永遠に治らない日本人GKの“かさぶた”。芝生練習のメリット【楢﨑正剛×松本拓也|スペシャル対談】
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永遠に治らない日本人GKの“かさぶた”。芝生練習のメリット【楢﨑正剛×松本拓也|スペシャル対談】

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 海外のGKと日本人のGKの違いとはなにか──。

 いいところも悪いところも含め、たくさんあるだろう。ただし、少なくとも現時点で先を行くのは海外だろう。日本人GKも若手が台頭し、総じて技術も高まったと言われているものの、もう少し大きな視点で捉える必要があるかもしれない。

「芝生の上で飛んでいるからじゃないですか」

 以前、「海外の選手は、日本人に比べて身体が目いっぱい伸びているように見える」と伝えた際に、楢﨑正剛氏はそう答えた。土だと当然、痛い。それが選手の脳内で無意識的に影響しているかもしれない、というのだ。

 他方、大宮アルディージャの松本拓也GKコーチは、「日本では先に技術を教える。でもドイツでは、GKの楽しさやシュートを止める喜びを伝える」と言う。

 それらが必ずしも両者の差になるわけではないものの、世界と日本との違いの一端であることは間違いない。日本において、GKが胸を張って世界レベルだと言える日がくるのだろうか。日本でGKが“花形”と呼ばれる日がくるのだろうか。

 名古屋グランパスのアカデミーでGKコーチを務める楢﨑正剛氏と、ドイツの古豪・カイザースラウテルンでも指導実績のある松本拓也GKコーチが、トップレベルのみならず、育成現場の違いにも焦点をあてながら、深く考察していく。

若手GKの基礎技術が高い要因とは?“教え過ぎ”問題に直面する現場の声

取材=福田悠(GKライター)


風格ただよう22歳、イタリア代表・ドンナルンマ

──この夏はユーロ2020、東京オリンピックが開催され、海外の若手GKのプレーを見る機会にも多く恵まれました。24歳のウナイ・シモン(スペイン代表)や22歳のジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア代表)といった20代前半のGKの活躍も目立ちましたが、GK大国・ドイツでの指導経験もある松本さんの目にはどのように映りましたか?

松本拓也(以下、松本)  いま名前が挙がった2人は特にですが、強豪国で正GKを任されている選手たちは、GKに求められる全てのアクションのクオリティが高いですよね。

個人的にはドンナルンマが一番印象に残りました。自分の守れるエリア、スピード、サイズなどをよく分かっていて、全体としてすごく落ち着いてプレーしていました。どんなプレーがいいか、悪いかを、育成年代の頃からよく整理されていたのでしょうね。

22歳ながらすごく落ち着いていて、すでにベテランGKのような風格も出てきています。パワーもあるし、ああいう選手が後ろにいたら味方も安心してプレーできるはずです。

──16歳でセリエAデビューを飾っているだけあって、すでにたたずまいも一流ということですね。

松本 映像を見るとけっこうミドルシュートを打たれている試合もあるんですが、しっかり対応しています。イタリアのA代表ではすでに「ドンナルンマならこの距離は打たせていい」という共通理解が、チーム戦術として成り立っている。あの若さで、それはすごいことだと思います。

──楢﨑さんも現役時代、長くプレーされた名古屋グランパスや日本代表でそういった「この距離は打たせるから」という雰囲気があったように感じました。

楢﨑正剛(以下、楢﨑) そうですね。チームとしてある程度の距離からは打たせてOKという共通認識はありました。当然、近めから打たれるより遠めから打たれたほうが防げる確率は高いですし、シューターにとっても簡単ではないので。深く侵入させないことを第一優先としていました。

加えて、DFの選手と呼吸を合わせるというか、信頼関係を築くことも重要です。「こういうシュートだったら止めてくれよ」とか、「楢﨑ならここだけ切っておけばあとは止めるでしょ?」といった、あうんの呼吸のようなものです。細かい決まり事、チーム戦術がなかったとしても、長く組んでいる選手とはパッと集まった瞬間にそういう連携が取れます。僕は、闘莉王とはそういう感覚がありました。

ドンナルンマも、イタリア代表のディフェンスラインの選手とそういった信頼関係が築けているように見えます。プレーの水準が高いからこそ、若くして代表でも味方の信頼を得られているのでしょう。

土だと飛ぶときに痛くないよう飛んでしまう

松本 以前から楢﨑さんに聞いてみたかったことがあるんです。僕は選手として一番上まで行っていないので分からないのですが、日本人GKのトップまで行った楢﨑さんから見て、ご自身と世界のトップGKの違いはどんな部分にあると感じていましたか?

