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第11話 R.I.O.T.ラボラトリーの伝説

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 最初に目に入ったのは、荒れ果てた廃村だった。おそらく、ここに住み込みで働く者達のために、地上の自然を再現した居住エリアなのであろうが、人の管理を離れてしまった今となっては草木が全て枯れ果て、地面はひび割れて乾き、民家はことごとく廃墟となっている。
 おばけが出てきそうと考えながら奥へ進んでいると、突然白骨死体が現れた。

「きゃ!」

 思わず悲鳴を上げてしまう。
 よく見るとあちこちに死体があった。定命族と不老族は骨と化し、機人族はサビまみれになっている。
 おそらくここで戦いがあったのだろう。武器を持ったまま命を落としたものもいる。
 更に先へと進むと、居住エリアを貫く巨大な柱があった。柱の内部にはエレベーターがあり、案内板を見る限りでは研究員たちはこれを使ってここから研究エリアへと出勤しているようだ。
 ピジョンブラッドは呼び出しボタンを押して見るが、一切反応がない。

『ウィリアムだ。遠隔で君をモニタリングしている。まずは電力を復旧させる必要があるな』

 通信の後、メニューデバイスを見るとクエストの達成目標が更新され、『動力室に到達する』と表示される。
 動力室がどこにあるのかはわからなかったが、幸いにもさほど迷わずに発見できた。入り口からエレベーター塔を挟んで反対側の扉の先だ。
 動力室もこれまでと同様で、戦いの痕跡があった。犠牲者の遺体も機人族が一人だけあった。
 動力室の中央には3メートルほどの円柱が鎮座しており、人の頭ほどはある水晶玉が均等に埋め込まれていた。ピジョンブラッドはその水晶玉に見覚えがある。魔力エンジンだ。サイズの違いはあれど、この世界の機械は基本的にこの水晶玉から生み出される魔力によって動作する。

『破損した魔力エンジンを交換すれば復旧できそうだな。周囲に予備がないか探してみるといい』

 ウィリアムの言葉に従い、ピジョンブラッドは動力室倉庫にある予備を持ってきて、割れた魔力エンジンと交換する。魔力を生み出す水晶はずっしりとしておもそうだが、今は無重力なので楽々と運べた
 部品交換を終えて動力炉を再起動させると、重く低い音とともに照明の明かりが復旧した。
 合わせて人工重力も発生する。無重力というのは現実ではまず体験できないので楽しかったのは確かだが、しっかりと《《立っている》》感覚が戻ってくるとホッとした気分になる。
 背後で足音が聞こえた瞬間、ピジョンブラッドは一時の安堵から引き戻される。すばやくマジックセーバーを抜きつつ振り返ると、目の前には全身サビだらけの機人族が立っていた。
 彼に見覚えがあった。先程まで近くに倒れていた機人族の遺体だ。

『なんだ?! 何が起こっている?! 死体が、勝手に動き出しただと!?』

 機人族のゾンビ! 彼はうめき声を上げながらふらついた足取りで近づいてくる。ピジョンブラッドの視界にはネクロボット・レベル70と表示されていた。
 動力炉の再起動を契機《フラグ》に動き出したのだろう。
 ネクロボットはどこからか持ってきた鉄パイプをやたらめったら振り回して襲いかかってくる。
 相手を見据えた攻撃とは言い難く、ピジョンブラッドはあっさりとネクロボットの胸にセーバーを突き刺す。
 致命傷を受けたネクロボットは小さくうめき声を上げて倒れる。
 あまりのあっけなさにピジョンブラッドは違和感を覚えた。一握りのプレイヤーしかクリアできないほどの高難易度クエストに登場する敵キャラクターとは思えない弱さだ。
 怪しんだピジョンブラッドは、構えを解くことなくたった今倒したネクロボットを警戒する。

