「欧州=FPコーチ」「日本=GKコーチ」。セットプレーコーチは誰が務めるべきか?【楢﨑正剛×松本拓也|スペシャル対談】
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「欧州=FPコーチ」「日本=GKコーチ」。セットプレーコーチは誰が務めるべきか?【楢﨑正剛×松本拓也|スペシャル対談】

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 みなさんは「セットプレーコーチ」という存在を知っているだろうか?

 ヨーロッパだけではなく、日本でもトップカテゴリーで登用されるようになったその役職は、当然セットプレーの精度を高めること、セットプレーの失点を防ぐことにある。セットプレーからの得点・失点が多いサッカーにおいて、重要な役割だと言える。しかし、コーチ業務は現状、“兼任”されることがほとんどだ。

 セットプレーコーチを誰が兼任するか。日本の多くのクラブで、それはGKコーチが担当しているという。しかしながら、GKコーチは、そもそもが専門性の高いポジションの選手を教えている。兼任するには負荷が高い作業なのだ。

 それにもかかわらず、チームがセットプレーから失点した際に、「セットプレーコーチの責任」にされてしまうのだという。コーチである以上、責任はつきものだが、兼任の仕事で全責任を負うことになるのは、やはり厳しいだろう。

 こうしたリアルな実情を語るのは、楢﨑正剛氏と松本拓也氏。特に松本氏は、大宮アルディージャのGKコーチでありつつ、セットプレーの守備コーチを兼任している。「セットプレーコーチ」の仕事とはなにか。ひるがえって、「GKコーチ」の仕事とはなにか。プロフェッショナルな仕事だからこそ考えるべきことだ。

 GKとして日本を引っ張ってきた人物と、GKを教え導く立場として第一線で戦う人物。楢﨑氏と松本氏の、ここでしか聞けない対談をお届けする。

取材=福田悠(GKライター)

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セットプレーコーチ兼任は負担が大きすぎる

──Jリーグのクラブにおいて、GKコーチがセットプレーコーチを兼任しているケースがかなり多いように感じます。東京オリンピックの日本代表でも川口能活さんが兼任コーチを務めていました。3位決定戦のメキシコ戦では、すべてセットプレーから失点して敗北しましたが、選手としての経験が多くても指導者としてまだ経験の浅い方には負担が大きすぎるような気がしています。GKコーチがセットプレーコーチを兼ねることに関して、お2人はどのようにお考えですか?

楢﨑正剛(以下、楢﨑) セットプレーにおいて、GKコーチがどの程度責任を負うのかによって話が変わるでしょうね。

あるべき姿としては、セットプレーの攻守両面で「こういう形でやる」というベースを監督がまずしっかり決めていて、例えば守りの際の配置などについてGKコーチがサポートする程度であれば、そこまで負担はないのかなと思います。

ただ逆に、セットプレーに関する責任をすべて負うとか、守りの配置もすべてGKコーチが決めるのだとしたら話は変わってきます。まず、チームとしてきちんとした約束事があるか。そしてGKコーチの関わり方が明確になっているか。そこが大事ですね。

松本拓也(以下、松本) 僕は今、大宮でGKコーチをしながら守備のセットプレーコーチも兼任しています。今シーズンはセットプレーからの失点も多く、チームに迷惑をかけてしまいました。こんなにやられてしまった年は初めてなので、申し訳ない気持ちと、常に首を締められているような状態でした。

──そうなんですね。松本さんが行っていたドイツやその他のヨーロッパの国ではどうなのでしょうか。

松本 ヨーロッパでは、フィールドプレーヤーのコーチがセットプレーを担当することが多いと思います。「セットプレーはチームの戦術だから」というのが一番の理由らしく、GKコーチがセットプレーの責任者となるケースはほとんどありません。

GKコーチは、ただでさえ失点が勝敗に直結する責任を担っているので、余計にプレッシャーがかかってしまっている現状ではないでしょうか。セットプレーからの失点もGKコーチが責任を追わないといけない状態であるなら、なんとかしたいですよね。

J1、J2でも、シーズン途中でGKコーチが体調を崩して交代するケースが年に数例あるのですが、話を聞く限りその負担もかなり影響していると感じます。

楢﨑 貴重ですね、その話は。実際にトップチームで兼任コーチとしてプレッシャーにさらされないと分からない話なので。

松本さんのお話を聞いた感じだと、GKコーチがセットプレーについてもかなりメインで指導するケースが多いんでしょうね。正直それだとかなり厳しいと思います。GKも関わる部分ですが、まずはチームとしてやり方をきちんと決めるべきことなので。その責任の大半をGKコーチが負うのは違うんじゃないかな。

──GKコーチはただでさえチームの全失点に関わる立場だと思いますが、それに加えセットプレーでの失点の責任も重くなるとなれば、楢﨑さんのおっしゃるように負担感はかなり大きなものになりそうですね。

松本 Jのとあるクラブで、「こいつ(GKコーチ)の指導が甘いからセットプレーで失点するんだ」って、監督が選手の前で吐き捨てたことがあったらしくて。選手、コーチ陣が全員いる場で名指しで責任を押し付けられたので、そのGKコーチから「ちょっともうキツい」と連絡が入ったことがありました。

今はGKコーチ同士でなにかあれば精神的な部分はお互いに助け合いながらやっているような状況です。さすがに直近の対戦相手やカテゴリーが同じクラブ同士だとなかなか話をしづらいですが。

