勝つのは剣か、それとも魔法か

 廃墟となった城の一室。魔法使いは杖を窓の外に向けていた。遠見の魔法による視線の先には中庭を歩く剣士の姿があった。彼が今回の標的だ。もう少しで魔法の射程に入る。
 
 あと5歩、4歩、3歩…‥

 今!
 
 杖から放たれる熱線! 矢よりも速い弾速を避ける者などいないだろう。
 
 瞬間、剣士は尋常ならざる反応で、抜剣と同時に熱線を弾き飛ばした。あらぬ方向に跳んでいった魔法は苔だらけになった石像を貫く。

 射撃方向から剣士は魔法使いの居場所を見抜いた。中庭を疾走し、城の壁面を尋常ならざる身体能力で駆け上がる。
 
 剣士が窓から室内へ突入した直後、中で待ち構えていた魔法使いは大量の魔力弾を杖から連射する。剣士が弾ききれないほどの手数で攻める目論見であったが、敵の技量はそれを遥かに上回った。
 
 剣士による絶後の剣術は魔力弾をことごとく弾く。そして攻撃が途切れた一瞬、剣士は瞬間移動めいた速度で間合いを詰めて敵を切り捨てた。
 
 魔法使いがカランコロンと倒れる。その体は木製であった。魔法使い本人ではなく、人形に魔力を分け与えた分身である。
 
 魔法使い本人は別の場所ですでに攻撃準備を終えてた。杖の先から一抱えはある火球が放たれ、窓から剣士がいる部屋に飛び込んで爆発する!
 
 魔法使いは剣士の死を確認しに向かう。この作戦のために、あの部屋は窓以外の出入り口全てを封じている。ならば剣士の死は確実だが、警戒するその様は勝利者のそれではない。敵の死体を見るまで戦いは終わらないという表情だ。

 一方、剣士は先程までいた部屋の下層階にいた。火球が部屋に飛び込む直前、足元の石床を剣で切り抜いて逃れていたのだ。
 
 この状況、敵は剣士が死んだと思うだろう。その油断をついて接近する。剣士はそれを狙いつつも、心のなかでは敵に油断は無いとしている。敵は油断していると思いこむのは自らの油断だ。
 
 剣士と魔法使いの距離は徐々に狭まっている。
 
 勝つのは剣か、それとも魔法か。
 
【続く】

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