 その警戒は正しかった。ネクロボットは見えない糸で引っ張られるかのように起き上がると、再びピジョンブラッドに襲いかかってきたのだ。
 もう一度切り伏せる。しかし、またしても立ち上がった。
 倒すのに特別な手順が必要か、あるいはそもそも倒すこと自体が不可能な敵のようだ。ピジョンブラッドはまともに戦うのを諦め、ネクロボットを足払いで転倒させた後、速やかに動力室から出ていった。
 居住エリアに戻ると先ほどとはうって変わって光に満ち溢れていた。天井を見ると、日光を再現した電灯の他、青空を映し出すディスプレイがある。閉鎖空間で生活するストレスを緩和するためだろう。
 動力室同様、ここでも機人族の遺体がネクロボットとして動き出しており、ピジョンブラッドの姿を見るやいなや、おどろおどろしいうめき声を上げながら襲いかかってくる。

『完全な不死身など科学的にも魔法的にもありえない! よく観察するんだ。きっと何かからくりがあるに違いない!』

 ウィリアムからの助言を聞き、何体ものネクロボットからの攻撃を捌きつつ観察してみると、体から薄っすらと赤い光を放つ糸が伸びていた。それらはすべて同じ方向から来ている。

「あ! もしかして!」

 一つのひらめきを得たピジョンブラッドは、糸の先へ向かう。
 スラスターを最大推力で吹かし、居住エリアを弾丸のように飛ぶピジョンブラッド。時折ネクロボットが進行方向上に立ちはだかるが、強引に体当たりで弾き飛ばしていく。
 そうして赤い糸をたどっていき、倒壊した民家の中に潜んでいる敵を発見した。
 上半身だけの体で宙に浮き、血で染めたようなボロ布をまとっている姿の敵の指からは、ネクロボットから伸びていた糸がつながっている。
 視界に表示される名前はネクロマンサー:レベル70とある。このMエネミーが機人族の死体を操っていたのだと、ピジョンブラッドは直感的に確信する。
 ネクロマンサーがピジョンブラッドの姿に気がつくが、その時点ですでに彼女はマジックセーバーで敵を切り捨てていた。ネクロボットを操るだけの力しかなかったようで、致命的弱点を攻撃しなくとも一撃で倒せた。
 離れたところから、けたたましい金属音が聞こえてくる。戻って確かめてみると、ネクロボットたちが動かなくなっており、生きる屍の呪縛から開放されていた。経験値も取得できているので、倒せたと見て良いだろう。

 後はエレベーターに乗り込めば良いのだが、電力が戻って明るくなった居住エリアをいちおう探索することにした。もしかすると何らかのアイテムがあるかもしれないからだ。
 ピジョンブラッドは家屋の中を一つ一つ調べる。地味だが案外こういうのは楽しい。
 予想通りいくつかのアイテムが手に入った。大抵が回復アイテムなどの消耗品であるのだが、超高難易度クエストだけあって単なる消耗品でもかなりの質だった。パーティー全員のHPを全回復、パーティー内で戦闘不能となった者を全員復活させるなどなど、買うにしても作るにしても、かなり高価なものばかりだ。
 一通り探索を終えたピジョンブラッドは改めてエレベーターに乗り込む。
 この先の研究エリアでもネクロマンサーとネクロボットが待ち構えているのだろうか。そんなことを考えていると、天井から物音が聞こえてきた。

 何かが上に乗っている。

 そう思った直後に天井を突き破って黒い刃が襲いかかる!
 ピジョンブラッドはとっさに避けるも、刃は右腕をわずかにかすめる。

「そんな!?」

 ピジョンブラッドは自分のHPを見て思わず叫んだ。ほんのかすめただけなのにHPはごっそりと減って、たったの1ポイントを残すのみだったからだ。
 襲撃者は即座に黒い刃を引き抜いて、再び天井ごとピジョンブラッドを突き刺そうとする。
 エレベーターはまだ止まる様子はない。狭い室内でピジョンブラッドは姿が見えない敵の攻撃を躱さなければならなかった。それも刃に全く触れず完璧にだ。
 二撃目を回避する。実力半分、運半分といったところだ。
 三撃目。まぐれなどではない。
 四撃目! ピジョンブラッドはすでに相手の攻撃の呼吸を見抜いている!
 回避と同時にマジックセーバーを突き上げて襲撃者へ反撃する!
 エレベーターシャフト内に響き渡る耳をつんざく金切り声!
 天井越しで姿が見えないため、急所にあたったのかわからないが、少なくとも撃退することには成功したようだ。襲撃者の気配は消えている。
 エレベーターが止まる。扉の先で待ち伏せされていないかと警戒していたが、敵の姿はなかった。
 ひとまずエレベーターから出たピジョンブラッドは、回復アイテムを取り出してHPを全快させる。

