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アマゾンは試食の楽しみを奪うか?

実は書店が苦手だ。書籍そのものが嫌いなわけではなく、もちろん本はけっこう読むし、忘れることのできない本に人生の節目で出会ったことでその後の人生が大きく変わってきた。でも日本の書店に入るとなんだかいたたまれない気持ちが心に沸き上がってきて、特にビジネス書やマーケティング関係の書棚では、何も手に取ることなく店を出てしまう。

なぜならば、書棚に並ぶ書籍が一斉に、身も蓋もないむき出しの下品な言葉で、しかも大声でこちらに訴えかけているように感じられるからだ。だから、ビッグブラザーになってしまうのではないかとこのNoteで疑っているアマゾンの存在は、残念ながらぼくにとって非常に大きい。正直言って、友人が教えてくれた書名の判明している本や、ネットなどで紹介された気になる本をワンクリックで購入できるというのは本当に魅力的だ。

その逆に食品を販売している小売業は大好きだ。デパ地下などを歩くと、おじさんとしてはちょっと恥ずかしいのだけれど、提供される試食品はこちらから出向いてすべて試してみたいほうだ。とりあえず「味わう」ということに強い興味を抱いてしまう。当然、食品小売業に関しては特別な思い入れがある。地方に旅行に行ったときなども市場を散歩して、珍しい食品を探したり、味わったりする時間は僕にとって重要であり、それも旅行の一つの楽しみだ。外国旅行の際にはもちろんスーパーマーケットは欠かさずに覗いて回るし、ついいろいろと購入してしまう。

ビジネスとしてみた時に、食品を取り扱う小売業として一番大きな意味を持っているのはコンビニだろう。一日に何回も出入りする人がいるし、意味もなくつい立ち寄ってしまうコンビニファンも多い。コンビニでは試食できないのでぼくは決してコンビニファンではないけれど、常に商品が変わり続ける面白い店であることは確か。コンビニ業態は日本がその最先端を走っていると思うが、それもそろそろ限界に近づいてきた。各社が競って進化形コンビニを開発しているようだがなかなか難しそうだ。

そんな時、米国に登場したのがアマゾン・ゴーである。アマゾンは数年前から高級スーパーと表現される「ホールフーズ・マーケット」の買収で食品分野への進出を本格化させている。同社の買収は、これまでアマゾンフレッシュとして積極的に展開してきた食品のネット通販ビジネスを、商品面での拡充や信頼感醸成などにおいてレベルアップし、既存のアマゾン路線を強力にサポートする点で大きな意義を持つ。さらにホールフーズ・マーケット店内ではアマゾンプレミア会員だけが得られる特典もたくさん用意されており、プレミアに加入する動機の一つとなっており、さらには退会しない理由にもなってくるだろう。

その一方で、アマゾン・ゴーはリアルな店舗への過剰なテクノロジー投入によって、リアル店舗が消費者に与えてきた意味を根本から変えてしまう可能性を秘めた恐ろしい存在だ。その結果、アマゾンが消費者の購買行動を変革する可能性すら出てくるのではないかと感じる。

ここでのショッピング体験はショッキングだ。スマホアプリを立ち上げ、入口ゲートにタッチして入店すれば、あとは必要な商品を手にとって店を出るだけ。実際にシアトルの店舗でいろいろ複雑な動きを加えて(棚から商品取ったり戻したり、商品を一旦他の人間に渡してまたかごに戻したり、などなど)体験したが、店を出てからスマホのアマゾン・ゴーアプリに送られてきたレシートは完璧だった。

楽しみでコンビニに行く人も、単に飲み物を買いに行く人にとっても、このシステムは完全だと思う。コンビニレジで働く人に会計精算以外に多くを期待する人はいない。であれば、時間も節約できて、超簡単に物を購入する、というか、必要なモノを合法的に入手するという消費行為を達成するためには、アマゾン・ゴー以上に便利な店は無い。

何よりも、レジを通らず、支払いもせず、棚から商品をとってそのまま店を出るというショッピング体験はむちゃくちゃ新鮮だ。当然、慣れてしまえばすぐに新鮮さは失われてしまうが、今度は逆にレジに並び支払いを行うという「商品受け渡し」や「精算」という行為が面倒なものになってくるに違いない。日本のコンビニチェーンにこの段階までテクノロジーを進化させている企業はないし、アマゾンの年間1兆円を大きく超えるテクノロジー研究開発予算を考えれば、そうした企業は今後も出てこない。

アマゾンはリアル店舗を展開する食品小売業も駆逐してしまうのか?食品小売を利便性という視点で作り直してしまうのか?何よりも試食という僕の楽しみを奪ってしまうのか?できたらそれは勘弁してほしい、、、。

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