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インド太平洋重視の欧州 日本は受け身やめ積極関与を|【特集】押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる[Part5]

「中国の攻撃は2027年よりも前に起こる可能性がある」──。アキリーノ米太平洋艦隊司令官(当時)は今年3月、台湾有事への危機感をこう表現した。狭い海を隔てて押し寄せる中国の脅威。情勢は緊迫する一方だ。この状況に正面から向き合わなければ、日本は戦後、経験したことのないような「危機」に直面することになるだろう。今、求められる必要な「備え」を徹底検証する。
※年号、肩書、年齢は掲載当時のもの

欧州が抱く「対中警戒感」の強まりが、インド太平洋への軍事的関与という目に見える形で表れている。日本は政治のリーダーシップでこの関与を〝活用〟していくべきだ。

文・鶴岡路人(Michito Tsuruoka)
慶應義塾大学総合政策学部准教授
1975年生まれ。98年慶應義塾大学法学部を卒業。ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。防衛省防衛研究所主任研究官などを経て現職。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。著書に『EU離脱』(ちくま新書)。

 欧州諸国がインド太平洋の安全保障への関与を強めている。特に活発なのが、海軍艦艇の派遣に代表される軍事的関与だ。今年は英国海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を筆頭に欧州からの来訪ラッシュである(下表参照)。

インド太平洋への関与 欧州は本気だ

(出所)各種報道を基にウェッジ作成

 その背景は何か。また、日本は欧州におけるインド太平洋への関心の増大をいかに「活用」できるか。インド太平洋の海洋秩序や当事国間の関係にも視野を広げて考えていく。

 欧州各国が同地域に艦艇を展開する際の特徴として注目すべきは三つある。第一は、関与の質的変化である。駆逐艦やフリゲート艦1隻でできることは限られるが、例えば英国の空母打撃群は、ステルス戦闘機(F35B)を搭載した空母に加え、駆逐艦、フリゲート艦、補給艦、潜水艦から構成される。また、フランスは攻撃型原潜を西太平洋に派遣し、昨年12月には日米仏で実践度の高い対潜戦の共同訓練を実施した。仏政府はその後、同原潜が南シナ海を航行したと発表した。

 第二に、関与する国が増加した。従来は英仏にほぼ限られていたが、ドイツやオランダもアジアに艦艇を派遣する予定だ。他国の艦艇に装備や要員を派遣する「クロス・デッキング」を活用すれば、参加できる国の数はさらに増える可能性がある。より多くの国が関心を有しているとのメッセージを発信することは重要だ。

 第三に、欧州諸国のインド太平洋関与には、米国との協力の深化がみられる。英空母打撃群は実質的に「英米合同」であり、艦載機の半数以上が米海兵隊のF35Bであるほか、米海軍駆逐艦も参加する。今回は、空母を伴う米英の共同行動を西太平洋において確認する意味がある。仏潜水艦の展開に対しては、米インド太平洋海軍がグアムなどで全面的に支援した。

欧州の艦艇派遣の背景にある
対中考慮と対米考慮

 欧州諸国がインド太平洋、特に日本にまで艦艇を派遣する背景に、アジアの安全保障環境への懸念の高まりがあることは明白だ。航行の自由や紛争の平和的解決といったルールに基づく国際秩序自体が挑戦を受けているとの認識がある。

英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」は年内に初めて日本に寄港する
(FINNBARR WEBATER/GETTYIMAGES)

 欧州の対中警戒感の強まりは、注目すべき現象だ。技術流出や新型コロナウイルス感染症関連に加え、……

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