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ANA Cargo脇谷謙一社長インタビュー:第3回(最終回)

ことし4月1日付けで全日本空輸(ANA)執行役員貨物事業室長兼ANA Cargo社長に就任した脇谷謙一氏への直撃インタビュー。3回シリーズの最終回となる今回は、注力する貨物品目/デジタル化/SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなどについて語ってもらった。
インタビュー第1回第2回目はこちらから

──半導体についてはどうですか?

半導体の荷動きは車載半導体を中心に上向いてきました。ただ、米中対立により米国は最先端半導体の製造技術については中国への流出を禁止していますが、中国マーケットは最先端ではない部分の半導体製造にシフトしていくとの見方もあります。一方で欧州、日本、米国を中心に最先端の半導体製造は強くなっていく。各国にも新しい工場が建設されていますので、半導体関連への投資は今秋以降、活発になっていくでしょう。

──半導体製造装置は日本発の航空貨物を支える貨物のひとつですね。

そうです。当社としては大型フレイター(B777F)を持っているので、半導体製造装置は積極的に獲得していきたい。実際ここ数年間、半導体製造装置の輸送実績を積み上げてきましたし、もっとやれるはずです。

「半導体製造装置/医薬品/生鮮品などで一貫した高い輸送品質をお客さまに届けたい」と語る脇谷社長

──医薬品輸送分野にも注力していますが。

医薬品については、17年に成田でCEIVファーマ認証を取得しました。この間、教育・トレーニングを継続し、医薬品に特化したマニュアルの改訂なども実施してきました。現在、ワクチン(コロナ)は落ち着きつつありますが、医薬品、動物ワクチンなどの輸送需要が増えています。特に、医薬品分野については、再生医療製品なども出てきており、今後さらなる伸びしろがあると思っているので、積極的に強化していきたい。

さらに温度管理系では、当社は今年7月に生鮮食品輸送における国際品質認証プログラムであるCEIVフレッシュ認証を取得しました。生鮮食品輸送においても、徹底して一貫した高い品質をお客様にお届けしていきたい。

──ことし10月には日本貨物航空(NCA)がグループに加わりますが、どう連携していくかなどお聞かせください。

NCAについては、この7月にNCAの親会社である日本郵船(NYK)と株式交換に関して契約を締結し、10月の子会社化を目指していますが、現時点では実行前であり何も変わっていません。ただ一般論として、NCAが北米や欧州などの基幹路線で多くの貨物便を運航している一方、当社はアジアを中心に世界各地へ旅客を含めたフィーダー便ネットワークを持っています。この両方を組み合わせられれば、顧客サービスは向上するはずで、この点については力強いと感じている。

──デジタル化についての取り組みは?

先にもお話ししましたが、システムをバージョンアップすると同時に、ペーパーレス化をやらなければならない。ぺーパーレス化については、自社の努力だけでは限界があるため、業界全体でルールや慣習などの仕組みを見直し、抜本的に変えていくことが必要。日本航空(JAL)さんやNCAさんのほか、関係省庁やNACCSセンターなどと協力してやっていきたい。

このほか航空業界全体では、IATA(国際航空運送協会)の航空物流の関係者誰もがアクセス可能な集約型データ・プラットフォーム(PF)「ワンレコード」(One Record)に期待しています。互いのデータを見える化をすることによって、顧客利便性が上がり、サービス向上につながる可能性も出てくる。当社もここは積極的に絡んでいきたいと思っています。

──SDGsへの取り組みとしてSAF(持続可能な航空燃料)導入を積極的に進めていますね。

当社にはSAFを活用して航空輸送におけるCO2排出削減に取り組む“SAF Flight Initiative”プログラムがあります。カーボンニュートラル実現への取り組みは、我々企業のみならず社会全体で絶対に取り組まなければならないことです。こういう状況の中で、フォワーダーさんからは多くの賛同を得られていますが、荷主企業さんも巻き込んだプログラムを準備し、今後の展開を模索しているところです。

SAF Flight Initiativeプログラムの第1弾として大手フォワーダー3社とSAF使用の貨物便を運航(21年9月)

──昨今、SAFの供給量が重要なポイントとなっています。

そのとおりです。いま世界でSAFの供給量が全然足りていません。当社は航空機が排出するCO2を2030年度に19年度比で実質10%以上、50年までに実質ゼロにする目標を掲げていますが、危機感はあります。SAFを確保するための争奪戦はすでに始まっていますが、SAFはコストが化石燃料ベースの航空燃料に比べてとても高額です。まずは、国際競争力のある価格で安定的にSAFを供給できる体制を構築すること、航空サービス利用者による費用負担増について理解を得ることなどが課題ですが、SAF導入は社会全体で取り組んでいく必要があります。

──最後に日本企業・荷主の方々へ何かメッセージがあれば。

現在、マーケットは低迷していますが、低迷しているからといってマイナス思考ばかりではいけないので、将来に向けてしっかり準備しています。やがて需要回復期、好景気になった時に、しっかりとお客様の輸送をサポートできるような準備は万全にしてありますので、引き続きANA Cargoをご利用いただきますよう、よろしくお願いいたします。

──ありがとうございました。

脇谷謙一(わきやけんいち)社長プロフィール:
1991年4月ANA入社。貨物本部マーケティング部チャネル企画チームリーダーや貨物事業室マーケティング業務部部長などを経て、ことし4月から執行役員貨物事業室長兼ANA Cargo社長を務める。趣味は、自転車・自動車の運転、スポーツ、麻雀、将棋、料理、映画鑑賞など多岐にわたる。自動車はマニュアル車が好きで、「将来はスポーツカーに乗りたい」と画策する。学生時代は野球/ラグビー/柔道に励み、スポーツ観戦も好む。「先読み好き」がこうじて麻雀や将棋を嗜むが、「仕事は先ばかり見ていて、足元が疎かになってはいけない」と笑う。今後は、コロナ禍で辞めていた水泳を再開したいと意気込んでいる。55歳。

2023年7月28日掲載

▼▽▼第1回、第2回目のインタビューは下記からもご覧いただけます▼▽▼

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