「『スーパーガッツ』の技能を取っていなかったらあそこでクエスト失敗だったわね……」

 これが現実世界ならば冷や汗をかいていたことだろう。
 『スーパーガッツ』はHPが1割以上残っている場合に限り、戦闘不能となるような大ダメージを受けても、1ポイント残して耐える効果を持つ技能だ。ピジョンブラッドはヘレナ戦で一撃死したことを受けて取得していた。
 あの黒い刃にほんの少し触れただけで即死級の大ダメージを受けた。あの敵は、攻撃力が上限まで設定されているか、あるいはこちらの防御力を無視してダメージを与えてくるのか、もしくはその両方だ。
 最初の重要クエストで戦ったアンソニーを思い出す。あのときは攻撃から身を隠すための遮蔽物が十分にあったのでさほど危険ではなかった。今回はエレベーター内という極めて狭い場所での攻撃。多くのプレイヤーがここで倒されたのは容易に想像がつく。
 数名しかクリアできていない超高難易度クエストであることを、ようやく肌で実感できた。
 あの敵の攻撃は決して受けてはならない。それが大前提だ。『スーパーガッツ』で一撃だけ耐えられたとしても、即座に次の攻撃を受けてしまえば意味はない。回復タイミングもそうそうないだろう。

 頼れる仲間も、助言を請う上級者もいない。すべて自力でなんとかしなければならないのだ。
 改めて覚悟を決めたピジョンブラッドは周囲を見渡す。
 再び闇だ。見えるのは、ヘルメットのライトが照らす範囲のみ。電源を復旧させてもなお暗いままなのは、天井の照明がすべて破壊されているためだ。
 よく観察してみると戦闘の余波で壊れたとは思えなかった。少しは破壊を免れたものがあってもおかしくないのに、無数にある照明は一つ残らず破壊されている。
 まるで光を嫌う何者かが一つ一つ漏れなく壊していったかのように思える。
 何れにせよ暗闇の中は危険だ。ピジョンブラッドは慎重に、特に物音に注意しながら研究エリアの探索を開始する。
 研究エリアの探索を始めてしばらくすると、またしてもネクロマンサーとそれに操られるネクロボットたちが襲いかかってきた。
 居住エリアにいるネクロマンサーはたった一体だったが、ここでは複数いた。それに比例してネクロボットたちの数も大きく増えている。

 真正面から戦えば問題なく倒せる相手だが、ピジョンブラッドは今まさに苦戦していた。
 背中に軽い衝撃が走るとともにHPが減ったのを見たピジョンブラッドは、振り向きざまにマジックセーバーを振るった。
 尖った金属片をナイフ代わりに持ったネクロボットがレーザー刃を受けて倒れる。すぐに復活するだろうから、ピジョンブラッドは残心を省略してまでこの場から離れることを優先した。
 研究エリアは照明が破壊されて暗い上に、身を隠せるような遮蔽物が多い。結果、今のように背後を取られてしまうのだ。
 ネクロボットから伸びている赤い糸をたどりながら、ピジョンブラッドは腰に下げていたメディカルライトを使ってHPを回復させる。
 一握りのプレイヤーのみがクリアできるだけあって、今までよりもずっと困難なクエストだ。敵の強さよりも、たった一人で挑戦しなければならないことが辛い。
 誰かがいてくれれば、特にスティールフィストがいればと思わずにはいられない。彼がいればどれほど心強いか、と。
 それではだめだと、ピジョンブラッドは自分の考えを振り払う。何でもかんでも他人に頼るのは良くない。

