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血を誇れる爺ちゃんと人の気も知らない親友

僕の身内二人がもうそろそろ近そうだ。

そんな二人が失う一つ一つの事

一人は爺ちゃん

ウチは代々漁師の家系で爺ちゃんもそうだ。
コロナが流行り始めてから3年程会えなくなってしまっていたがコロナも落ち着いて来たこのタイミングで今年、会いに行った。
爺ちゃんは昨年から癌を患っていたのもあり日に日に元気がなくなっているのは知っていた。
だから亡くなる前に、まだ元気なうちに会いに行くことにした。
3年前の時点では九十近いのにまだまだ現役の漁師だった爺ちゃんはもう船を売り払っていた。食事が喉を通らなくなり痩せ細っていた。そんな爺ちゃんが皆んなに見つからないところで魚を捌いていた。
それに気がついたのは集まっていた親戚の中で僕を含めて3人。
気が付いた時に兄と僕は無理をしないでくれ。と止めに入ろうとしたが最初から見ていた叔父が
「止めるな、最後だ、最後だから絶対に止めるな、黙って見てろ。」
何度も嘔吐きながら、何度も倒れそうになりながら必死に魚を捌く爺ちゃんの手は最後まで力強かった。だけどこれが最後。
爺ちゃんの生き様を見た、この一つを失う覚悟を見た。

そしてもう一人

小2の頃から16年間一緒にいる「もも」
この呼び方は好きじゃないけれどわからないだろうから。うちで飼っている犬です。

同じく癌だ。
人間との寿命の差からか、弱っていくまでが恐ろしい程早い。

もう長く一緒にいるのにね。

僕が親と喧嘩をした時、間に割って入ってくれる。僕が泣きそうな時はいつも何かを察して横に座ってくれる。いつも悩みを聞いてくれる。いつも僕には悩みを打ち明けてくる。僕が眠たい時に嫌がらせの様にリードを加えてニヤニヤしながらこっちを見てくる。

憎たらしくもある親友

そんなこいつも一つ、また一つ。

テーブルに飛び乗って僕が食べているご飯を横取りすることもなくなった。

僕のスイートポテトを盗んで布団に隠す事もなくなった。

絶対に気付かれ無い様にと音を消してそーっと家のドアを開くと満面の笑みで玄関にお座りしている事も無くなった。

床に広げて読んでいるジャンプの上を占領してくることも無くなった。

僕のケータイを隠すことも無くなった。

旅行の準備で荷物を詰め込んでる最中の僕のキャリーバッグに入ってくる事も無くなった。

家で僕とかくれんぼする事も無くなった。

そうして無くなり、失くなって行く。

僕は地獄も天国も無いと思っている。
無だと思っている。それで良いとすら思っていた。

だけどこいつにだけはあって欲しいと願ってしまう。



そんな一つ一つを失っていく二人が最後に残す一つを受けとめられるように。

この二人が一つ失う度に僕が一つ与えられるように。

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