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懲役「空母いぶき」


 皆さん、こんにちは。噂ほどじゃないのが、噂以上。木賃ふくよし(芸名)です。
 さて。完全に時期を逸していますが、ようやく、噂の、


 劇場映画「空母いぶき」


 を観ました。


 以下、感想。


 以上、感想終わり。



 で終わりたくなるぐらい「無」の映画でした。
 公開前や公開中は「かわぐちかいじの原作が台無し」「原作を無視するぐらいならオリジナルでやればいいのに」「中国に忖度した」「左寄りの人間に映画を撮らせるな」と散々な言われようでしたが、知人に散々クソ映画だと煽られたので、別の知人を巻き添えに鑑賞開始。

 ハッキリ言うと、楽しめる映画ではありませんでした。
 ワタクシは割とクソ映画ハンターなので、つまらない映画への耐性は強い。強いと言うより、ダメ映画はダメ映画として楽しむタイプである。

 ほんの時折、そんなワタクシでさえド許せぬ映画もあるが、1,000本以上は観てきた中で、怒り心頭に達したような映画は20本程度ではないだろうか。

 「空母いぶき」は、そんなド許せぬ映画ではない。また、面白い映画でもない。
 だが、このつまらない映画の中には、「よくぞこんな酷い映画を撮ったよなwwwwwww」と言う笑いが隠されていないのだ。
 その無機質、それはクソ映画になれなかった「空母いぶき」である。

 誰かが「懲役2時間14分」と言ったが、端的に言うとこれが最も短く、そして的確に「空母いぶき」という映画を表した言葉だろうか。

 安いCGは迫力がなく、YouTubeで軍事系の映画を見ている方が楽しめる。アクション映画として観ても、スリルや興奮、爽快感はない。誰かがプレイしている戦闘機ゲームの実況プレイ動画を見ている方が万倍楽しめる。

 映像がとにかく駄目だ。これはまあ、戦艦や潜水艦映画、特に邦画にありがちな話なので仕方ないかも知れない。だがとにかく、艦橋しか映らないのだ。まあ、スタートレックからの伝統ではあるが。
 それも、人物を斜め上から顔だけ撮る、というアングルがとにかく多い。(戦闘機の場合はパイロットの顔を正面どアップ) 無論、セットを作ると莫大な金が掛かるし、この辺は致し方ないと言える。
 しかし、これの連続を回避するために取られた手法が、この映画だと、なお酷いのだ。まず、ちっとも回避できてないのがひとつ。
 そして、艦以外の場所に場面を移すのだが、それがことごとく無意味なのだ。

 まず、ジャーナリスト編。もうこの話に全く現実味がない。機密だらけの艦内を自由に動けるジャーナリストがいる時点で半笑いになる。しかも、日本への影響が一体どれほどになるのか想像もつかない、とんでもない事をしでかす。しでかすが、物語には大きく関与しない。

 で。日本のマスコミ編。これも全くいらない。ジャーナリスト編より価値がない。価値がなさすぎてこの文章も続かないぐらいだ。

 極め付けはコンビニ編。これは全面カットしても何も問題ない。問題ないと言うより、カットした方がいい。物語には一切関与しないし、冗長だし、何より懲役期間が短くなる。

 そして、空母いぶきの艦長と双璧をなす、映画のもう1人の主役、内閣総理大臣の政治パートだ。
 例えば、映画「空母いぶき」の内容が10とする。
 空母いぶきパートが3なら、政治パートが2と言ったところか。
 ジャーナリスト編が0.7で、マスコミ編が0.3の、合わせて1もあればいいところだろう。
 なお、コンビニ編がゼロだ。

 ん? 合わせて6しかない? 残りの4は何なんだ?


 HAHAHA.


 「空母いぶき」に
 内容が10もあるなんて
 思わない方がいいぞ?



 とにかく、この政治パートが酷い。なんか、慌ただしく仕事をしてるような空気を出してるだけで、何かをしてるシーンがないのだ。
 決断を迫られてるような雰囲気だが、決断らしい決断をするシーンはほとんどない。
 「増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和」で、誰も麻雀のルールを知らない状態で麻雀を打つ話があるけど、アレを見ている感じだ。


 ギャグマンガ日和との大きな違いは、それを見てもほとんど笑えないと言うところだろうか。「今すぐ増援を送れ!」とか言い出した時は流石に笑ったけど。

 まあ、ギャグ漫画かと言うぐらい。とにかく登場人物が、だいたいアタマ悪い。

 作中に、損得勘定のできる人物がいないのだ。
 よく、作家は本人以上に頭の良いキャラクタを生み出すことは出来ない、と言うが、そんな感じ。登場人物も脚本も、アタマが悪いのである。
 政治的判断、戦況的判断、法律的判断、個人的な感情、どれもが行き当たりばったりで、誰にも感情移入できない。
 言い方は悪いが、合気道の達人が「人間なんて、手首さえ掴むことができれば、あとは活かすも殺すも自由にできる」と言ったとしよう。そこには恐ろしいほどの研鑽と修行、そして、達人であれ、手首に触れることが叶わなければ勝てない。そんな多くの含蓄がある。
 だが、その含蓄を読み取れず、言葉の表層だけをすくい取り、「人間なんて、手首さえ掴めば生殺与奪は自由ですよ」と、ど素人が言っているような薄っぺらさなのだ。

 「戦争とはどう言う状態なのか」「戦争と戦闘の違いは何か」「武力行使とは何か」「専守防衛とは何か」「自衛権とは何か」「平和という状態は何なのか」と言うようなテーマを矢継ぎ早に繰り出してくるが、

 そこにあるのは、誰か(それこそ、かわぐちかいじとか)の言ったカッコイイ言葉の表層だけを真似た、中身のないハリボテだけなのである。
 そして、確固たる答えがなく、出せるはずもなく、ぼんやりとした「愛」やら「平和」を持ち出して「その答えは視聴者が自分で考えて欲しい(キリッ)」という、鋭い切り口をオブラートで包んだなどではなく、映画そのものがオブラートなのだ。

 劇中で「ハープーン」という対艦ミサイルを使用するか否かで揉めるシーンがある。
 あるが、観ているこっちは「ワッツハップン⁉︎(What's Happen')」の状態である。悪い意味で。

 劇中では、舵取りを一歩間違えば、世界大戦へと突入しかねない状況である。
 しかし、政治的にも戦局的にも、迫力も緊張感もない。
 ひとつの壁を乗り越えるたびに、「だが、なおも状況は緊迫している」と言うが、ワタクシの気持ちは晴れの日の海のように穏やかである。何なら琵琶湖よりも穏やかである。

 それほどに何もない映画。

 それが「空母いぶき」なのである。


 ハッキリ言うが、噂ほどつまらない映画ではない。思想が左寄りだとか色々言われてるが、そんなイデオロギーもない。腹も立たないし、面白くもない。ただ、2時間14分を無為に過ごす映画だ。

 正直、ジャーナリスト編とマスコミ編をなくし、政治パートも削れば、90分で済む。
 コンビニ編? 論外だ。
 映画としての体裁を整えるため、87分ぐらいに絞って、戦闘パートのCGの質だけを上げて迫力さえ出せてれば、もう少し評価も違った気がする。
 制作費はもちろん、スポンサーや配役などに対し、色々な制約はあったのかも知れない。あるいは製作陣さえも被害者なのかも知れない。
 劇中では、「二度と戦争を繰り返さない」ことが強調されるが、ワタクシとしては、

 二度とこんな無為な映画が制作されないために、この長いレビューを書くものである。


 無駄というより、
 無為だから、
 本当に観なくていいよ。




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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。