 偶然にもソロ専用クエストの挑戦権を得られたのはちょうど良い機会だった。クロスポイントの仲間たちのおかげでトントン拍子にゲームを進められたが、ではそういった助力を除いた己の力量はどこまでのものか。ピジョンブラッドはこのクエストを通じて、自分の実力を見定めたいと思っていた。
 クロスポイントの人たちは本当に親切だ。右も左も分からない新参者の手助けなど面倒なはずなのに、嫌がる素振りを見せることなく率先して助けてくれた。
 だが、それに甘えるべきではないとピジョンブラッドは理解していた。他人の善意に甘えすぎて堕落すれば、善意はたやすく嫌悪感へと変わる。
 ゲームとはいえ、それでも人間関係であることには変わりない。せっかく得られた新しい友人たちなのだ。1日でも長く良い関係を維持していきたい。
 それだけではないと、ピジョンブラッドは自分自身に言う。何よりも一番に嫌われたくないのはスティールフィストなのだ。たった今、誰かがいてくれればと思ったとき、真っ先に思い浮かべた人は彼だったではないか。

 スティールフィストに助けられっぱなしの初心者から抜け出さなくてはならない。今まで一番助けてくれた彼に対して、対等なプレイヤーになりたいとピジョンブラッドは願った。彼が困っているときに手を貸せるほどのプレイヤーに。
 通路の角を曲がった先にネクロマンサーがいた。敵の姿を見たピジョンブラッドは考え事をやめ、気持ちを即座に戦いに向ける。
 ネクロマンサーがピジョンブラッドに気がついたとき、すでに彼女はスラスターの噴出光をきらめかせながら懐に飛び込んでいた。
 マジックセーバーの刃がネクロマンサーを貫く。
 HPをすべて失ったネクロマンサーの体は、その両手から伸びている赤い糸と共に消滅した。この周囲にいるネクロボットも活動を止めていることだろう。
 敵を倒した後、ピジョンブラッドはここは他とは様子が違うことに気がつく。ガラス窓の先には、広大な空間があった。
 居住エリアで手に入れた地図を確認すると、そこには「無重力組み立て場」とあった。ガラスの先を見れば未完成の宇宙船とその部品と思しき資材が宙に浮いる。大きくて重たいものを楽に組み立てるために人工重力をかけていないのだろう。
 内部で宇宙船を作れてしまう宇宙船。ピジョンブラッドはR.I.O.T.ラボラトリーの大きさをあらためて実感した。

 研究エリアの中でまだ探索していない場所は、組み立て場を通り過ぎなければならなかった。各所に隔壁が降りているせいで通過できる場所が限られているのだ。
 無重力の場所へ来たことで再び浮遊感がピジョンブラッドを包み込んだ。
 加速しすぎないよう慎重にスラスターの推力を調整し、組み立て場の反対側にある扉を目指す。
 ピジョンブラッドが未完成の宇宙船の前を通り過ぎようとしたとき、異変が起きた。
 バキバキとけたたましい音を立てながら、宇宙船が見えない力によってねじ切られたのだ!
 そして、宇宙船の中から敵が姿を現す。
 それはクラゲのような半透明の体を持ち、額と胸のそれぞれに真っ赤な玉があるのみで、それ以外はなにもない。生き物というよりも、実体を得た幽霊のような印象を受ける。
 ピジョンブラッドの視界にはポルターガイスト:レベル73と表示されていた。

