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D2Cでリ・フレームされるリアル店舗

ビジネスメディアでD2Cという言葉を目にすることが珍しくなくなってきた。言うまでもなく、D2C(Direct to Consumer)は米国発のオンライン専業の製造型小売業のこと。オンライン専業ではあっても、ある程度に成長するとリアル店舗を展開することが多い。大都市において展開されるそうした店舗が販売目的であるケースはほとんどなく、大部分は純粋にショールーム目的で運営されるために在庫もごく限られており、だいたいは店舗で商品をチェックしてその場からオンラインで発注する、という仕組みになっている。

店舗を持たないD2C企業は通常ネットを活用したブランディングを行うことで市場におけるプレゼンスを獲得する。こうしたオンラインブランディングでは、どこまでも追いかけてくるリ・ターゲッティングメッセージなどが有効であるケースも少なくはない。しかしそうしたメッセージに疲れ気味のミレニアル世代を中核的な顧客とすることの多い彼らのなかには、むしろ最初からショーケース型のリアル店舗をオープンすることを目指す企業も多い。リアル店舗においてはユーザー候補である顧客との間で行われる実際の会話の中から様々なヒントが得られるし、商品を実際に手にした顧客のリアルな反応はオンラインからは得ることのできない貴重な情報だ。

ただリアル店舗のオープンには多額の費用とブランディングのノウハウ、ショーケースストアとして的確に運営するための人的資源も不可欠だ。ゆえにまだ十分な企業規模にまで成長していないスタートアップにとって、ショーケースとしてのリアル店舗を持つことはD2C企業として一つの到達点とも言えるだろう。

また創業のかなり早い段階から積極的にリアル店舗に投資して全米大都市で複数店舗展開し、確実にブランドを作り上げている企業もある。たとえばウォルマートに買収されているアパレルD2CのBonobosなどもそうだ。NYCマンハッタン(巻頭写真)その他の都市に50店舗ほど展開している同社の店舗では、基本的に商品が販売されることがない。

「ガイドショップ」と命名された店舗には「ガイド」と呼ばれる社員が配置されている。予約のみで運営される店舗には「サイズとスタイル」のすべてが揃っている。プロフェッショナルなガイドたちが客の各サイズを測り、欠点を隠しながらもっともかっこよく見える、自分にピッタリの最適なサイズの製品を数多く用意してくれる。ただし色や模様などは在庫されていないので、あくまでもサイズとスタイルをチェックするだけ。

予約時に選択された時間をフルに使ってフィッティングルームを出入りしている間に、ガイドたちとはすっかり打ち解けてしまい、ファッション好きな友人とショッピングに来ているような雰囲気になってくる。とにかく彼らガイドは商品を客に売ることができない(店内に販売用の商品がない)ので、セールストークなど必要ない。似合うか、似合わないかという意見も率直に言ってくれるし、胸周りがあと1インチ細いこちらのスタイルのシャツのほうがよりスマートに見えるぞ、みたいなアドバイスも行い、実際に商品を試着させる。

このように時間をかけて採寸されたサイズやスタイルは、同社のオンラインカタログ上で印がつけられたものへのリンクが店を出たあとにメールで送られてくる。客は家に帰ってから、送られてきたリンクから自分専用のカタログを見て色や柄を選んでじっくり考えてオーダーする、ということになる。

現在の多くの店舗において、顧客がサービスを受けることは非常に少なくなっている。顧客と販売員との接触は、商品が置かれている棚を案内する、店頭にないサイズをバックヤードから持ってくる、という程度だろう。客にしてもへたに販売員に接触すると、何かを売りつけられるのではないかと警戒してしまい、むしろ店員とは接したくないという人も少なくない。ゆえにリアルな店舗はほとんどセルフサービス店舗化している。

それに対してD2Cのリアル店舗は純粋にショールームとして運営されるため、顧客に訴えるのはブランドそのものであり、そこに「売り上げ」という概念はない。その一方で、在庫は一切不要であり、売るための様々な生々しい装置や施策も必要ない。顧客にとっても理想的な環境で、十分な人的サービスを受けて、ブランドと出会う可能性が増えるのだ。そして売り上げは非常に合理的なかたちで、顧客が好きな時に、好きな場所で行う作業から、完全なセルフサービスによって作られていく。

つまりD2Cはブランディングと売り上げという課題に関して、リアル店舗の持つべき価値のリ・フレーミングを行う、まったく新しいビジネスモデルでもあるのだ。では、リアル店舗を持てない初期段階のD2Cはどうしたら良いのか?それに関しても実は米国では有効な解決策が登場している。(以下、次回へ)






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