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18話 責任3

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 アカシックのガイドブックによれば、英霊の墳墓はヤルリンゴから西方向に位置する。

 ただし、まっすぐ進めない。俺達がいる地域はディスパルティゴ山脈によって隔絶しているので、他の地域へ行くには海に出る必要がある。

 そこで俺たちはヤルリンゴから南西にあるトリハヴェーノという港町へ向かう。そこでは他の地域へ向かうための定期船が出ている。

 ヤルリンゴからトリハヴェーノはそれなりに距離があり、俺とトラベラーは途中で野営する必要があった。

「調月さん、火をお願いします」

「分かった」

 俺は集めた薪にブラスターガンを最小出力で撃つ。まさか最初の活躍の場がライター代わりとは……マテリアさんにちょっと申し訳ない。

 焚き火を起こすと、トラベラーがテキパキと夕食の準備をする。

 俺も手伝おうかと申し出たが、「結構です」と断られた。まあ、俺は料理したことがないからかえって邪魔になるだろう。

「出来ましたよ」

 トラベラーの声に俺は考え事を中断する。

 彼女が作ってくれたのは干し肉で出汁を取ったスープだった。

「美味い」

「それはどうも」

 スープには野菜と一緒にチーズも入っていて食べ応えがある。

 出汁を取るのに使った干し肉も具としてそのまま入っている。そのままでは固くてしょっぱいものだが、茹でたおかげで食べやすい。

 トラベラーの恋人もこんな風に彼女の手料理を食べていたのだろうか。

 どんな男なのだろうかとちょっと気になるが、人様をあれこれ詮索するつもりはない。というかトラベラーの性格を考えると絶対教えてくれないし、聞いたら軽蔑の眼差しを向けてきそうだ。

 食事を終えたらそのまま就寝だ。トラベラーが設置した検知器のおかげで寝ずの番が不要なのはありがたい。

 とはいえ野盗や魔物に襲撃される可能性がなくなる訳ではない。そのせいで俺は無意識のうちに緊張していたらしく、眠りが浅くなって、途中で目が覚めてしまう。

「任務は長くなりそうですが、今はまだ問題はありません」

 トラベラーが万能ツールで誰かと話をしているようだ。

「ふふふ、大丈夫ですよ。伊達に3年も並行世界調査員はやっていません」

 トラベラーは俺と接している時とはまるで別人のように穏和な様子だった。

「待っててくださいね、鋼治さん。必ずアカシックの協力を取り付けてきますから」

 多分、鋼治というのがトラベラーの恋人なんだろう。

 他人のプライバシーに立ち入るわけにはいかないので、俺はそのまま目を閉じて再び眠るよう努めた。

「現地文明は……まず言語が……から移住した可能性……」

 それから再び俺は眠りにつく。

 数時間後、夜明けとともに目覚めた俺たちは、身支度を整えて出発した。

 そうして翌日の午後にトリハヴェーノについた

「ここから船でセプハヴェーノって街まで西へ3日か。までまだ長いな」

「このまま問題なく進めば、あと2週間で英霊の墳墓に到着します」

「懐がだいぶ温まっているから、定期船は一等室を取ろう」

「ちゃんと別々の部屋にしてくださいよ」

「わかってるって」

 だがいざ切符の販売窓口に行くと、一等室は取れなかった。

「誠に申し訳有りません。次の便は特別なお客様がご乗船になられるため、一等室は全て貸し切りとなっております」

「仕方ない、じゃあ二等室を二つたのむ」

「重ねて申し訳有りません。一等室が貸し切りになった影響で、二等室にも空きが少なく……」

 結局、俺とトラベラーは二等室を相部屋することになった。

 そのことを伝えると、彼女は俺をジト目で見る。

「……」

「し、仕方ないだろう」

 こうして定期船が出発した。

 船は帆船ではなくて動力を持っていた。

 この異世界は中世ファンタジー風だが、迷宮から出土するマジックアイテムのおかげで意外と文明レベルは高い。

 食事の時間まで暇だったので、俺は甲板から夕日をぼんやりと眺めていた。

「トラベラーは一緒じゃないのね?」

 不意に声をかけてきた声に振り向くと、ベンチに座って新聞を読む、貴族風の格好をした女がいた。

「なんだ、アカシックか。トラベラーだって、恋人でもない男と四六時中一緒にはいたくないだろ」

「それもそうね」

「それにしてもこういう状況でも、アカシックは俺の冒険を見てるんだな。ただ移動しているだけなのに楽しいのか?」

「考知郎君はだいぶ状況に慣れてきたようね。いい、これは“冒険”なのよ。安全が確約された“旅行”じゃないわ。それは忘れないでちょうだい」

 アカシックはベンチに読んでいた新聞を残して立ち去る。

 旅行ではなく冒険。いったいどう言う意味だろうか?

 そのとき、アカシックが置いていった新聞に目がつく。

 一面記事の見出しには、『王室専用船が沈没』と書いてあった。

 記事によればディスパルティゴ山脈の内陸部地域を第一王女が視察しにきていて、彼女が王都からやってくるのに使った専用船が何者かにの攻撃で沈没したという。

 王族が使う船を沈没させるなんて、俺の世界だったら間違いなくテロ行為だ。

 きっとアカシックはこの世界の”危険”は魔物やダンジョンだけじゃなく、平和を脅かす犯罪も含まれていると言いたかったのだろう。

「お前がコウチロウ・ツカツキか?」

 話しかけてきたのは30代に見える男だった。とはいえエルフなのでもっと年をとっているかもしれない。

 おそらく冒険者なのだろうが、奇妙なことに剣と魔法の杖、そして短弓を持っていた。なんの職業か判別できない。

「確かにそうだが」

 AAAトリプルエース級冒険者になった以上、俺のことを知っている人がいるには不思議ではない。問題はこの男が何者かだ。

「俺はマーティン・オルト。ジンヤの仲間だった男だ」

「あなたがあの!」

 クリエさんから聞いた話では、この人は〈汎用特化〉という全てのコモンスキルが使えるレアスキルを持っている。

●Tips
イモータルEX
 アカシックが考知郎に与えたC.H.E.A.T能力の一つ。ほぼ完全な不死能力を持つが、肉体が完全原子分解された場合は復活できない。
 他人に触れることで能力を一時的に伝播可能。物質に対しても使用できる。

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