネル破損による鉛、セレン、カドミウムなどの流出も心配だ。

 そうした不都合が起こったとき、自治体は外資系企業や投資家集団と交渉することになるが、うまくいくだろうか。トラブルは即、訴訟だろう。買い上げ期間満了後の事業者責任が曖昧になっていないか。

 おまけに、かかり増し分を負担するのは国民になる。いつの間にか高い電気代を払わされている。筆者も毎月、2段書きで送られてくる請求書の下段を見るたび溜息をつく。上乗せされた「再エネ促進賦課金」は年間1万476円(21年度一世帯あたり)。日本全体で2兆7000億円に上る。これからも、ずっと国民の負担として吸い取られていく。

 上乗せ分の還流先が海外という構図は、国土から生まれる産業サービスの果実(利益)が国外化していることになる。ソーラー発電事業のシステムが「植民地型」だと言われる所以だ。

安全保障上の要衝に
ソーラーパネルが……

 日本のソーラー導入量は現在、国土の単位面積当たりで主要国中、世界一になった。

 全国の総発電量6.8万㍋ワット(設備認定量:21年3月末)から逆算すると、外資系ソーラー事業者に占有されている国土は、約6万㌶(外資比率3~4割と仮定)。JR山手線の内側面積のほぼ10倍にまで増えた。当然、それらの中には、防衛上の要衝も含まれる。

 昨年10月、政府関係機関から内閣府を通じ、次の情報が首相官邸に報告されたという。「再生可能エネルギー発電事業者として中国系資本が何らかの形で買収に関与したとみられる土地が全国に約1700カ所に上ることが判明。この中には防衛施設周辺などの安全保障上重要な土地も含まれ(る)」(産経新聞、20年11月8日)。

 本稿の冒頭、山口県下のメガソーラー群についていえば、そのサイトは、すぐ前海が船舶通航上のチョークポイントで、上空は米海兵隊岩国航空基地と沖縄県嘉手納空軍基地を結ぶ航路に当たる。そういった地点にソーラーが設置されているのである。いわば重要国土が、外資系や実態がよく見えない者たちによって占有され、利用されている。

図

 政府は本年6月、〈重要土地等調査法〉を成立させ、「600カ所程度の防衛関係施設、原発周辺を想定し土地情報管理に乗り出した」(日本経済新聞、21年8月12日)。こうした動きを歓迎し、「懸念は解消した。措置済みではないか?」と胸をなでおろす方もおられるだろう。

 しかし、カムフラージュ手法はますます巧妙になっていて、代表者を日本人名にするなど、外国人の関与を公表していない事例は圧倒的に多く、外国人の関与を特定することは容易ではなくなっている。

 新法「重要土地等調査法」の施行(22年春)に当たっては、重要国土の指定に見落としがないよう、適切な運用を望みたい。

洋上風力推進に潜む
港湾占拠という懸念

 もう一つ。洋上風力発電への巨大投資の動きも無視できない。

 近年特に伸長著しい分野で、1カ所あたりの投資額が何千億円と桁違いだ。お手本は欧米だったが、今や世界最大規模のエリアは中国(江蘇省など沿岸部)に移った。

 洋上風力発電の資金調達の主流は、プロジェクトファイナンスになるが、この場合、出資者の全貌や実質の采配者の顔が見えづらい。安全保障の観点からのチェックも手薄になる。数年前のクルーズ船誘致のときのセンスのままではいけない。

 しかし残念なことに日本は、海外メーカーのサポートがなければ洋上風力発電を推進できない実情にある。投資面で大半のリスクを取る勢力が海外だとすれば、基地港湾の権益も委ねざるを得なくなるだろう。

 豪州北部ダーウィン港(15年)、ギリシャのピレウス港(16年)、スリランカのハンバントタ港(17年)、イタリアのトリエステ港・ジェノバ港(19年)……。

 これらの港湾が辿ったプロセスを見ていくと幾通りもある。それぞれの国情に最も沿う形の進出――租借、株式取得、出資、開発委託などによって、中国化が進められている。

 今、由利本荘市沖(北側・南側)、能代市・三種町及び男鹿市沖、銚子市沖、五島市沖などが、洋上風力発電の「促進区域」となって沸いているが、基地港湾となる秋田・能代港、鹿島港、北九州港などは、各国港湾の帰趨を先例として心得ているだろうか。

 数年後、石狩市沖や西海市江島沖で最長30年の占有許可が出されたとき、一番喜ぶのは誰だろう。

エネルギーの外資化シフトへ
日本が持つべき備え

 世界に目を転じると、総じて、エネルギーは「武器」に代わって機能することがある。

 14年のウクライナ危機のときが有名だが、ロシアは欧州への天然ガス供給を止めると言い出し、実際止めた。ウクライナへの全面供給停止、ポーランドへの供給2割減がなされた。政治的な対立が起こるとロシアはパイプラインのバルブをいつでも締めるという手段に出ている。

 我が国の場合、中東からのシーレーン(海上交通路)を断たれたら、エネルギー供給は壊滅的に低下する。この先、南沙、西沙諸島が〝新勢力〟によって占有され、原油輸送路が閉ざされる懸念は大きくなりこそすれ、その逆はあるまい。

 電力についていえば、ここ10年、発電、送電・配電の自由化がしだいに進みゆき、再生可能エネルギー発電の分野では外資系が着実に伸びている。その参入は太陽光にとどまらず、風力、バイオマスの分野へも外資系の進出が目立つようになってきた。

 SKY SOLAR JAPAN、WWB、上海電力日本などが有力なプレイヤーだが、それらの企業群は今後、供給シェアをさらに高め、川下(消費者側)へもっと影響力を増していくものと予想される。

 こうしたエネルギー部門の外資化シフトを前に、果たして私たちは無思考なままでよいのだろうか。ウクライナで起こったような危機は日本では起こり得ないのか。

 ゼロカーボンという目標だけに目を奪われていてはならない。

出典:Wedge 2021年11月

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