野人の見る夢Part2

覚悟を決めたアヴェンジ。果たせなかった事、人生唯一の後悔、それを果たすときがやってきた。例え仮初の夢の中だとしても、それが作られた舞台の上の出来事だとしても。

「覚悟は決まったようですねー、さぁ皆さん!邪魔をする人もまとめてやってしまって構いません!かかりなさい!」

第一波はテーザー銃、電撃の鋭い痛みで対象を鎮圧する武器、一発目、アヴェンジは痛みに怯む。二発目、アヴェンジは少し痛そうに顔をしかめ。三発目、【やりやがったな】とばかりに相手を睨みつける。四発目、蚊に刺されたようなダメージに平然とした感じで部隊に相対する。五発目以降はもはや全くダメージが感じられない。彼の生まれ持った能力【反抗の獣】により同じ攻撃を受ける度に25%ずつダメージを軽減していき五発目以降はダメージを受けなくなる能力によりテーザー銃を無効化しながら向かっていく。敵の武装をコピーし空中に大量のテーザー銃を生成し敵軍に一斉掃射する。

「第一波はこれで終いか、まだいるな!かかってこい!」

第二波はショットガン部隊、アヴェンジにとっては一番対応しやすい銃である。テーザー銃の痛みはまだ残り少しふらつく足を気合と決意と覚悟で安定させながら進撃するアヴェンジ。ショットガンが放たれる。散弾一発一発に対して耐性が発生していくので一瞬にして耐性が100%になる。前方180度からの一斉掃射にも関わらずほぼ無傷のアヴェンジ。

「嘘…!ミンチより酷い状態になるはずなのに!どうして効かないんですか!?」

「知らない、だが俺はこの力のお陰で生きてこれた。俺はこういう人間だ!」

今度は大量のショットガンを生成し敵軍を薙ぎ払う。最後に残った第三波はロケットランチャー部隊だが半壊している。それでもまるで意思のない兵隊たちはアヴェンジにロケットを発射する。アヴェンジの左腕が吹き飛ぶ、体中が焼け焦げる。しかし彼の進撃は止まらない。空中に無数のロケットランチャーを生成したアヴェンジはそのまま右手を振り下ろすと最後の軍団を掃滅した。

「残るは鳴子、お前だけだな」

「そう…みたいですねー、思っていたより1000倍強かったです。正直ナメてました、ごめんなさい」

「お前を捕まえれば終わりなんだな、俺はやっと守りきれるんだな」

「ええ、そうです。しかしそう簡単には行きませんよ?」

ボロボロの体を気力で支えながら立つアヴェンジ、万全の状態で立っている鳴子。同等の力を持っているとするのならどちらが有利なのかは明白。

「御託はいい、かかってこい。終わらせる」

「もう少し貴方が弱るのを待ちたかったんですが…今にも飛びかかってきそうですねー、では行きますよー」

美しい黒髪が伸びる、伸びてアヴェンジを包囲し一斉に、完全に同時にアヴェンジに突き刺さる。能力を考えれば最適解、一撃で仕留める。この作戦ならばアヴェンジを倒せるだろう。

『こういう状況でなければ』

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

髪による攻撃を筋肉だけで防ぎ切る。そもそも鳴子のパワーではアヴェンジの筋力を貫くことはできなかったのか。否、普段のアヴェンジの筋肉ならば貫くことはできただろう。しかし、今のアヴェンジは魂が燃えている。常に火事場の馬鹿力が出ている状態だ。

「えっ、ちょっ…!」

物凄い速度で鳴子に飛びかかるアヴェンジ。250cm200kgの巨体が身長130cmも無い少女に、都市部であれば即通報だろうがここはアヴェンジの夢の中、鳴子が手を加えた夢の中、止める者はいない。鳴子を殴る、殴る、殴る。一撃で岩盤を砕くパンチをラッシュで叩き込む。しかし鳴子の体は崩れない。呻き声を上げながらも【この世界のルール】によって不滅になっている鳴子に死は許されない。

「あ、あの!ぶぎゃっ!私を捕まえるだけでおぶっれ良いんですよ!ぐえぁっ!」

その言葉を聞きピタリと手を止めるアヴェンジ。

「そうだった…倒さなければいけないんだと思っていた」

鳴子の頭を鷲掴みにして持ち上げる

「この捕まえ方は斬新ですねぇ…」

ボコボコの鳴子は飄々とした感じで言う。

アヴェンジは振り返り恩人の顔を見る。

「そうだ、これで本当にお別れだ。だが、これでお前は先に進めるだろう。私が足を引っ張ることはもう無くなるだろう。」

「そう…だよな、でも…俺は…」

「私がお前を拾い育てたのは、色々なことを教えたのはお前を人間にするためだ!人類から人間にするためだ!これでようやく私の願いが叶う!アヴェンジ!私の最初で最後のお願いだ。この夢を終わらせて、先に進んでくれ!人間になってくれ!」

「………分かった、アンタにそう言われたら断れない。ありがとう、そしてさようなら。俺のただ一人の恩人、そして親父」

「私を父親と呼んでくれるのか、望外の喜びだ…。さあ、決意が鈍る前に!」

「ああ!『鳴子、つかまえた!』」

世界が崩れていく、ヒビが入りガラガラと音を立てて。

「ありがとう、アヴェンジ。これから辛いこともあるだろう。しかし、それ以上に広い世界はお前に楽しさを与えてくれる!人生を楽しめ!行ってらっしゃい!」

「俺の方こそありがとう!貴方の願いを俺は決して忘れない!人生を楽しんで、楽しんで土産話をたっくさん持ってまた会いに来るよ!行ってきます!」

夢が醒め、アヴェンジが目を覚ます。目の前には鳴子が立っていた、無傷で。

「遊んでくれてありがとうございました!楽しかったです!」

彼は涙をボロボロと流しながら座り込み頭の位置を鳴子に合わせる。

「俺の方こそありがとう、本当にありがとう…!夢で夢を叶えてくれて…ありがとう!」

「あらら、イタズラのつもりが喜ばれちゃいましたね!でも喜んでいただけたのなら結構なことです!」

「何でもいい、これで俺は先に進める。もうアイツを冒涜しないで済む」

「褒められたり感謝されたりするのは慣れませんねー、照れるので私はこれで失礼します。また機会があれば遊んでくださいなー」

顔を真っ赤にしながら空間に溶けていく鳴子。残されたアヴェンジは蹲りしばらく泣き続けた後、街に向かって歩いて行った…。恩人の願いを叶えるために、人間になるために…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?