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¥70,000のシャンパン


 皆さん、こんにちは。シャンメリーって何だよ? 木賃もくちんふくよし(芸名)です。
 はい。一応これでもワタクシ、前職はバー経営者だったりします。(現在無職)
 経営者兼従業員。そして従業員はワタクシ1人。つまり、完全な個人商店主ですね。自分で自分を扱き使うブラックな感じです。
 以前、勤めた事があるプログラマーをデベロッパーとかオシャレに呼んじゃうか、IT土木作業員と呼ぶかの差です。本質的な違いは何もありません。

 ちなみにバーの中でも、ワインに力を入れておりまして、ワインに関してはそれなりの知識があっつもりです。(現場を離れ、たった1年で、見事に知識が抜けててワロタ。)

 さて。
 今日のお話はシャンパン。シャンパーニュ、シャンペンなど表記ぶれがありますが、Champagneが綴りです。キャンペーンがCampaignなので一見ややこしい。
 シャンパンと言うと、F-1で優勝したら振るヤツとか、クリスマスに飲むヤツとか、コルク飛ばすヤツとか、なんかスタイリッシュでクールなイメージがある人も多いのではないでしょうか。

 要は泡が出るキラキラしたアレですね。


 このシャンパン、フランスのシャンパーニュ地方で生産された、厳しい基準をクリアしたモノだけが名乗れる称号で、その他の地方ではその名を冠する事は許されません。
 以前は「ソフトシャンパン」と呼ばれていたシャンメリーが、シャンメリーに改名さ(せら)れたのはそれが理由です。

 要するに松坂牛以外が
 松坂牛を名乗ってんじゃねーぞ!


 って事ですね。
 ちなみに、ブランデーの一種であるコニャックにもグランド・シャンパーニュ、フィーヌ・シャンパーニュなどの表記があり、これらも実はシャンパンなのです。

 ブランデーなのにシャンパン。


 これを簡単に説明すると、


 嘘です。


 嘘なんです。スミマセン。
 説明するとややこしいし長くなるので割愛しますが、シャンパーニュ地方にあやかって付けられた名前です。三菱鉛筆が三菱重工と関係がない感じ。

 業界人にとっては98%がウソだとわかるネタでも、そうでない人が98%引っかかるネタの典型例です。

 知らない専門的な話でウソを吐かれても、わかるワケねーだろ!

 とお思いの方もいるかと思いますが、本日のお話は、そーゆー事態が自分の身に降りかかって来たら? という物語なのです。

 この話にワタクシは登場しません。また、多少の虚実をないまぜにしてあります。いや、そもそも聞いた話だから絶対に嘘が入る。

 時は約30年前。とある、洒落た港町。
 この数年後に空前絶後のワイン・ブームを迎えるのだが、それより前からワイン・バーは存在していた。
 その事件は、そのワイン・バーで起きた。

 「いらっしゃいませ」
 バーテンダーはその客をカウンターに案内した。客はまだ20代であろう男性が1人だけ。時間帯の問題か、まだ他には誰も客がいない。
 ワイン・バーという看板に惹かれてきたのか、それとも、ワイン・バーだと知らずに入ってきたのか。おそらくは後者だ。
 若さもあるのか、知らずに入った後悔や、どう振る舞っていいのかわからない戸惑いがありありと見える。月末で給料が入って「ドンと来い!」な状態だったのかも知れないが、慣れないオーセンティックなスタイルに気圧されてしまったようだ。

 「如何いたしましょう?」
 問うバーテンダー。
 男性客は反射的に、カウンターに置いてあったシャンパンを指差し、

 「コレください」
 と表情を引きつらせた。
 よくわからないから目の前の酒を指差したものの、おそらく何の酒かもわかっていない。
 ただ1つ言えるのは、洗面器のような巨大な銀製の盃型のシャンパン・クーラーに敷き詰められた氷。5本ほど突き刺され、冷やされているワインボトル。
 酒の知識はない。目の前にあったボトルを指差したものの、おそらくコレが安くない事を、彼は本能的に察知した。

