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<連載>国内外事例から読み解く、2023年オムニチャネル戦略論(最終回)

 前回までの振り返り

  • 本レポートはここ数年間の国内外の様々な事例研究を通じ、今後のオムニチャネル戦略像を考察するものです。

  • オムニチャネル戦略の紐解き方として、まずは「今後の実店舗の存在価値とはどのようなものか」について触れ、その後そうした店舗戦略を支えつつも「小売サービス全体としての価値創造を行うためのECやWEBのあり方とは何か」という順で話を進めていきます。

  • 国内外事例から店舗戦略を読み解くと、そこには大きく4つの価値化の方向性が存在しています。

    • ニューノーマルSHOP

    • サービスSHOP

    • エクスペリエンスSHOP

    • リアルEC SHOP

  • 4つの価値化はそれぞれ異なる方向性を持ちつつも、これからの小売業として「商品と価格だけをマーケティングすればいいだけの時代は終わり、実店舗はもはやカスタマージャーニーの終着地点ではなくなっている」という基本理解に立った取り組みであると言えます。

それでは今回は、それら店舗戦略を踏まえて、これからの有無にチャネル戦略のあり方について考えていきたいと思います。


小売市場の動向

まず最初に、小売市場全体の最近の動向について簡単に触れていきたいと思います。

小売業界の動向として、基本的に先行して進む海外のトレンドを見ていくと、2021年までの5年間で年間の閉店数が新規出店数を超える状況が続き、EC拡大に押されリアル店舗の縮小が進み、「店舗数の拡大=売上拡大」というこれまでの小売業の基本戦略が崩れていきました。

その傾向に歯止めがかかったのが昨年の2022年です。ようやく新規出店数が閉店数を上回りリアル店舗の動きに明るい兆しが見えてきましたが、ここ最近の出店戦略を見ると、これまでとは異なる傾向として目立つのが「店舗の小型化と大型化」の動きです。

まず小型化については、旧来のビックプレーヤーがそのまま店舗を増やすのではなく、従来店舗の1/2-1/5程度の小型店舗を顧客の生活拠点に近い立地へと出店していくというもので、いわゆる大型店のコンビニ化とも呼べるような戦略です。前述の事例でも取り上げたノードストロームローカルやターゲットシティなどが主な代表例です。

その一方で、ブランド感を強く反映させたフラッグシップとなる新規出店やリニューアルの動きがあります。
海外のRent the RunwayやSHOWFIELS、NIKE by Melroseの他に、国内でもMUJI HOTELやEDION、ユニクロパークなどがそれに当たります。

これらの小型化や大型化は、いづれも店舗戦略で取り上げた4つの価値化(ニューノーマルSHOP、サービスSHOP、エクスペリエンスSHOP、リアルEC SHOP)のいづれかに該当するものであり、店舗戦略の方向性に応じて、店舗規模も大きく変えて新規出店したり、店舗リニューアルを行ったりしてきているわけです。

 

全体チャネル戦略の3つの重要視点(考察)

続いて、これまで考察してきた店舗戦略を踏まえて、そこから推測されるチャネル戦略全体に関わる重要な視点を3つピックアップしましたので、ご紹介します。
 

1.    「リテールテイメント」というファン創造活動へ取り組み

「リテールテイメント」とは、「リテール×エンターテイメント」の造語で、店舗を単なる「売り場」ではなく、「顧客を楽しませる場」に変えていくという考えです。

「楽しい」や「ワクワク」」「すごい」「便利」といったリテールテイメントの取り組みを通じて生まれる様々な顧客感情は、ブランドの世界観やスタイルを体感できる場としてのエクスペリエンスSHOPだけが提供するものではなく、ニューノーマルSHOPやサービスSHOP、リアルEC SHOPにも通じるコンセプトとして存在し得ます。

同時にこのコンセプトは、決してリアル店舗に限ったものではないはずであり、店舗とネットのそれぞれの特性を生かしながらブランドとしてどうそれを実現していくのか、という「これからの小売業の大きな提供価値の1つ」となっていく可能性が考えられます。
 

2.    シームレスな体験の提供

2つ目は、オムニチャネルの考え方そのものと通じたものになりますが、「シームレスな体験の提供」です。
1つの場に限定されない体験の拡張は一貫したブランド体験の提供には欠かせない要素となります。

ただしシームレスな体験そのものは、おそらくオムニチャネルの必要条件であって十分条件ではないと考えられます。シームレスの体験の上にかぶさる何かがあって、初めてそれが価値となってワークするはずです。

そしてその何かの1つが上で申し上げた「リテールテイメント」というコンセプトを通じて提供されるサービスになると構想されます。つまり、シームレスな体験はオムニチャネル化を動かす土台(仕組み・システム)であり、リテールテイメントはそのシステムの上で動くアプリケーションのようなものと考えることができます。
 

3.    「販売の終点」から「顧客理解の始点」への店舗マーケティングの変化

3つ目は、顧客ニーズにあったサービスを提供するための情報獲得の視点です。

例えば蔦屋家電+に見られるように、店舗スタッフを通じて得られる顧客情報は、購買データだけでなく非常に多岐に及びます。それらはECでは手に入りづらい情報であるとともに、データ共有の仕組みを持つことで店舗でもECでも活用可能です。店舗を販売の場として終わらせるのではなく、マーケテイングの始点として顧客情報をうまく収集することができれば、より高度なオムニチャネル化の実現へと近づけることができるはずです。

つまり3つ目の視点は顧客理解の元であり、オムニチャネル化を回す「エンジン」のようなもの、と言えます。


一般的にオムニチャネルと言いますと、2つ目のポイント(=シームレスな顧客体験)ばかりが取り上げられますが、それだけではシステムはあっても提供価値に転嫁できない=使いこなせない、という状態に陥りがちです。
システムを使いこなすには戦略感としてのサービスとその戦略感を生み出す顧客理解のエンジンの3要素が必要、というのが筆者なりの考察になります。
 

オムニチャネル戦略を実現させるキーとは?

