野人の就職活動

アヴェンジ・ヤードッグ、彼はつい最近まで野生の人類であったがとある夢魔、玲符視 鳴子(れふし なるこ)によって長年のトラウマを解消し社会復帰を目指すようになった。

しかし街に出てみると謎の流行り病によって経済がガタガタになっておりとても就職活動どころではない様子だった。
トラウマにより封じられていた言語能力が復活し読み書きも会話もきちんとできるようになったアヴェンジだがこれでは社会人になれないと困り果てていた。

「おはよう!私の友達、何か困りごとですか?」

鳴子がどこからとも無くやって来る。

「鳴子か、就職したいんだけど俺の国は今だめになっちまってるみたいなんだ」

困り顔で答えるアヴェンジにふむふむといった様子で反応する鳴子。

「この国が駄目なら私の国に来ますか?ここよりマシですよ」

日本人形のような姿形をしている鳴子はバーチャル日本国産まれの夢魔であり2000年近くその国を拠点に生活してきた。

「言葉、わからないかもしれないけど大丈夫か?」

「私が通訳しますよ、いやあ…働くのなんて1900年ぶりですねえ」

「お前凄い年上だったんだな」

「まあ、人間と比べたらそうなりますかねぇ」

「それで、どうやって行くんだ?飛行機も船も止まっちまってるぞ」

「ああ、手を出してください」

言われるがまま鳴子に合わせて屈んで手を差し出すアヴェンジ。その手をパシッとつかむと鳴子は

「さぁ!夢の世界へ行きましょう!バーチャル日本人の夢の世界へ!」

そう、彼女の移動方法は常にこれなのである。
夢の中に入って移動。時間も場所も関係なく。ただし今回はアヴェンジを共にしているので時間は合わせて。誰かの夢に入り込みすぐに出る。それだけでバーチャル日本国への入国が完了した。

「ようこそ!バーチャル日本国へ!良いところですよ!私みたいなのが産まれるくらいには!」

「お、おう…!何か頭がぐるぐるするぞ…」

夢魔ではない人間のアヴェンジにとって夢を使った移動はかなり応えたようだったがそこはタフガイ、目的を果たすために倒れない。

「ではまず入管に行きましょう!このままでは違法入国ですからね!」

と、なんやかんやして就労ビザを手に入れたアヴェンジ。神や妖怪が当たり前に存在するこの世界では事後承諾など珍しいことではないのでスムーズに話は進んだ。また、アヴェンジが英語圏の人間だったのも良かった。通訳なしで話をすすめることができたからだ。

「さあ、後は就職するだけです!何をしますか?」

「俺、やっぱり山とか森とかと人間を繋ぎたいんだ。だからターザンになりたい、バーチャル日本国のターザンに」

「山も森もたくさんありますよ!しかしターザンですか…そんな会社聞いたことありませんねえ…」

うむむ、と唸る鳴子。
数分後…

「ええ、やはりこの手しかないですね!」

「鳴子!何か思いついたのか?」

「はい、無いものは作れば良いんです!貴方が社長になるんですよ!」

「いきなり社長!?俺言葉は分かるけどそれ以外はよく分からないぞ…」

「その辺りは私がフォローします。これでも毎年365人以上の夢に入っているので知識はたくさんあるんですよ?」

野人と夢魔の就職活動は終わり、会社設立を始めた。資本金は鳴子が用意するまでもなくアヴェンジの口座に恩人の遺産がそのまま入っていたのでそれを資金にすることにした。
額にして8000億円。中小企業としては十分過ぎる額だろう。

会社設立はできた。広告も撒いた。しかし本当に大変なのはここからであった…!

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