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伏見稲荷山で死にかけた


 皆さん、こんにちは。それは伏見のおいなりさんだ。木賃ふくよし(芸名)です。
 ええ。タイトルがいささか大袈裟に思えるかも知れませんが、けっして大袈裟ではありません。
 状況が状況なので、初めてお読みの方にもわかるように、順を追って説明します。

 ワタクシは、今年の6月末まで自営業でバーを営んでおりましたが、くだんのコロナ騒ぎの影響を受け、やむなく廃業。無職となった訳です。
 はい。そして、折角なので無職生活をしばらく楽しもうと、今まで出来なかった色んな事をやっている状態でした。
 そのひとつが、伏見稲荷山でのダイエットです。
 ワタクシはあまり、健康には興味がありません。ダイエットも同様です。しかし、大好きな睡眠を貪れるはずの無職だと言うのに、肥満のためか、睡眠の質が良くない。
 そもそも、引きこもり体質なので、用事がなければ部屋も出ないタイプである。そこで、日々のネタ探しと快眠のために、毎日、伏見稲荷山に登る事にしたのだ。
 最初は身体を馴らす為もあり、山の1/3までしか登っていなかったが、今は山の2/3まで毎日登っている。
 現在は3ヶ月で大体72日目。
 一応、優先すべき用事がある時や、雨が降った時は休み、と決めている。
 運が良いのか悪いのか、ほとんど雨は降らず、おそらく休んだ日は7日に満たない程度。
 基本は一人で、時には誰かと、無職の特典を活かして、朝昼晩を問わず、通うこと72日。
 ヒーヒー言ってた情けない初期、写真を撮ったり、ねこと戯れたりおもかる石を持ち上げたりイノシシに出くわしたり肝試しをしたり、負荷を増やしたり、不審者扱いされそうになったり、それは色んな出来事がありました。

 しかし、今回ばかりは種類が違いました。

 昨日は、深夜の放送を終えた後、朝から用事が出来るかも知れないので、深夜というか早朝のうちに山登りを済ませてしまうつもりでした。
 放送中に、今から山登りに出掛けると言ったら「しし座流星群」が見られるかも、と教えていただき、俄然やる気になりました。特に流星群に興味がある訳ではないのですが、せっかくなら楽しみは多い方がいい。
 放送を終えたワタクシは、放送中3時間も縮こまっていたので、ベッドに大の字になって、背伸びをする。昨日は少し歩き過ぎた所為か、一瞬、眠気に負けそうになるが、身体を伸ばしまくり、身体中に酸素を送って起き上がる。
 
 今日から負荷は8kgだ。8kgの重しを身に付けて、標高233mまで登る。
 色々考慮して全身に分散させたからだろう。思ったより、荷物は軽い。全身に付けた重しが防寒の役目を果たしているのか、寒さも軽減されている。
 家を出て、伏見稲荷大社に向かう。
 人っ気はほとんどない。火曜の深夜だからだろう。伏見稲荷山で肝試しをしたりして思ったが、怖いのは幽霊などではなく、野生動物と足元だ。ライトなどの準備は万全。
 ワタクシは稲荷大社の鳥居をくぐった。

 行楽シーズンで人手が戻りつつある秋の伏見稲荷大社の昼間を見ている所為か、久々の深夜の散歩は、全く人がいなくて、別の場所に来たみたいだ。
 一人だけ、フード付きジャージ姿の細い影とすれ違ったぐらいか。それは、おそらく女の人なのだろうが、


 一瞬のっぺらぼうに見えて、
 ちょっとびびった


 が、おそらくは薄いピンクの大きめのマスクをしていたのだろう。フードを被っていたのでちゃんと見えなかったが、割と怖かった。
 途中、景色が普段より緑がかって見えて、写真を撮る。いや、オレンジ色の光は普通だと思うのだが、昼白色のライトが妙に緑がかって見えるのだ。写真も緑色に見える。

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 なんだ? 眼の病気か? 白内障は瞳が白くなるんだよな? 視界が白くなるんじゃないよな? 緑内障って、緑って書くけど、視界が緑がかったりしないよな? え? どうだっけ? でも最近、寝起きとかに視界が平坦に見える瞬間とかあるし、ちょっとヤバい?

