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「行動しないことが最大の失敗」 空飛ぶ車の実現に挑む!|【特集】現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう[Part6]

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。
しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。
今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。

 空飛ぶ車を本気で実現しようと奮闘する日本人女性のカプリンスキー真紀氏。「失敗してもいくらでもやり直せる」と言い切る彼女の姿勢は、改めて挑戦することの素晴らしさを教えてくれる。
話し手/カプリンスキー真紀
(ASKA共同創業者兼COO) 
聞き手・構成/土方細秩子(ジャーナリスト)、 編集部(友森敏雄)

カプリンスキー真紀(Maki Kaplinsky)
ASKA共同創業者兼COO
1977年生まれ。高校卒業後渡英。英国、イスラエルで大学院を修了(心理学)。日系商社勤務を経て起業し、現在もシリアルアントレプレナーとして活躍中。

 私(カプリンスキー真紀)と夫であるガイ・カプリンスキーが空飛ぶ車、「ASKA(アスカ)」の実現を目指してASKA社を設立したのは2018年。われわれ夫婦にとって3つ目となるスタートアップだ。

 なぜ空飛ぶ車を作ろう、と考えたのか? 理由は現在住んでいるシリコンバレー一帯の過酷な住居環境にある。ここではグーグル、アップルなどの大企業の周辺にはキャンピングカーが林立している。あまりにも住宅価格が高く、そこに住んで仕事に通う人が多いためだ。また、サンフランシスコなどを見ても、狭いアパートに家族で暮らす人も多い。

 一方で少し郊外に足を延ばせば、数千万円でゆったりした一軒家が買える。しかし、そのためには毎日の渋滞、異常に長い通勤を覚悟する必要がある。このジレンマを解消し、人の生活の質を高めるためには何が必要か、と考えて思いついたのが空飛ぶ車なのだ。

 郊外から都市への移動を、安全かつ環境に優しく、しかも4人乗りの車サイズで道路の走行も可能、垂直に離着陸でき効率よく飛ぶことができる。そんな乗り物があれば、仕事と暮らしのバランスを取ることができるのではないか、と思った。

 「ASKA」は電動で飛行および走行する。レンジエクステンダーとしてエンジンを搭載し飛行中にバッテリーを充電する。航続距離が250㍄(約400㌔メートル)、最高時速150㍄(約240㌔メートル)で、陸上は一般道を走行可能。空と陸を使い、効率的に移動することができる。

ASKA

 一般的なeVTOL(電動垂直離着陸機)は飛行に特化したものが多く、離着陸に広い場所を必要とするものも多い。しかし、「ASKA」は新しい設備に大きく依存せず、すでにあるインフラを利用しエアモビリティを実現できる。クルマの機能もあるため、町中にある既存の駐車場や充電ステーションを利用できる。20㍍四方程度の場所があれば離着陸が可能で、着陸後は地上を走行できるため、点から面への自由な移動が可能になる。既存のインフラを最大限利用し、環境への影響を抑えられるからこそ、シームレスにスケールアップができる。

ASKAのコックピット。ドライブモードとフライトモードで、手前の画面がスイッチされる。(ASKA)
上昇するときは6つのプロペラが上を向き、空を飛ぶときは中央の翼についたプロペラが前向きになる。(ASKA)
ドライブモードの際には翼は折りたたんで駐車する。(ASKA)

 実現するために、さまざまな試行錯誤を重ね、今年5年目にしてようやくフルサイズモデルのプロトタイプ完成に近づいた。発売予定は26年で、予定価格は78万9000㌦。購入したり、タイムシェアで利用できる。既に50件以上の予約を受けている。一般の個人ユーザーに加え、エアタクシー、医療関係、災害時の利用などを想定している。

米ラスベガスで開催された「CES2022」に展示されたプロトタイプ(ASKA)

高校を卒業して英国
そしてイスラエルへ

 「なぜ起業したのか?」といえば、……

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