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seven the youth (ultraseven for adults) #49 greatest invade: 2nd (終)

#49 greatest invade: 2nd (終)

ハタオリカズヲは職場に復帰した。復帰するまでに何度か管理職に呼ばれ、職場に来る必要があったが、門の前まで来ると動悸がして、敷地内には入ることができなかった。復帰初日は校舎内に入るだけで、疲労し冷汗が出た。二年ぶりに自分の机に座ると、途端に不安がおしよせてくる。仕事はうまくこなせるだろうか、考えるだけで胸が苦しくなる。心ない同僚の一言や視線が刃物となり弱った心を切り刻む。とにかく耐えるのだ、自分が考えるほど他人は自分のことを気にしてなどいない。辛いこと、悲しいこと、辛いことからは、一秒でも早く逃れたい。焦らない、慌てない、急がない。わかっていても気持ちが逸る。カズヲにとっての史上最大の侵略の第一歩であった。

そんなとき声をかけてくれたのが、主任のエト先生だった。エト先生がいなかったら、今の自分はいないだろう。机に向かって仕事をしているときや、廊下ですれちがうたびに「ハタオリさん、てきとうに」と満面の笑顔で声をかけてくれた。その一言だけで、心がものすごく軽くなった。やがて、エト先生が学年主任となり、その担任団に自分も加わることとなった。ときおり心が重くなることもあったが、心療内科の通院を継続し、良い生徒たちにも恵まれ、休職中や復職したころとは比較できないほど物事は順調に進んだ。しかし、家庭に関しては相変わらずで、問題は山積みではあるのだけれど。

進学重点校では「第一グループ」と呼ばれる難関大学に、ある一定数の合格者を出す、という目標がある。そのためにレベルの高い授業や、国公立大学向けの進学指導が求められる。中学までは優等生だった者たちも、重点校にくると周囲のレベルが高いため、校内での順位が下がり、劣等感から不登校になることも少なくない。カズヲは浪人こそしたが、大学には三つ入学した経験がある。また、以前から受験指導には関心があり、教員である今でさえもセンター試験を、また共通テストになってからも、毎年、全教科を受験している。進学校には水があっており、また努力も惜しまなかった。

一年、二年、と時は過ぎた。そして学年も三年目に入る春休みにある事件が起きた。学年主任のエト先生が、ある理由から学校を離れることになった。カズヲにとっては強力な精神安定剤を失うことになり、また、英語の授業や講習に関しては、エト先生とカズヲの二人でそれまで進めてきたので、受験に向けた最終学年の指導を、カズヲが一人で背負うことになったのである。「俺一人で大丈夫なんだろうか、やっていけるのだろうか」と心の中でくりかえすばかり。エト先生はカリスマ的な指導者だったので、臨時保護者会では、エト先生がいなくなって英語は大丈夫なのか、という質問が相次いだ。それをカズヲは最後列で、下唇をかみしめて聞くことしかできないでいた。

キリヤ、ソウマ、フルダの三名は、命をとりとめた。その後はエイリャン・ゴースの動きはない。

「三人とも良く助かったな」
「ザ・ユースのメンバーは、そう簡単には死にませんよ」
「アジトは大丈夫ですかね」
「そうなんだよ、大変なことが起きようとしている、一刻も早くもどりたいのだが」
「まだ安静にしていないといけません、キリヤ教授」
「でもな、ユリ。いまアースはピンチなのだ、我々ザ・ユースは命に代えてでもアースの平和を守らなきゃならない」
「でも」
「みんな、よくここまで頑張ってくれた、本当に感謝してるよ、ありがとう、だが、これからどうするかはみんなの意志にまかせるよ」
「そんなの、もちろん、答えは決まっているじゃないですか」
「俺たちはザ・ユースのメンバーですよ」
「そうね、私たちはザ・ユースだものね」
「よーし、いこう!」
「イエス・ホウプ!」

キリヤは遠隔操作でホーク1号を、自動送迎システムに切りかえた。ユリは病院に残り、他三名はこのときばかりは道のりが長かった高尾山のアジトにようやっとたどり着いたのである。

「アマベ、留守番、ごくろうさん」
「おかえりなさい、よくご無事で」
「ザ・ユースはそう簡単にはなくならないのさ、モロボシはどうしてる」
「エイリャンに襲われたようですが、無事です、ただ、かなり披露しているようでした」
「そうか、それじゃあ、そのまま休ませておこう」
「レーダーによると、エイリャンは各地に宇宙船を配備しているようです」
「日本をアース侵略基地にしようとしているのだろう」
「出撃しますか」
「いや、まだだ、いま出撃してもしょせん多勢に無勢、敵の出方をみよう」

その日の仕事を終えると、ユリはアジトへと向かうために中央線に乗った。たいていはモロボシが車で迎えに来てくれるので、列車に乗るのは久しぶりである。通勤快速で数十分で高尾駅に着くと、高尾山口駅まではタクシーを利用しなければならない。