 しかし、あまり健康に興味がないワタクシは、さして気にも留めず、千本鳥居を抜け、調子に乗って筋トレ的におもかる石まで持ち上げちゃう。
 普段から腕に重しを付けている為か、おもかる石はやけに軽かった。日々の運動の成果が出ているのだろうか。

 イノシシとの遭遇ポイントも無事に抜け、熊鷹社を抜け、三つ辻を抜ける。誰もいない所為か、とても歩きやすい。重りを少し増やしたというのに、やけに調子がいい。
 四つ辻まで到達して夜空を見上げるが、生憎の曇り空で星はハッキリしていない。見おろすと街の灯りは綺麗だが、慣れたものだ。写真を撮ってツイッターに上げる。慣れたのも、暗がりが多いのもあって今日は全然写真を撮っていない。
 そう言えば、今日は人に会っていないだけでなく、猫にも会っていないのは残念だ。

 さほど疲れている訳ではないが、四つ辻のベンチで休憩していると、遠くから話し声が聞こえる。なんだ。ちゃんと人がいるじゃないか。
 ワタクシは、この人たちが通り過ぎたら休憩を終えようと決め、彼らの通過を待った。

 四人。
 若い男性が四人。大学生ぐらいだろうか。全員、比較的細身で、スポーツウェア的な格好をしている。割とシャレたウェアに細身だから、ペルソナとか呪術廻戦に出てきそうな。
 大学の運動クラブか? テニサーとかそんなんか?
 彼らが街灯の下を進んでくる。その姿を見た時、全身の体毛が逆立った。

 全員、仮面を着けていたのだ。


 ワタクシは衝撃で身体が固まる。
 4人のうち、3人は土産物屋で売っていそうな狐の面。2人は白、1人は黒。
 もう1人はひょっとこの面
だ。

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 図解するとこんな感じ。色は割と原色とか蛍光色なのに、何故か全員仮面。

 そして、何語かわからない言語で淡々と話しながら歩いてくる。何語だ? 英語じゃない。中国語か韓国語かと思ったが、口の中で篭る感じなのでフランス語? タイやベトナム? いや、強い訛りの日本語? ただでさえ聴き取れないのに、面が邪魔をして余計に聴き取れない。
 仮面の4人の正体がわからない恐怖で身体が竦む。ベンチに座ったことを後悔する。歩いてさえいれば逃げていたと思う。
 何だか知らんが、とにかく、


 ヤベー奴に会っちまった


 って気持ちが身体中を満たす。
 びびって身体が動かないが、それが幸いした。彼らはワタクシに対して無反応だったのだ。
 4人は何かを話しながら、ワタクシに気付く事なく、四つ辻を通り過ぎて行ったのだ。いや、気付いたが意に介さなかったのか、気が付かなかったのかはわからない。
 助かった。4人が危険な人物なのかどうかは知らないが、思考も肉体も危険信号を出している。ヤバい。
 また、まずい事に、彼らが通り過ぎたのはいいが、行き先は下山道。三つ辻までは一本道なので、彼らをやり過ごさないと、ワタクシが下山できないのだ。
 どうする? 三つ辻までの下山道は一本しかない。田中社(権太夫)からは下山できない(実際、できない事はないだろうがガイドには「できない」と書かれている)
 つまり、あれを避けて下山する道をワタクシは知らない。
 いや、ひとつある。
 まだ一度も通っていないが、頂上まで登って、山の反対側、白菊の滝側から下山できる道があるはず
だ。以前、白菊の滝の方面から、大岩大神まで登った事がある。
 その道なら、あいつらと遭遇せずに山を降りられる筈だ。ざっと見た限り、かなりの山道だし、夜中の山道は危険だ。道がある事も知ってはいるが、その道の入口が何処かも知らない。初の山道が夜と言うのは間違いなく危険だ。
 危険だけど、あいつらのそばを通るよりはまだマシだ
と思ったのだ。いや、ライトなんかの装備はある。
 それでも道が見つからなかったらどうしよう? いや、スマホからマップも見られるし、道が見つからなくても、頂上まで上がる間にあいつらがいなくなっているかも知れない。
 ワタクシは意を決して頂上を目指すことにした。
 足取りが重く感じられる。重しを装備してきた事を後悔する。暗い山道がとてつもなく心細く感じる。だが、夜の伏見稲荷など、もう何度も足を運んでいる。恐れるな。恐怖が恐怖を呼ぶ。足取りは重いが、体力はまだまだある。行ける。

 そうして、三ノ峰、二ノ峰と登っていく。大丈夫だ。行ける。その途中、頂上付近のコンビニの前を通り、その灯りに安心する。
 こんな時間なので客も店員も姿は見えないが、明るい場所があるだけで心が落ち着くのを感じた。
 しかし、コンビニに用事はない。ワタクシは、そのままコンビニを通り過ぎて、頂上を目指す。
 だが、もう少しで頂上、という所で、細い山道を塞ぐようにして、誰かが待ち構えている。
 登山客であってくれ。
そう思いながら階段を上る。

