８話 出会い３

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　クリエさんに紹介されたマテリア・マテルが住むヤルリンゴという名の街は、一言で表すなら迷宮で栄えた街だ。

　ヤルリンゴは冒険者相手に地下迷宮の入口付近で商売する屋台から始まった。

　ここの迷宮の魔物は決して外に出てこないのもあって、やがて迷宮の入り口の周囲に人々が住むようになる。

　そして街は同心円上に発展し、上から見るとまるで木の年輪のようだと言う。

　そんな歴史を持つためか他の街よりもはるかに多くの冒険者を見かける。

　クリエさんからの話ではマテリアさんは〈鑑定〉スキルなしでアイテムの鑑定ができるほどの知識を持っているという。

　この人なら壊れたままの魔法の杖を直せるかもしれない。

　さて、クリエさんから聞いた話ではこの辺りなんだが……

　程なくして「マテル魔具堂。鑑定、修理も請け負います」と看板を掲げた建物を見つけた。

「貴様！　何をしている！！」

　店に近づこうとした時、背後から怒鳴り声が聞こえた。

　振り向くとヤバい目つきをした聖職者風の男達がいた。

「あんた達、誰？」

「見て分からぬか！　ご覧の通りスキル教の聖職者だ！」

　スキル教、確かアカシックのガイドブックに書いてあったな。人々にスキルをもたらした女神を信奉するアドル大陸で唯一の宗教だ。

　そういえば、こいつらの服に刺繍されたスキル教の紋章、ちょっと違わないか？　ええっと、ガイドブックになにか書いてあったような気がするが、すぐに思い出せない。

　それに周囲の人々達が彼らを見る目はどう見ても聖職者へのものではい。

「やばいぞ、あいつら管理派だ」

「怖いわ～、発狂重篤信奉者よ」

「兵士はまだか」

　周囲の人々達は怯えた様子で彼らを遠巻きに見てる。

　思い出した、確かスキル教には主流派とは別の派閥があるんだ。

　こいつらは管理派だ。人々がどんなスキルを持つのか管理し適切な仕事を割り振るのが神の望みであるとしている。

　適材適所といえば聞こえは良いが、実態は人生選択の自由が一切ない暗黒管理社会の実現を目指してる宗教テロリストだ。

　スキル教の主流派も連中の所業にはほとほと困り果ててるとか。

「改めて問う！　貴様、何をしている」

　リーダーの男が馬鹿でかい声を出す。

「何ってあの店に用があるんだが」

「あそこはスキルを使わずに鑑定する異端者の住処だ！　さては貴様も異端だな！」

「大変です！　この男、スキルがありません！」

「なぁ～にぃ～！？」

　いつのまにか〈神の瞳〉で俺をスキャンした仲間の言葉を聞き、リーダーの男からますます理性が失われる。

「スキル無しなど異端中の異端！　まずはこいつを血祭りにあげる！　これは聖戦である！　信仰を受け入れよ！」

　連中は懐から紙包みを取り出すと、中にある粉薬を鼻から吸った。

「ああ、イイッ！　凄くイイッ！」

「信仰心がキマるぜ～！」

「はい、女神様！　あなたのお言葉のままに！」

　ただでさえ正気を失った連中の目はさらに狂気を増していく。幻覚を見てるやつすらいた。

　やべぇ……やべぇよこいつら。

　俺がドン引きしていると連中の体に異変が生じた。

　連中の筋肉が急速に発達し、上着が弾け跳ぶ。

「見たか！　これこそ聖女が作りし神薬！　我々の〈筋力強化〉スキルがより高まった！」

　どうやら連中の異変はそれが理由か。

　筋肉の塊と化した発狂重篤信奉者たちが俺に襲いかかる。

　だがいくら体を強くしたところで、使い方が上手くなくちゃ意味がない。

　クリエさんの指導を受けた俺は、連中の動きが無駄だらけだとはっきり分かる。

「死ね！」

　メイスを振り上げて襲いかかる一人目の膝に回し蹴りを叩き込む。強烈な衝撃を加えられたそいつは、車輪のように回転して地面に叩きつけられた。

「天誅ー！」

　俺は薙ぎ払われる戦斧の下をくぐり抜けなが間合いを詰め、真下からの掌底を顎に叩きつける。

「ひゃっはぁ！　合法殺人だ！」

　最後の一人は短剣を腰だめに構えて突進してくる。

　俺は鞘に収めたままの剣を手首に叩きつけて短剣を落とさせた後、こめかみに回し蹴りを叩き込んだ。

　決着はあっさりとついた。発狂重篤信奉者は全員気絶している。

　しばらくすると騒ぎを聞きつけた兵士がやってきた。その頃には神薬の効果が切れたのか、発狂重篤信奉者たちの筋肉はしぼんでいる。

「離せー！　離せー！　我々は聖職者だぞ！」