「高尾山口までお願いします」

運転手は何も答えない。嫌な予感がしたのでドアから出ようとする、が開かない。ユリは銃口を運転手の後頭部につきつけると、その首がポロリと下に落ちた。運転手はダミーであり、車は遠隔操作されている。やがて、車内は催眠ガスで充満して、ユリはエイリャン・ゴースに連れ去られてしまった。とうとうインベイドが動き出した。アジトのモニターにはユリが映っていて脳波をコントロールされており、喋らされている。

《ザ・ユースに告ぐ、ただちに、我々、ゴースに、降伏せよ。降伏すれば、月または火星のへの、移住を許可し、全人類の安全を、保障する。我々は、強力な、地底ミサイルを、配備している。我々に、従わない場合には、世界各国の、主要都市を、一斉攻撃し、数十億全人類の、皆殺しを、実行する》

日本各地に潜伏していた宇宙船は、同時にその姿を現した。もはや日本は、アースは、全人類が絶体絶命の危機を迎えていた。

「教授、もう我慢できません。出撃しましょう」
「まだだ、もう少し待つんだ」
「でも、ユリが」
「こういうときこそ、落ち着いてチャンスを待つんだ」

キリヤはしばらく何も語らず、黙り込んで、目を閉じて、何かを待っているようだった。やがて、

「きた」

『こちら、K大たまとツキジ、中国四国、関西地方の侵略部隊を撃破せり』
「!イエスホウプ」

『チームRXロッポンギとネギシ、東海、中部、北陸のエイリャン撃破!』
「イエス!ホウプ」

『プロジェクトブルー、イシグロとユシマ、北海道の宇宙船全滅、どうぞ』
「イエスホウプ!」

『こちら、きゆらそしえんぶたい、きゆーしゆー、えいりやん、かいめつ』
「いえすほうぷ!」

『でぃすいず、くらもち、とうほくえりあ、はずびん、ぷろてくてぃど、
ばい、ぶいすりー』
「サンキュー、エブリボディ!これで、我々ザ・ユースがやつらを倒せたらすべて終わるが、まあ、そう簡単にはいかないよな」

キリヤは満面の笑みをフルダとソウマに投げかけた。

「イエス・ホウプ!!」
「ユリのこと、たのんだぞ」

二人はホーク1号でスタンバイ、エイリャン・ゴースの宇宙船は残り10機である。そのうちの1機は強大なパンドン運搬船、また別の1機は大都市を破壊するための地底ミサイルを搭載している。

「アマベ、アジトはまかせた、俺はホーク3号で待機する」
「イエス・ホウプ!」

(あとは運を天にまかせよう、なあモロボシ、いや、セブン・ザ・ユース)

カズヲには、教員になってから、ずうっと持っている、一つの夢があった。その夢とは、教え子の中からたった一人でもいいから、難関大学を合格する生徒を出すことであった。それまでは、大学受験を目標とする学校ではなく夢を実現する環境ではなかったが、ここにきてそのチャンスに巡りあえた。にもかかわらず、心身を壊してしまったが、職場復帰をして再びチャンスを
とりもどした。だがエト先生がいなくなり、たった一人での戦いとなった。

カズヲはもう一度、英語と向き合うことになる。ここまで、カズヲを支えてきた英語、バスケットボール、アコスティックギターだったが、その三つは支えであると同時に、実はカズヲを苦しめてきたのだ。どれも人並み以上にできたのだが、どれも中途半端であることが、やってきた自分だからわかるのである。生徒を難関大学に合格させるには、英語の指導力を最高レベルに引き上げなければならない。ここからカズヲの史上最大の挑戦が始まった。

高尾山付近に浮遊する敵の船団は、日本各地の宇宙船撃破を知るやいなや、地底ミサイルを一斉に発射した。

「ようやく、俺の出番だな、みんな達者でな、あとのことは頼んだぞ」

キリヤはホーク3号をマグマライズ・バージョン変形して、地底ミサイルを全速力で追跡した。モロボシは目が覚めるとすぐに、起きている状況を理解した。ベッドに立ち上がり、眼鏡をかけようとすると、あの声が聞こえる。

「だめだ、かけてはいけない!」

(いま助けにいくからね、ユリさん)

赤い眼鏡をかけたモロボシは、ユリが囚われている船内にテレポートした。額からの怒りの閃光が数体のエイリャンを貫く。ユリの体を抱き上げると、再びアジトにテレポートして、自分の寝ていたベッドに寝かせた。

「ユリさんを救出しました、ホーク1号、空をお願いします」
「イエス・ホウプ!」

(ふう、さてと、おつぎは)

モロボシは自動追跡モードになっているホーク3号の操縦席にテレポート、地底ミサイルを追跡して追いついたときに、自爆モードに設定したあった。あまりに速いスピードによる衝撃で、キリヤは気を失っていた。あと数秒でミサイルの群れに追いつくところで、キリヤを背負ったままのテレポート。ホーク3号マグマライズは、そのまま地底ミサイルを見事に粉砕した。