 緑色の街灯に照らされて、見えたそいつは、


 真っ赤なジャージに、
 ひょっとこのような
 仮面を身に付けていたのだ。



 ああ。これは完全にやばい奴だ。
 ワタクシは獣に出会った時のように、体をそいつに向けたまま、階段を下がりだす。

 背中側の見えない階段を降りる恐怖は、目の前のそいつの恐怖に勝てなかったのだ。そいつは動かない。まだこっちの存在に気づいてないのか。

 いや、そいつがゆっくりと階段を一歩降りる。とてもゆっくりした動き。確実にこっちを意識している。
 駄目だ。身体中が、こいつは無理だと信号を出し続けている。
 ワタクシは、ある程度までそいつとの距離を取ると、そのまま踵を返し、走り出す。
 せめて、さっきのコンビニまで逃げ込めば、、、


 いや、待て。


 何の違和感もなかったが、なんで山頂付近にコンビニがあるんだ? 伏見稲荷山にコンビニなんてないぞ?

 走ろうとも走ろうともコンビニは見えて来ない。自分の足がもつれるように重い。振り返ってアイツとの距離を見るが、少しも離れてない。気配が凄い。アイツはゆっくりと歩いているだけなのに、間隔を離せないのだ。
 ワタクシは必死で走った。三ノ峰、四つ辻と走り続け、三つ辻の分岐点に差し掛かる。4人組がどっちを進んだのかは知らない。ワタクシは迷わず直進の裏参道を選ぶ。こちらの方が麓までの距離は近い。
 振り返ってる余裕はない。いつの間にか気配を感じなくなっている気もするが、恐怖心で、よくわからなくなっている。潰れそうな肺を無理矢理押さえ込み、もがくように走った。道は覚えてない。とにかく走った。走りまくった。
 稲荷大社を抜けても、まだ走ってた。

 目指したのは、家ではなく、コンビニだった。とにかく、誰かに会わないとアイツが追いかけて来て、殺されるような気がしていたのだ。
 一番近所のコンビニは深夜から朝まで営業していない。二番目は反対側の道だ。三番目も深夜は営業していない。四番目のコンビニを目指す。
 その途中に踏切がある。こんな時間なのに踏切が降りていて、鐘がカンカンとうるさく鳴り響く。
 どれだけ怖くても、人間の心理とは面白いもので、踏切は渡ってはいけない、と刷り込まれているのか、ワタクシの足は止まった。
 肺が潰れそうに苦しい。夜の冷たい空気が肺を刺す。足が重い。後ろを振り向く。アイツの姿は見えない。だが追いかけて来ていないとは限らない。気配はすぐ後ろまで来ているような気がするのだ。
 ようやく、列車が来る。
 貨物なのか新快速なのか、列車は速度を落とす気配がない。
早く通り過ぎてくれ。そうすればコンビニまであと一息なのだ。あと少し。無我夢中で走ったけど、一度足を止めてから、足が鉛のように重い。
 もう一度、後ろを振り返って、後ろを確認する。大丈夫だ。まだ、アイツの姿はない。
 ワタクシは線路の方に向き直る。


 すると、ワタクシは何故か、踏切の内側にいた。


 眼前に、列車が来ている。


 ああ。走ってくる列車を正面から見ると、こんな感じなのか。


 列車のライトが眩しい。こんな感じなんだな。

 そう思った時、ワタクシの身体が列車に撥ねられ、


 ワタクシは目を覚ました。


 身体中が重い。
 そうか。夢だったのか。酷い悪夢で、とてつもなくリアルだった。


 ワタクシはまるで走り回ったかのように恐ろしく重たい身体を起こし、スマホを確認する。朝の10時。ひょっとすると、放送の後、寝転がった瞬間に寝てしまったのか。

 ワタクシは頭のもやを払うように、いくつかのアプリを開く。そして、ツイッターを開いて愕然とする。

 自分自身が身に覚えのない、謎の呟きをしている。







 そして、どうやらワタクシは夜の伏見稲荷に登っているのだ。




 混乱するワタクシは、スマホの写真フォルダを確認する。
 そこには、夢の中でさえ撮った記憶のない写真が何枚も。


 そして、動画がひとつ。

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‰こはしぜぶそうんはなの


 ※ この記事はすべて無料で読めますが、賽銭(¥100)をするとジャージ男に呪われなくて済むらしいです。なお、この先には特に何も書かれてません。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。