『気をつけろ! 記録にないMエネミーだ!』

 ウィリアムが警告の声を発する。
 ポルターガイストが腕を振るうと、それに合わせるかのように周囲の資材や宇宙船の残骸が動き出し、明確な敵意を宿して襲いかかってきた。
 飛来してくる物体はどれもさほど早くはないが、厄介なのはその大きさだ。どれも人の数倍は大きく、十分に距離を取らなければ回避はこんなんだろう。
 だが、ピジョンブラッドはその逆をいった。自分から飛来してくる物体へ距離を詰めたのだ。
 激突の瞬間、紙一重で飛来物を躱すだけでなく、それを足場として蹴る。
 スラスターの推進力と飛来物を蹴った脚力が合わさり、ピジョンブラッドはさらに加速する。
 マジックセーバーを構えながら突進する彼女は矢となって、ポルターガイストに突き刺さる!
 白いレーザーの刃は、胸部にある方の赤い玉を貫いていた。
 ポルターガイストはどこに口があるかわからぬが、絹を引き裂くような悲鳴をあげる。
 直感的にそこが弱点であると思っていたが、予想通りだった。
 ピジョンブラッドは刃を突き刺した状態からマジックセーバーを振り上げ、そのまま頭部にある赤い玉も攻撃しようとする。

 しかし、敵もやられたままではなかった!

 ポルターガイストが体から発した衝撃波でピジョンブラッドは突き飛ばされてしまう。
 ダメージは2割程度だが、無重力空間で衝撃波を受けてしまったことで彼女の体は激しく回転してバランスを完全に失っていた。
 急ぎスラスターでバランスをとる。体勢を立て直すのには成功したが、壁際まで飛ばされて敵との間合いが完全に開いてしまった。
 スラスター全開で突進しようとしたその時、ピジョンブラッドは再びけたたましい音を耳にする。
 宇宙船の外装がひとりでに形を変えていく。ポルターガイストが念力によって加工しているのだ。薄く鋭いその形をみたピジョンブラッドは刃という以外の言葉が見つからなかった。
 作り出された刃の数は4つ。刃渡りは1メートルもあるそれは、人をやすやすと両断するだろう。ポルターガイストは巨大な武器とともに襲いかかってきた。
 組み立て場の中央に静止し、念力で物体を操っていた先ほどとは打って変わって、ポルターガイストも刃とともにこちらに向かってくる。おそらくは操る物体が自分に近いほど、正確かつ素早く操れるのだろう。相当な重量であるはずの刃は、羽のように軽やかさで襲いかかってくる。

 尋常ならざる四刀流を相手に、ピジョンブラッドはたった一本のマジックセーバーでかろうじて凌いでいた。防戦一方、これは攻めへ転じるための必要な辛抱だ。
 四方からの同時攻撃。機関銃のような連続突き。二本の刃をハサミのように交差させての首切り。手裏剣のように刃を投擲。ピジョンブラッドは敵がすべての攻撃パターンを出し切るまで耐えた。
 一番危険なのは首切り攻撃だ。受ければ致命的弱点を攻撃されたと判定されて即死する。この場合は『スーパーガッツ』が適応されないので、一撃たりとも受けてはならない。
 しかし、その攻撃こそが唯一の勝機につながっていることをピジョンブラッドは見抜いている。首切り攻撃は刃を二本しか使わず、残りは一切動かない。紙一重の回避が成功すれば攻撃のチャンスを得られるだろう。
 他の攻撃をしのぎ、目当ての攻撃を繰り出してくるのを待つ。
 ポルターガイストが刃を交差させた。首切り攻撃だ!
 ギリギリまで引きつけて、ピジョンブラッドは紙一重で躱す!
 ほんの数ミリの距離で刃がかすめ、心臓が止まりそうなほどヒヤリとした。

 首切り攻撃が不発に終わったポルターガイストは、次に四方からの同時攻撃を繰り出してきた。すでに懐へ深く飛び込んでいるピジョンブラッドはこの攻撃を防御できないが、その必要はない。
 4つの刃で切り裂かれる前に、彼女のマジックセーバーはすでに二つ目の赤い玉を貫いていた。
 ポルターガイストは悲鳴のような怪音を発し、半透明の体が内側から破裂して四散する。
 緊張から解き放たれたピジョンブラッドは深く息を吐く。
 高ぶった気持ちを落ち着かせてから、入ってきたところから反対側にある扉をくぐって組み立て場を出る。
 出た先にはアイテムボックスがあった。おそらくポルターガイストを倒した報酬だろう。中身を検めると、けっこうな量の装備品用素材が手に入った。どれもかなり希少で、ステンレスならばこれで最高品質である伝説等級の装備を作れるだろう。


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