キリヤをソファに寝かせると、モロボシにはエネルギーがほとんど残ってはいなかった。ホーク1号は宇宙船の残りをすべて片づけたが、巨大な運搬船が地上に墜落すると、その中から火を吐く大怪獣が現れた。パンドンは二足歩行で、火のように赤い体をしており、その体は無数の棘で覆われていた。二つの首の二つの顔には、それぞれ鳥のくちばしのような口がついており、左側からはガソリン、右側からは炎を吐き出している。

(さてと、最ゴのおしごとですな)

カズヲの努力は実を結んで、自分の学年からT大に合格した生徒を出した。以前は名だたる進学校だったが、ここ数年は低迷しており、T大に合格したのは久しぶりである、しかも5人。他の第1グループを合わせると、全部で16人、これは快挙であった。それからというもの、その学校でも異動した次の学校でも、T大合格者は継続して出るようになった。あの辛くて苦しい日々から、ここまでこれたのも苦楽をともにした学年団と、エト先生がいてくれたおかげである。いい意味で、もうこの世に思い残すことはないかな。

(センセー、よかったね、よくがんばったよ。あのとき死ななくて、本当によかった、あのマイナスのパワーがプラスに変わったのだから、大丈夫だと信じていたよ。そのパワーを、今回は俺がわけてもらうけど、いいよね笑)

モロボシは赤い眼鏡を一度はずし、クリーナーでレンズを綺麗にしたあと、再びかけなおそうとした。

「待って!」

ベッドに寝ていたユリがいつの間にか目を覚ましている。

「ユリさん、おわかれのときが、きてしまいました」

「おわかれ、って、どういうこと」

「俺は自分の故郷に帰らなければなりません」

「故郷、って」

「俺は、俺の正体は、ネビュラM78から来た、エイリャンなんです」

「だからなんなの笑、そんなのとっくに知ってた、モロボシくん、あなたがただの、普通の人間じゃないことくらい、知ってたよ涙」

「、、、!」

「人間か、エイリャンか、なんてどうでもいい、モロボシくんは、モロボシくんじゃない」

「ありがとう、ユリさん、ありがとう」

「どうしても、帰らなきゃいけないの」

「帰らなければ、死んでしまうのです」

「もう会えないの」

(たぶん)

パンドンが吐いた炎が、アマベのいる作戦室に迫っていた。

「さようなら、ユリさん(大好きでした)」

「モロボシくん!(行かないで)」

モロボシは眼鏡をかけた。そんなに大きなかけ声を出すのは初めてだった。

「デュワッ!!!」

これまでは赤い眼鏡をかけただけで、生身の身体と超能力で戦ってきたが、モロボシはユリの目の前で、真赤な身体のウルトラセブンに変身したのだ。それからアジトの外にテレポートして、巨大化する。セブンは体当たりで、必死にパンドンの進行をくいとめようとしているが、両足は後方へ下がっていく。ホーク1号のフルダとソウマは、上空を何度も旋回しながら、消火剤を散布し、山火事は徐々に鎮火しはじめる。

セブンに襲いかかるパンドンの、パンチによる攻撃が左のこめかみに入る。のたうちまわるセブンにさらに追撃を加えようと接近する。放たれたアイ・スラッガーも叩き落された。

「負けるな、モロボシ!」

そこにホーク1号の援護射撃。

「頑張れ、モロボシ!!」

パンドンの注意が、一瞬、ホーク1号にそれた。瞬間、叩き落されたアイ・スラッガーを拾って、すれちがいざまに、パンドンの二つの首を切断する。二つの頭を失った深紅の巨体は、ゆうっくりと時間をかけて地面に倒れた。巨大モンスターの息の根を止めたことを確認すると、最ゴの力をふりしぼりセブンは宇宙へと飛ぶ。やがて、明けの明星に向かう赤い流れ星となった。

エピローグ

ユリ
「、、、」

アマベ
「モロボシ、おまえのこと、ユリからきいた、けどな、ユリだけじゃなく、ザ・ユースのメンバーは、おまえの正体なんか、とっくに気づいていたよ、おまえのお陰で、俺の命は何度も救われた。心から礼を言う、ありがとう」

ソウマ
「モロボシ、今のアースがあるのは、おまえがいたからだ。ピンチを救ってくれて、おまえは俺たちの誇りだ。おまえとはまたいつかどこかで、会えるような気がする。なんの根拠もないけどな。だから、さよならは言わない」

フルダ
「たいしたやつだったな、尊敬するよ。いつでもそばにいたおまえがいなくなるなんて、想像できない。おまえはちがう場所でこれからも大切なものを守るため戦うのだろう。会えなくてもつながっている。心はいつも一緒だ」

キリヤ
「さようなら、ありがとう、元気でね」

seven the youth 完 THE END.






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