「やかましい！　変な粉吸ってラリってる聖職者がどこにいる！」

　意識を取り戻した発狂重篤信奉者が暴れだすが、既に縛られているのでただの悪あがきだ。

「協力に感謝する！」

　兵士は俺に敬礼したあと、発狂重篤信奉者たちを連行していった。

　やれやれ無駄な時間を食ってしまった。早くマテリアさんに会わないと。

「ごめんください」

「いらっしゃい」

　店にいる彼はドワーフにしては高身長で細マッチョな体型をしている。ヒゲをきれいに剃ってしまえば、すこし背の低いネモッドに見えてしまうだろう。

「あなたがマテリアさんですか？」

「ああそうだよ。僕がミスリルの誕生石を持つマテリア・マテルだ」

「さっきのは店の中から見物させてもらったが、かなりの腕だね」

「師匠が良かったので」

「クリエのことかな？」

　マテリアさんの視線は俺の腰にある仁也さんの魔剣に注がれていた。

「ええ、彼女からの紹介であなたを訪ねてきました」

　俺が紹介状を渡すとマテリアさんはその場で目を通す。

「コウチロウか。まさかジンヤの親戚だったとはね。それにしても、管理派はまだ神薬を持っていたのか」

「まだ？」

「３年前に大規模な管理派の摘発運動があってね。神薬はレシピを含めて全部破棄したんだが、回収を免れたのが残っていたようだ」

「さっさとなくなってほしいものですね」

　雑談はそこそこに俺は本題に入る。

「あなたはマジックアイテムに詳しいと聞いています、これを直せるでしょうか」

　俺は魔法の杖を見せる。

「ブラスターロッドだね。保持スキルに関わらず炎の魔法：熱線の型が使えるアイテムだ。ちょっと見せてくれ」

　マテリアさんは手慣れた手つきで杖を分解して状態を確かめる。

「壊れているのは魔法を封じ込める水晶体と……おっと中にある魔力導線が切れてるね」

　俺が気づかなかった破損箇所をマテリアさんは見抜いた。専門家は違うな。

「魔力導線に関しては他のマジックアイテムから流用できるが、水晶体の方は在庫を切らしている」

「そうですか……」

　しょんぼりとした気持ちになる。マジックアイテムなんて一度壊れたらそう簡単には直らないか。

「ひとまず、水晶体が手に入るまで預かっておこうか？」

「お願いします」

　俺はブラスターロッドをマテリアさんに渡した。

　すると彼は空間に穴を開けて受け取った品を中に収納した。

「それがクリエさんの言ってた〈空間拡張〉スキルですか？」

「ああ。倉庫いらずで何かと便利だよ。昔は荷物運びにしか役に立たないクズスキル扱いされていたけど、ジンヤだけは違ったな。彼は私のスキルを仲間の命を運ぶスキルだと言ってくれたよ」

　仁也さんの言葉は正しい。冒険において持ち運べる荷物の制限がなくなるのは途方も無いメリットだ。あらゆる状況を想定したアイテムを大量に用意して、死の危険を大きく遠ざけてくれる。

　それに、武器と防具以外の荷物を持たなくて良いので、戦いでは身軽に動ける。

「ところで、俺はこの街の迷宮に挑戦しようと思うんですけど、なにか注意することはありますか？」

「そうだね。ここのは不定の迷宮と呼ばれていてアドル大陸３大迷宮の一つに数えられており、最大の特徴は毎日内部の構造が入れ替わるんだ」

「つまり、マッピングが通じないということですね」

「そのとおり。夜１０時から翌朝８時が入れ替え時間で、このとき迷宮内にいた者は一人も生きて帰っていない。体を跡形もなく分解されて、迷宮の魔物を作る材料にされてるなんて噂もある」

　何日も迷宮に潜れないのか。

「常に構造が変わる上に、探索時間も限られているせいで、不定の迷宮は発見から１００年もの間、だれも最深部に到達していない」

　それを聞いて俺はがぜんやる気が出てきた。アカシックから３つもC.H.E.A.T能力を授かっているんだ。これくらい大きな難関じゃないと。

●Tips
スキル教
　スキルをもたらした女神を信仰する宗教。ここでの女神はアカシックとは別人。
　教義は主にスキルとの向き合い方が記されている。
　女神は「スキルは人生の支えであり、人生を縛る鎖であってはならない」という言葉を残しているので、〈剣術〉スキルを持っているからと言って必ず剣士になるべきとは考えていない。
　初代教皇は■■■■の■■の一人で、彼女を女神のように心酔していた。そして彼女の功績を後世に伝えようとした結果、この宗教が生まれた。

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