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20話 責任5

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 「マーティンさん、グレントの狙いはお姫様なんですか」

「そうだ、あいつは騎士の名門ガードナー家の嫡男で姫様の婚約者だった。人類を裏切ったことで婚約は破棄されたが、そんなことお構いなしに姫様を手込めにしようとしてた」

 汚物より卑しい男という二つ名はグレントの人柄を正確に表してたようだ。

「オルトさん、敵の情報をもっと教えてください」

 距離が離れているせいかアビリティCPの副次効果で敵のスキルを調べられない。

「グレントは〈爆弾使い〉のほか、〈飛行能力〉スキルのおかげで〈飛行の魔法〉が使える。それが厄介だな」

「5年前はどうやって倒したんですか?」

「あの時も今みたいにグレントが姫様を誘拐しようとしていて、姫様自らが囮となって、空から降りてきた所をジンヤが仕留めた」

「え、お姫様が自分から!?」

 ずいぶんと怖いもの知らずだ。

「当時は12歳だったが、姫様はレアスキルの〈剣聖〉と〈心眼〉ですでに大人顔負けの実力を持っていた」

「だからと言って同じ手は使えないですね」

 マーティンさんは「当然だ」と同意する。

「王族を囮にするなんて論外だ、それに二度目はいくらグレントも警戒する。そもそも5年前の囮作戦自体、姫様が突っ走ってしまわれた結果、なし崩し的に実行しただけだ」

「なら正攻法でいきましょう」

 俺はブラスターガンを取り出す。

「それは?」

「マテリアさんが改造したマジックアイテムです。これで奴を撃ち落とします」

「出来たらで良い、急所は避けてくれ。問い詰めたいことがある」

「分かりました。それとあなたのスキルを貸してください。俺は一つだけ他人のスキルをコピーできます」

「いいぞ。存分に使ってくれ」

 マーティンさんは「そんなことが出来るのか?」と聞いてこなかった。短い時間でも俺のことをちゃんと信用してくれている証拠だ。

 俺がブラスターガンを構える。

 いざとなると緊張してきた。

 マーティンさんからコピーした〈汎用特化〉には銃の扱いに関するスキルはなかった。

 でもコモンスキルはたくさんある。その中からいくつかを組み合わせれば、蜂のように空中を飛び回っているグレントを撃ち落とせるはずだ。

 コモンスキルで使うのは〈弾道予測〉、〈観測〉、〈減衰軽減〉の3つ。

 弓や魔法の補助として使われる〈弾道予測〉と、遠くを見る望遠の魔法が使えるようになる〈観測〉を組み合わせて擬似的な狙撃術とし、威力の距離減衰を軽減する〈減衰軽減〉でブラスターガンの射程を底上げする。

 そう何度も外せない。その度に乗客の危険が増す。

 トラベラーが爆弾矢を迎撃するのも限界が来るかもしれない。

 大勢の人達の命、その重さが俺にのしかかる。

 それでもやるしか無いんだ。

 引き金を引く。

 ブラスターガンから放たれた炎の魔法:熱線の型がグレントの肩を貫いた!

「何!?」

 驚きと激痛によってグレントは魔法の制御を誤り、甲板に墜落する。

 トラベラーがすかさず自動捕縛ケーブルを放ってグレントを縛り上げた。

「くそ、なんだこのマジックアイテムは!?」

 グレントはジタバタともがく。

「久しぶりだな、グレント。ジンヤに首を刎ねられたお前がどうやって生き返ったか教えてもらうぞ」

 早速マーティンさんが尋問を始める。

「コモンスキルの品数しか取り柄のないクズエルフが俺に向かってイキってんじゃねえ!」

 騎士風の身なりだと言うのにグレントの振る舞いは完全にチンピラのそれだ。こんな奴がお姫様の婚約者に選ばれたのだから、公の場で自分の本性を隠すのがそうとう上手かったらしい。

「話さないのならこの場で殺す」

「はっ! てめえの言いなりになるくらいなら死んだほうがマシだね」

 グレントの啖呵にマーティンさんが訝しむ。

「お前、変わったな。5年前ならどんなにみっともなくとも意地汚く生き残ろうとしていたのに」

「そりゃそうさ。命が一つしかなかったら大事にするのは当然だろ。だが、今は違う」

 グレントがニヤリを笑った瞬間、突然トラベラーがやつを蹴り飛ばして船の外へとふっとばした。

 放物線を描きながらグレントの体が落水すると、その直後に凄まじい衝撃とともに巨大な水柱が噴出した。

 船が激しく揺さぶられ、乗客たちが次々と転倒する。俺やトラベラー、マーティンさんたちはかろうじて体勢を保てた。

「間一髪でしたね」

「ああ……グレントが自爆するってよく分かったな」

「彼は自分の命が複数あるような事を口にしました。ならば、自分を爆弾化して自爆すると思ったのです」

 なんて判断力だ。イレギュラーGUで様々な経験を数百倍の効率で吸収できる俺はだいぶ成長したつもりだったが、それでもトラベラーに届かない部分があると痛感させられる。

「ともかく、グレントが復活してまた襲ってくるかもしれません、警戒は怠らないほうが良いでしょう」

 トラベラーの言葉に従い、俺達は海面を鋭く見渡すが、しかしやつが姿を表す気配はなかった。

「やっぱり死んだのかな?」

 俺の独り言にマーティンさんが反論する。

「いや、生き意地に汚いグレントが自爆攻撃したんだ。絶対に死なずに済む手段を用意している」

 しかし生き返っているなら、どうしてもう一度襲ってこないのだろうか?

「もしかすると、復活できる場所が決まっているのかもしれません」

 トラベラーが弓を構えて海を警戒しながら言う。

「というと?」

「例えば、予備の肉体をどこかに用意し、死亡したら記憶をそれに転送する形で復活している可能性が考えられます」

 予備の肉体、つまりクローンか。ゲームみたいに死んでもスタート地点からやり直せるなら、捕まっても強気な態度はうなずける。

 それからも警戒を続けていると、なにやら騒がしい男女の声が聞こえてきた。

「どうかご自愛ください! 敵の狙いは姫様なのですよ! 先程の衝撃の事もありますから、どうかお部屋にお戻りください」

「ならばなおのことわたくしが前に出るべきです! 大丈夫、私は5年前よりも強くなりました。ジンヤ様がいらっしゃらなくとも、悪党一人くらい返り討ちにします!」

 男の声はルドルフだ。

 なら女の声はお姫様なんだろうが……どっかで聞いたことがあるような……デジャブかな?

「ええい! 離しなさい!」

「不敬罪で斬首されようと、あなたを力ずくでお止めいたします!」

 声がするほうを見ると、ルドフルに腕を掴まれているお姫様の姿があった。

 お姫様と俺の目が合う。

「あ……」

 お姫様が俺を見て「しまった」という顔をする

 あれれー? おっかしーなー。俺、お姫様とは初対面のはずなのにすっげー見覚えがあるぞー。

 というかマテリアさんのところで会ったジェーンじゃないか! この国のお姫様だったんかい!!

●Tips
グレント・ガードナー
 第2の魔王軍の一人で、汚物より卑しい男の二つ名で忌み嫌われているネモッド。
 〈飛行能力〉と〈爆弾使い〉のレアスキルを持つ。
 グレントはこれらのレアスキルを使い、安全な上空から敵を爆撃する戦法を得意としていた。
 本性を表す前は、第1王女の婚約者だった。
 ガードナー家は騎士の名門だったが、グレントによってその権威は地に落ちた。

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