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夢の中の話

混み合う駅の中。
エスカレーターは嫌い。
階段を軽快に降り、一直線に出口へと向かう。

駅の周りには駅ビルや商業施設が立ち並ぶ。
デッキで繋がっているところもある。

駅を出てぐるっと回り込み、信号を渡る。
駅ビルの中を通ってきた方が早かったかな。
そう思いながらも、鬱陶しい人混みを避けながら人の吐いた呼気を吸って歩くのが面倒臭いから外を歩く。

派手なショーウィンドウのあるデパートを通過し、いよいよ駅から続くデッキも階段で地上へと繋がり終わったところで私の鼓動は高鳴り始めた。

「ここ、知ってる。懐かしい。」

ワクワクする。
高鳴る鼓動と共に早足になり、やがて小走りになっていた。
1本の道から一定の間隔で小道が何本もあり、その1本を曲がる。

「あそこだ!」

その場所は左手3件目にあった。
さほど大きくもない建物で、1階はガレージ。
奥の階段を登り、ガラスの貼ってある扉には“OPEN“の丸いプレートが下がる。

「OPENじゃない時なんてあったっけ笑」

そんなことを思いながらその扉を開ける。
20畳くらいの部屋。
窓際には大きな赤いソファとローテーブルが1つ。
大きい鏡が壁に貼ってある。
一角には上半分ガラス張りの喫煙室。
その隣にカウンター。

『おぅ!久しぶりだな。元気?』

カウンターの中から声を掛けてきたのは、金髪で丸々と太って耳から顔からピアスだらけの兄ちゃん。
兄ちゃんといっても本物の兄ではなく、この場所に来るようになって仲良くなった人だ。
いつでも“OPEN“な割に、居たりいなかったりするこの場所のオーナー。

『今日は泊まるのか?』
「うん」

寝泊まりも何も自由。
何日泊まろうがどう過ごそうがお金を取られることもない。
兄ちゃんは夜はここで寝るのでなく、自分の家に帰る。

『今から出掛けてくる。ここよろしくな』

そう言って兄ちゃんはいつも通りふらっと出掛けていった。
私は肩にかけていた小さいショルダーバッグをローテーブルに置き、ソファにゴロンと横になった。
置いてある大きめな膝掛けをお腹に掛け、携帯を見る。

「まだ9:43かぁ」

ボソッと呟いて窓の外を眺めたり、携帯をいじったりして過ごす。
始発の電車に乗って遥々と来たものだから、眠くなっていた。
部屋の中を見渡すと、喫煙室の中に1人男の人がいた。
おっ!と飛び起きて喫煙室へ向かう。

「こんにちは〜」

ドアを開けて中に入る。
おぅっと軽く挨拶を返してくれる。
勿論ながら知らない人だ。
人2人分離れたところに座り、煙草に火をつける。
私は置いてあった新聞を手に取って読み始めた。

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