正しいと信じられてきた“基本”は1/8しか該当しない。辣腕トレーナーが語る野球界の“真セオリー”
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正しいと信じられてきた“基本”は1/8しか該当しない。辣腕トレーナーが語る野球界の“真セオリー”

スポーツには「基本」「セオリー」と呼ばれる動作がある。

ほぼすべてのプレーヤーはこの「基本」「セオリー」を身につけ、そこに自らの感覚や技術を上乗せしてオリジナリティーを追求していく。特に野球は、この「基本」を重んじるスポーツのひとつだ。

しかし、もしもこれまで「野球の基本」と信じられていたものが間違いだったとしたらどうだろう。

パーソナルトレーナーとして山岡泰輔、杉本裕太郎(ともにオリックス)、高橋礼(ソフトバンク)らプロ野球選手を指導する「Mac’s Trainer Room」代表・高島誠氏は、「これまで野球の基本と言われてきたものは、全体の1/8のプレーヤーにしか該当しない」と語る。その真意とはなにか。

取材・文=花田雪

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日本の野球界は、正しいとされる“基本”に縛られ過ぎてきた

高島氏は高校野球界の名門・広島商業を卒業後、鍼灸の専門学校に進学。その後、NPBのオリックス・ブルーウェーブ(現バファローズ)、MLBのワシントン・ナショナルズでトレーナーを務めた経歴を持つ。

日米でのトレーナー経験で感じたのが「日本の野球界は、基本に縛られ過ぎている」ということだ。

「日本ではプロであっても基本を重視しますが、チームのなかにはそれが合わない選手もいるように感じました。それは、私自身も経験したことです。中学まではチームで4番を打ち、自信をもって高校に進学しましたが、練習すればするほどなぜかへたになっていく。当時は知識もなかったのでその理由がわかりませんでしたが、トレーナーとして経験を積むうち、『野球の基本とされるものは、すべての選手に合うわけではないのでは?』という疑問にぶち当たったのです」

そんな思いがより強くなったのは、アメリカの野球を目の当たりにしてからだった。

「MLBには、日本で基本と呼ばれる動きとは全く違う体の使い方をしているのに、高いパフォーマンスを発揮する選手が多くいます。それらは『身体能力の差』『外国人選手特有の動き』と片付けられてきましたが、よく見ると選手個々が自分の体に合った動きをしている。彼らには、彼らなりの『基本』があるんです」

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どんなスポーツにおいても「基本が大事」なのは普遍的な事実だ。しかし、なにをもって「基本」とするかは選手個々によって違ってくるという。

「一番わかりやすいのが『軸足』の考え方です。投球でも打撃でも守備でも、日本の野球界ではこの軸足の動きを重視する。投球であれば『軸足(右投手の右足)に体重を乗せて真っ直ぐ立ち、そこから前の足(右投手の左足)を踏み出して体重移動する』。打撃でも『軸足(右打者の右足)にしっかりと体重を乗せて、下半身主導でスイングをする』といった指導が野球界では基本であり、常識でした。しかし、例えば右投手であっても軸足より踏み出し足の方が動かしやすい選手がいる。そんな選手に『軸足を意識しろ』と指導しても、うまくいかないことが多いんです」

野球というスポーツは、投球、打撃、守備すべての動きが、基本的に一方向に制限される。サッカーやバスケットボールにも選手の利き手、利き足による動きの違いはあるが、試合中は局面に応じて左右、前後にフレキシブルな動きが求められる。

しかし、野球は違う。

基本は、すべて同じ方向への動作。つまり、右足、右手、左足、左手にそれぞれ違った役割が求められる。それを反復し、再現度を高めることでパフォーマンスが向上するのだ。

「日本の野球界で結果を残しているのは、そのほとんどが『軸足が動かしやすいタイプ』の選手です。なぜなら、幼少期から『軸足を意識しろ』『軸足主導で動かせ』と指導され続けてきたから。逆に、その指導に合わない選手のほとんどがつぶされてきたと言い換えることもできます」