楢﨑 自分では世界のGKとの差は、現役のときはなんというか……やっぱり認めたくなかった(笑)。比較したくなかったからはっきりとは分からないかな。

でも一つ感じていたのは、海外のGKは身体を大きく広げるというか、ダイビングの際にもしっかり伸びきる。そのあたりは、自分も含めた日本人GKと比べてダイナミックさが違うなと感じていました。

──以前、楢﨑さんに「海外のGKはゴールの隅に飛んできたシュートにダイビングする際、日本人に比べて身体が目いっぱい伸びているように見えるのですが」とうかがったら、“芝生の上で飛んでいるからじゃないですか”と答えてくださったのが印象的でした。育成年代の頃に土の上で飛ぶのとではやはりフォームの身に付き方も変わるのでしょうか。

楢﨑 原因はそれだけではないかもしれませんが、やはり受け身を考えて飛ぶのとなにも考えずに思い切り飛べるのでは大きく違うと思います。

僕自身、高校までは土のグラウンドだったので肘や膝が常に痛かったですし、同じところをずっと擦りむいたりしましたから。ブヨブヨして骨が動いている感覚がしたこともありました(笑)。そうなると、飛ぶときに無意識に痛くないように飛んだりしていただろうなと、後になってから思いましたね。

あと海外のGKは、一つひとつの止める瞬間の集中力、“形がなんであれとにかく絶対に止める”という気概かな。あれは敵ながらすごいと思う瞬間はありました

──海外GKの土壇場での勝負強さみたいなものは、それこそワールドカップやユーロなど、大舞台やトーナメント終盤のときほど特に顕著に見られますね。

松本 よく「海外のGKは本番に強い」と言われますが、その理由として育成の観点から考えられることがあります。

日本だと子どものころはまず、正面キャッチの手の形とかから始めて、GKの基礎技術を一通り覚えてから最後にゲームに行くんですよね。ゲームでGKがセーブしても日本のGKコーチは「今のプレーは腕の出し方が悪かった」みたいな基礎技術の細かい部分に着目する人が多いと思うんです。

一方、ドイツで僕が見てきたいくつかのチームでは、とにかく止めたら「ナイスキーパー!」とGKコーチが声を掛けて褒める。その後に「コーチ!今のボールをもっとうまくキャッチするにはどうしたらいいの?」と子どもたちから聞いてくるんです。まずGKの楽しさやシュートを止める喜びを伝え、その魅力を覚えさせたなかで選手自身が自ら技術に対して興味を持つようになり、そこではじめて技術を教えていく、という順番なんですよね。

日本だと基礎技術の指導から始まるケースが多く、ゲームで止めても「今のプレーはもっとこうしたほうが良い」と指摘されるケースも多い。そうやっている内にだんだん、自分自身で自分のプレーを評価せずに、まず最初にコーチがどう思うか?を考えるようになり、だんだんプレーが小さくなっていってしまう。そういった違いも影響しているのかもしれません。

──まず「本番は形はどうであれとにかく止める。そして楽しむ」がありきの欧州と、技術が先行する日本との違いですか。

松本 すごくシンプルな話なんですが、GKを始めたころは「シュートを止めるの楽しいな」「止めると嬉しいな」というのが入口になると思うんです。ドイツでは普段の練習のなかでもGKが取り合いになることも多いですし、フィールドプレーヤーと並行してGKとしてもプレーするという子は多いです。

日本では、欧州ほどGKが人気ポジションとなっていないのは、その楽しさや魅力を十分に伝えきれていないというのも原因の一つかもしれません。

GK人気の鍵を握るのは日本代表の選手たち

──知人が指導している少年サッカー団などでも、親御さんがコーチに対して「なんでうちの子はキーパーなんですか?」と苦言を呈してくるケースが少なくないそうです。本人が進んでGKをやっている場合であってもです。日本ではまだまだ「FWやMFこそサッカーの花形」という認識の人が多いのでしょうね。

松本 そうですね。そういう意味では、東京オリンピックで谷晃生選手が活躍して一躍ヒーローになったことは良かったと思います。

──私の世代が正にそうなのですが、小学生のころに楢﨑さんや川口能活さんにあこがれてGKを始めた子がとても多かったんです。世間の注目が集まる日本代表の試合でヒーローが誕生することも、GKの人気向上に直結しそうですね。

松本 間違いないですね。僕も「ソンディコ」っていうメーカーのキーパーグローブをいろんなお店に探しに行きましたから!

楢﨑 それ、俺がプロ2年目の1年間だけ使ってたグローブやん(笑)。

松本 あと「パトリック」のスパイクと。なかなか売っていなくて、探すのに苦労しました(笑)。でも、当時はそれだけみんなが楢﨑さんや能活さんにあこがれていましたし、そこをきっかけにGKになった選手はたくさんいたはずです。やはりヒーローの誕生は大事な要素だと思います。

楢﨑 たしかにね。僕がヒーローかは分からないけど、日本人GKが活躍してスポットライトを浴びるのは本当に大事なので、代表のGKたちにはぜひ活躍してもらいたい。国際試合は観ている人の数もケタ違いですから影響は大きいはずです。

僕も東京オリンピックの谷くんの活躍は大きかったと思います。例えば、PKストップはGKのプレーのほんの一部でしかありませんが、それでもあまりサッカーを知らない人からしたら注目しやすい場面ですよね。

準々決勝のニュージーランド戦で見せたPKストップのように、世間に注目された場面で活躍してクローズアップされるのは本当に重要なことです。

あのシーンを見て「GKになりたい!」と思った子どももたくさんいるでしょうし、そこから未来のGKが育っていくサイクルが生まれるといいですね。


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