──失点の原因をGKコーチに押し付けるのは建設的ではないですし、プロのクラブでそんなことが起きているなんて、にわかには信じられません。

松本 もちろん、GKコーチにも間違いなく責任はあります。起きてしまった失点を防ぐために次からどうするべきか。そこに向けて選手とともに最大限心血を注ぐのが僕たちの仕事です。ただ、「失点=100パーセントGKコーチの責任」という考えはさすがに短絡的すぎるので。

そういう意味では、僕たちは監督やスタッフと相手チームを分析したなかでどどのように守るかをみんなで共有していて、全員で一緒に取り組んでいる感覚を持てているので、本当に心強いですし、助かっています。監督の霜田(正浩)さんが客観的に全体を見てくださる方なので。

でも、クラブによってはパワハラのような事例もあります。「お前に任せているのになにやってんだ」と言われるのが当たり前になっているチームも少なくありません。

楢﨑 最終的には一番のボスが責任を取るべきですよね。GKコーチのせいにしておけば楽なんでしょうけど、それだとチームはいい方向に進まないですよ。

そういうクラブはGKコーチの立場が弱いんかな? 監督と対等に話せる関係性なら、そういうこともあまり起きないと思う。

ただ、「セットプレーコーチ」という名で失点の全責任を負うのは賛成できないけど、セットプレーでは重要な意見を述べられることも、GKやGKコーチにとっては大事なことだと思います。

──日本ではGKという存在がヨーロッパと比べて少し軽視されている状況がいまだにあると思います。フットボール文化の未熟さも要因なのでしょうか。

楢﨑 それは根底にあるのかもしれないですね。

セットプレーコーチ兼任の話にしても、正直そればかりに気を取られていると、本来やるべきGKコーチとしての仕事がおろそかになりそうですけどね。

松本 そうなんですよ。試合中は、GKのパフォーマンスや戦術的な視点を持って観察したいのに、セットプレーの守備のことが気になって、本来、見るべきポイントを注視できないことが多いです。セットプレーで失点しないように……と心の中で毎回祈ってしまっています。

Jリーグでも、外国人が監督をされているチームや、日本人監督の下でも、いくつかのチームでは、GKコーチ以外の方が担当しているケースもありますよね。気持ち的にも、時間的にも、GKコーチの負担がかなり軽減されて、本来のGK指導に集中できる環境が整っているように感じます。

──GKというポジションが非常に重要だからこそ、やはり本来は別の仕事を兼務するべきではないのでしょうね。

楢﨑 GK指導に集中できたほうが、チームのGKのパフォーマンスは間違いなく上がるでしょうね。どこのチームも「セットプレー専門コーチ」を置く流れになれば、GKコーチが本来の仕事により集中できるようになるので、日本のGK全体のレベルアップにもつながると思います。


GKの未来は楢﨑さんが鍵を握っている?

──今回の一連の対談のなかで「日本のGK育成環境も以前に比べて整備が進み、それが近年の若手GK台頭にもつながっている」というお話がありました。改めて今後の日本のGK指導になにが必要になるか。2人のお考えを教えてください。

松本 日本のGK指導の現場も以前に比べればかなり変わってきていて、「こういう場面ではこういうテクニックを使う」といった知識などについてはずいぶん浸透してきました。これからは指導の際にそれらを“どこまで教えるのか”、そして“どこから先を考えさせるのか”という点が課題になってくると思います。

──なるほど。初めからすべてを教えてしまうのではなく、自ら考えさせると。

松本 そうです。対談の最初にもお話しさせていただいたように、同じレベルのGKでも、自分で考えて日々試行錯誤を続けて一定のレベルに到達したGKのほうが、すべて教えられてそのレベルまできたGKよりも、その後の伸びしろがあると思います。

だからと言って、全部を“選手の気付き”に委ねるのもまた違う。選手が自分で考えて答えを見つけ出すように、いかに導けるか。そういった指導法を確立していくのが次の段階だと思います。

あとは選手だった方々に、より様々な発信をしてもらいたいですね。例えば、「現役の時にはこういうふうにプレーしていたけど、指導者になった今はこう考えている」というようなことを発信していただければ、「選手は今どう考えているのか」「今どう感じているのか」ということを僕らもより深く知れると思うんです。

要するに、日本のGKの未来は楢﨑さんが鍵を握っていると思います。

楢﨑 何を言うてるんですか(笑)。

──楢﨑さんはまさに第一線、トップ・オブ・トップで活躍されたうえで今、指導に進まれている方ですからね。

松本 最終的には楢﨑さんみたいな人が協会のリーダー的ポジションに就いて、僕ら現場のGKコーチを統括するような体制ができればいいのかなと、個人的には思います(笑)。

楢﨑 選手をいくらやっていても、指導はまた全然違うから(笑)。

でも本当に、選手経験がなかったとしても、GKについて、あるいは指導法について、自ら学ぶ姿勢、意欲が高い人、あるいはすでに多くの知見を得ている方はたくさんいますからね。僕のような元選手のGKコーチだけでなく、そういった様々なバックボーンを持ったGKコーチが互いの知識や経験を持ち寄って、うまく融合させていく。そうすれば、日本のGK指導はもう一段階、先に進めるはずです。


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