 「かしこまりました」
 バーテンは氷の山からシャンパンのボトルを抜き、フルートグラスに黄金の液体をそそぐ。その力強い泡や煌めきを楽しむ余裕も、男性客にはなかったが。
 グラスの縁に口付け、飲んでみる。美味いのかも知れないが、自分がこの場に相応しくないという思いで、さっぱりわからない。とっととこのグラスを飲み干し、この場を去ろう。
 男がそう思った時、店のドアが開いて、もう1人の新たな客が店に入ってきた。

 「いらっしゃいませ」
 バーテンダーが挨拶する。その言葉に変化はないが、微かな抑揚の違いで、それが馴染み客に対するものであると理解できた。

 「あー、ちょっと今日は時間がないんや。悪いんやけど、1杯だけでササっと帰るわ」
 40~50ぐらいだろうか、決して上品とは言えない関西弁の男が隣に座る。身なりはパリッとしており、ジャケットひとつにしても安物でない事は瞬時に理解できた。

 「お。ジャック=セロス開いてんのんか。じゃ、これ貰うわ」
 関西弁の男はそう言って、先ほどと同じシャンパンを注文したのである。
 顔馴染みなのだろう。バーテンダーと談笑している。男は今にもグラスを飲み干してこの場を去りたかったが、タイミングを逸した。そう思っていた時、関西弁の男が、急にグラスの角度を上げ、シャンパンを飲み干して言ったのである。

 「ご馳走っそーさん。この後、予定があるから、悪いけど本当ホンマにコレで帰るわ。会計はいくらナンボや?」
 男が慌ただしく財布を出す。
 するとバーテンが顔色ひとつ変えずに答えた。



 (・∀・) 「70,000円です」


 (;´°Д°) えっ!?


 若い男は耳を疑った。冗談かとも思ったが、関西弁の男は、


 普通に財布から、
 1万円札を7枚
 しっかり数えて
 渡してるんですよ。


 (´°Д°) ぼぼぼボッタクリ?



 いや、でも、馴染みの客が銘柄を理解して注文してたし、普通に支払ってるし、つまりコレって、



 (´°Д°) めちゃくちゃ高い酒を
 注文しちゃったヤツ?



 関西弁の男は、笑顔で「また来るわ」と店を後にした。
 残された男は気が気じゃない。
 財布の中身を確認する。さすがに70000円は入ってない。ボッタクリではないにしても、払えないと警察沙汰になるんだろうか? それとも奥から強面のお兄さんが出てきて痛い目に合うとか?
 カードは使えるんだろうか? いや、おそらく使える。だが、使えるって事は70000円払うって事である。どうにか、少しぐらい安くないか。味もわからないこの1杯に支払う額としては高過ぎる。いや、人生の高い授業料ではあるが。

 生きた心地がしないまま、とうとうグラスが空いてしまった。


 彼は意を決して、会計を申し出た。





 (´-`) 「お会計、1,400円になります」




 (´°Д°) なんでだよおおおおおお!?

 でも助かったああああぁぁああ!?




 彼は腰から砕けそうになりながらも、¥1,400を支払って家路についたという。

 なお、この話の中に出てくるバーテンダーの方が知人である。


 ( ´∀`) 「コレ、絶対に勘違いして

 動揺してるなあ〜、って

 わかったから、面白くて黙ってた」



 (´°Д°)」 鬼かよ。



 んで、今思い出したけど、客は最初からびびってた訳じゃなく、同じシャンパンを2杯飲んだんだったわ。
 計140,000円。そりゃ半泣きになるわな。


 (´・Д・)」 で。勘のいい人なら、¥70,000が「月の支払いをまとめただけ」だと気付いたかも知れませんが、さて、皆様はお気付きになられたでしょうか?
 

 ※ この記事はすべて無料で読めますが、¥70,000に比べたら、この記事への投げ銭が¥100って安い気がしてきましたよね? そんな訳で、よろしくお願いします。
 なお、この先にはイマイチ不評だと思われた食事シリーズが、なんと昨日で起死回生の打ち切り回避達成した事について書かれています。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。