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ChillTime☆事故物件に住んだときのお話。

リーマンショック後のちょっとあとのお話です。

当時、証券外務員だった私はキャリアシフトをしたばかりで、朝5時30分には起き、テレビ東京のモーニングサテライトをみて、電車の中で日本経済新聞の、文字どおり端から端まで目を通し、東京日本橋の某証券会社まで通勤しており、せわしない毎日を送っていました。

私と同い年の勝間和代氏がよくテレビに出ていた頃です。少しは意識していたかもしれません笑。

ところが、冒頭に書いたとおり、間もなくリーマンショックの煽りを受け、あっけなくリストラに合ってしまったのです。

困ったけれど次を探すしかないわけで、当然ながら金融機関はどこもリストラを始めていたので、同業では働けませんでした。

ひとまず、単発でさまざまな仕事をしましたが、再びキャリアシフトを考えたとき、未経験の職種であれば初っぱなから高い賃金は望めません。それは、高校新卒者の初任給ほどでした。

そこで私が考えたのは、家賃を抑えることでした。当時暮らしていた東京から、次にチャレンジしたい仕事のあった福岡へ躊躇なく跳びました。フットワークだけは軽いのです笑。

東京でインターネットで賃貸情報を閲覧していたとき、福岡市某所最寄駅徒歩4分、築6年で全フローリング6畳と4.5畳の2部屋に、ダイニングキッチン6畳の2DK、トイレと風呂は振り分けタイプの鉄筋コンクリートの4階建てで、2階部屋で月2万円という物件をみつけました。この辺りの相場は安くても6、7万円くらいではないでしょうか。

すぐさま不動産仲介会社へ電話をすると、皆さんもお察しのとおり、なるほど事故物件ということがわかりました。詳しくは、店舗に来てからお話すると言われました。

においさえなければ、私はそこで何があったか気にしないと伝えました。

不動産仲介会社から聞かされたのは、若い男性の自死ということでした。

私はその人を知らないし、私が一番怖いのは生きている人間なので、背に腹はかえられぬ、内見後即決で契約しました。

私が初めてみた人間の遺体は、老衰で亡くなった母方の祖父だったのですが、みた目はいささか蝋人形のようで、怖いという感情は起きませんでした。それも、事故物件を恐れなかった要因かもしれません。

ましてや自死と聞いて、万が一その霊が現れたとしても、お話を聴いてあげたいと考えました。悼む気持ちの方が強かったです。

そして、某年5月31日。住み始めて半年が経過した頃でした。

早朝に誰かがウチのドアをドンドンと叩き始めました。時計をみるとまだ5時前でした。私は驚いて飛び起き息をひそめていたのですが、その誰かは今度はピンポンピンポンとチャイムを鳴らし始めました。のぞき穴越しにその誰かをのぞくのは怖かったので、インターホンを取って「どなたですか?」と訊いてみました。

すると、年配のおじさんのしゃがれた声で「煙草を1本ください、煙草を…」と言うのです。

え?どういうこと?!
不動産仲介会社から聞いていたのは若い男性というから、このしゃがれた声は違うよね?と、万が一の幽霊さんがいらっしゃったのかと想像したのです。

「私、煙草は吸いません…」
そう言うとそのおじさんは「ああ、そうですか。わかりました」とあっさり去ってしまった様子で…、と思ったら次は隣りのドアをドンドン叩いていました!

とにかく私は生きた人間のほうが怖いので、またすぐ布団に潜り込んでまるまっていたら、再び眠りに落ちました。

その後、テレビニュースや新聞でも、特にこの件につながるような事件はなかったので、あのおじさんは、実際ただ煙草が吸いたかっただけなのかもしれません。あるいは、本当に人間だったのかわかりません。煙草が欲しいだけの妖精、いや、妖怪だったのかも...。

いずれにしても、私は賃貸契約満了まで2年間、その日の事件以外は何ごともなく快適に過ごせました。満了後は会社命令で長崎市へ転勤になり、会社が私の自己負担なくステキな物件を用意してくれました。

何か数奇な境遇を感じます。

事故物件、人それぞれの捉え方かもしれません。


※2021年8月18日追記:
もしかすると、亡くなったかたを「幽霊として現れるかもしれない」と表現したこと、また、私の家を訪ねて来た方(訪問者)への私の対応を不快に思ったかたがいるかもしれません。
私は亡くなったかたを冷やかす考えはありませんし、訪問者が実はホームレスで「水を欲しい」といった緊急を要すると感じるものだったら、私の対応は違っていたかもしれません。
誰の命も大切だということを私が宗としていることは、他の記事も読んでくださればおわかりいただけると思います。ご理解いただけますと幸いです。

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