高島氏は野球界で基本とされる指導に疑問を感じ、それを追求した結果、「パフォーマンスライン」という考え方にたどり着いた。「右足・左足」「右手・左手」「腹筋・背筋」のそれぞれどちらが動かしやすいかを把握すると、選手のタイプは8パターンに分類できるという。

「さらに細分化することもできますが、基本はこの8パターンです。そして、野球の基本とされる動きはそのうちの1パターンにしか該当しない。残りの7タイプにとっては最適な指導とは言えないんです。特に厄介なのが、(右投手の場合)利き腕とは逆の左腕、軸足とは逆の左足が使いやすいタイプの選手。野球界は軸足の指導を重視しますが、投手の場合はそれに加えて『利き腕』ばかりにフィーチャーされることが多い。ただし、タイプによっては利き腕ではなく、グラブをはめたほうの腕の動きが重要になるケースもあります」

「基本」といわれる型にはめるのではなく、個々の特性を生かした指導が必要だと、高島氏は語る。

「固定観念にとらわれ過ぎたことで、野球界はこれまで多くの選手の成長の芽を摘んできた。基本をたたき込むことは大切ですが、それで上達しなかったり、結果が出なかったりしたときに『こいつはダメだ』『センスがない』と切り捨てるのではなく、違うアプローチをすればもっと良くなるのではないかと考えてあげる。それが指導者の役割ではないでしょうか」

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フォームの前にやるべきこと。投球に必要な“4要素”とは?

高島氏は自分の体に合った「パフォーマンスラインを見つけること」に加え、「パフォーマンスを上げるために何が必要なのかを知ること」も重要だと語る。

「たとえば投手の場合、その指導のほとんどはフォームに費やされます。先ほどの軸足の話もそうですが、体の使い方はこうだ、腕の振りはこうだ……。しかし、それ以前にやらなければいけないことがあります」

投手にとって必要な要素として、高島氏は以下の4要素を挙げている。

・柔軟性
・身体操作性
・筋量
・筋出力

「こういうフォームで投げたいと思っても、柔軟性がなければ不可能な場合もあります。また、頭で考えた動きをしっかりと体現できる身体操作性がなければフォームは定着しないし、再現性も低くなる。シンプルに球速を上げたいと思っても、それを可能にするだけの筋量と筋出力がなければ無意味です。『どういうふうに投げたほうがいいですか?』と聞かれても、『いや、その前にもう少しトレーニングをしたほうがいいよ』という選手は大勢います。トレーニングへの意識は年々高まっていますが、まだまだ足りていない。極端な話、この4要素が高い水準で確保できれば、フォームは自然と自分に合った形になっていきます」

その一方で、近年はアマチュア球界のレベルから「意識の変革」が起きていることも感じているという。

「私が指導をしている広島県の武田高校は1日50分という限られた練習時間ながら昨年の広島独自大会で県ベスト4にまで勝ち上がりました。それ以外にも、新しい技術、新しい考え方を取り入れたいという学校はたくさんあります。高校野球界は今、変革のときを迎えています。おそらく、投手の球速もこれから飛躍的に上がっていくでしょう」

その言葉を裏付けるように、プロアマ問わず指導を行う高島氏のもとには、今も多くの指導依頼が寄せられている。また、今年出版した自著『革新的投球パフォーマンス 普通の高校生でも毎日50分の練習で140km/hを投げられる』(日本文芸社)もスマッシュヒットを飛ばしているのだ。

「たくさんの人が、新しい情報を欲していることを肌で感じています。私自身もつねに知識をブラッシュアップして、そういう人たちの力になれればと考えていますし、野球界の変革の一助になれればうれしいですね」

これまで正しいと信じられてきた野球の基本の根底が見つめ直され、日本の野球界は新たなフェーズへと突入している──。

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高島誠(たかしま・まこと)
Mac’s Trainer Room代表。広島商業高校、四国医療専門学校を経て2001年からオリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)でトレーナーを務め、2005年からワシントン・ナショナルズでインターンとして勤務し、2007年に正式契約。現在はNPBトップ選手だけでなく、小中高生や大学生、社会人まで幅広くアスリートのサポートを行っている。
Twitter & Instagram @littlemac0042


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