最後にもう1つ、筆者からの提案をさせていただきます。

実店舗、ECサイト、POPUP店舗など、様々なチャネルを繋ぎつつ、顧客データの共有とリテールテイメント的なサービスを提供する仕組みを実現させるには、もう1つ重要なファクターが抜けていると考えます。
それは、軸となる「窓口チャネル」です。

事業者として顧客には見えない裏側で仕組みを作り、各チャネルでそれらを提供するだけでなく、顧客自身がいつでも主体的に自分のデータを見れたり、サービスを受けられたり、またはデータ収集の場にもなり得る、顧客とブランドとを繋ぐ軸となるチャネル。それはウエアラブルデバイス的なものであり、現時点で言えば「ストアアプリ」ではないかと考えます。

現在多くの小売業でストアアプリを提供していますが、主にはポイント管理とキャンペーンやセール情報などに止まり、有効に活用しきれていないケースが多いように感じます。

ここで申し上げているストアアプリは、もちろんそうしたコンテンツは基本機能の1つとしてあっても良いとは思いますが、店舗戦略の考察で取り上げた4つの価値化のタイプ(ニューノーマルSHOP、サービスSHOP、エクリペリエンスSHOP、リアルEC SHOP)に応じて、それに見合ったサービスや機能やコンテンツを実装していくプラットフォームとして戦略的に活用していくことを想定しています。
 
まだ事例はそれほど多くはないようですが、ストアプリ事例を各SHOPタイプごとにピックアップしてみました。
 
ニューノーマルSHOP対応型ストアアプリ事例


 
サービスSHOP対応型ストアアプリ事例


エクスペリエンスSHOP対応型ストアアプリの事例


 そしてそれらを包括的にまとめると、ストアアプリの全体像は以下のように構想できます。



このようにストアアプリは、これまでのポイント管理やキャンペーン情報の伝達といった「プロモーションメディア」という位置付けから「サービスチャネル」へとかわり、その内容は店舗を含めたチャネル戦略全体によって設計されていくものになります。

ストアアプリにこのような役割を持たせることで、すでに存在している店舗やWEBサイトの一斉改修といった大掛かりな事業活動を行わずに、ストアアプリ(=オンラインサービス)を起点に簡易的にオムニチャネル戦略の推進を進めていくことも可能になります。
 
さらにこのストアアプリは、顧客が各チャネルのサービスをシームレスに活用できるようになるための要素技術にもなり得ますので、ストアアプリの有用性は非常に高いと考えられます。


オムニチャネル戦略は、各チャネルを統合し価値提供していく取り組みですので、店舗やネットなど各事業部を横断し、足並みを揃えながら進めていく非常に大かがりな事業活動です。そのため考え方自体は理解できるものの、どこから手をつけるべきかも難しく、なかなか実行に移せない企業も多いと思います。特に店舗改修となると投資額も桁が変わってきます。

そこで筆者のご提案としては、ストアアプリから実行していくことをお勧めします。
そこにはもちろんチャネル戦略全体としての戦略感を定めていく(社内合意していく)必要があるとは思いますが、その絵を描いてしまえば、あとはそこに焦点を絞ったサービスを考案し、ストアアプリで実装させていくところから大きな1歩をスタートさせることができると思います。

また、ストアアプリの活用に課題感をお持ちの企業様などは、全体チャネル戦略といった風呂敷を広げずに、ストアアプリ内だけでチャネル戦略全体を考慮して企画し実装してみる、ということもありだと思います。

 

最後に

国内外事例から読み解く、2023年オムニチャネル戦略論、いかがでしたでしょうか?

本当は事例紹介などもっと丁寧にご紹介したり、ストアアプリの企画も個別具体的にお示ししたいところでもあったのですが、読み物という枠でまとめたときにあまりにも長くなり過ぎてしまうため、簡略化してお伝えさせていただきました。ただそれでもだいぶ長くなってしまいましたし、簡略化し過ぎたためにわかりづらくなってしまった点もあるかもしれません。
 
改めて筆者からのご提案のポイントを簡単にまとめます。

  • オムニチャネル戦略とは、単に各チャネルで顧客情報を共有し、シームレスな体験を目指すことではない。

  • オムニチャネル戦略の実施には、改めてこれからの小売業としての提供価値の明確化が必要であり、そのヒントが4つの店舗戦略タイプ(ニューノーマルSHOP、サービスSHOP、エクスペリエンスSHOP、リアルEC SHOP)であり、共通した思想としての「リテールテイメント」という考え方にあり、合わせて顧客データの吸い上げも重要となる。

  • またオムニチャネルの進め方として、「ストアアプリ」の活用にその有効性が期待でき、ストアアプリをプロモーションメディアではなくサービスチャネルとして捉え直すことで、オムニチャネル戦略実現の可能性が見えてくる。


繰り返しになりますが、オムニチャネル戦略は複数存在するチャネル全体を統合する取り組みなため、壮大になりがちで着手が非常に難しい課題ではありますが、「ストアアプリ」という入り方であればかなり実現性は高くなるはずですし、全体を見通す戦略感さえ描ければ、ストアアプリ1つでその推進の足掛かりに十分なり得ると思います。

以上で今回の連載は終わりとなります。
もし詳しい話をもっと聞きたいなどございましたら、筆者のプロフィールサイトよりお気軽にご連絡いただければと思います。
今回のケーススタディがチャネル戦略考案の参考になれば幸いです。

 

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